抗がん剤や放射線治療で脱毛する、というのは広く知られていますが、「乳がんのホルモン療法で脱毛することがある」、また「乳がん治療によって円形脱毛症を発症することもある」というのはあまり知られていません。
今回お話を伺った野中美紀さんは、お姉さんがエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2すべてが陰性の「トリプルネガティブ乳がん」に罹患したことがきっかけで、姉妹ともに遺伝性のがん(遺伝性腫瘍)のひとつ「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」と判明。その後、野中さん自身に「ホルモン受容体陽性の乳がん」が見つかりました。
野中さんは抗がん剤(化学療法)による脱毛ではなく、⻑期間のホルモン療法で髪が脱けました。その後、円形脱毛症も発症。当時の様子を詳しくお聞きしました。
ヘアロス #21
乳がんのホルモン治療で脱毛、その後「円形脱毛症」に
2015年42歳のときに「ホルモン受容体陽性の乳がん」が見つかって、左乳房を全摘出しました。翌年、乳房再建手術を受け、その翌年に予防的措置として健康な右の乳房と卵巣・子宮をすべて摘出。予後のリスクを考えて、乳頭・乳輪を残さない選択をしました。そのため、傷は乳房のど真ん中に15センチほど残りましたが、乳頭は軟骨で、乳輪はアートメイクで再建しています。
▶野中さんの乳がん体験記事▶
乳房の全摘出手術のあと、⻑期間のホルモン治療で髪が5割くらい抜けました。ドクターにはほかの人より早く抜けたと言われました。とくにトップの分けめが薄くなり、円形脱毛症にもなりました。乳がんの進行を抑えるホルモン療法ですが、ホルモンバランスが乱れることで、また免疫系のバランスが崩れることで、治療中や治療後に円形脱毛症が発症することがあるそうです。
さまざまな医療用ウィッグを試しましたが、パッと見でも”カツラ”とわかる見た目で、途方に暮れていました。悩んだ末、⻑くお世話になっていた美容師さんに相談したところ、ネットで買った似合わないウィッグをなじませてくれたり、髪型の相談に乗ってくれたんです。「大丈夫、かわいくできるよ」と言ってもらえたことで救われました。
>>がん宣告から治療を振り返って
がん宣告から治療を振り返って
正直言うと、全然受け入れていなかったなって思います。現実逃避をしてる感じ。ただ事実は事実なので、「受け入れる」というよりは「カバーしていく」。落ち込んでいるんだったら、そのことはもう考えずに、別のことをするのもいいですし。私は乳がんで胸がなくなりましたけど、「再建してきれいにしてみたい」と先を考えて探っていく。
「現実を直視しなくてもいいんじゃない」と思うんです。直視すると、過去も振り返る感じで、なんで病気になったのかとかも考えちゃう。だから「先のことを見る、考える」ようにはしましたね。先のことって悩みにくいんです。病気だしつらいけど、現状を無視して思考を先に向けるようにしました。
>>乳がんサバイバーが語る、円形脱毛症のつらさ
がんサバイバーが語る「円形脱毛症」のつらさ
円形脱毛症は病気として捉えてもらいにくいというか、精神的なダメージが大きいことに気付いてもらいにくいです。それくらい外見の変化とメンタルは直結するところがあると思います。
正直なところ、がん治療は同情的というかサポートしなきゃみたいな風潮があるけど、円形脱毛症はないですよね。それもつらかったですね。
病気になってない人に完全に理解しろとは言えないんですけど、それこそ医療用帽子の着用に対しても理解していただけるとうれしいですよね。100%の理解はムリだと思うんですけれど「円形脱毛症で悩んでいる人もいるんだよ」と、若干の関心を持ってもらいたいなぁと思います。
「かわいそう」「大丈夫?」「お大事に」……同情じゃなく、関心を持ってもらえるほうがありがたいですね。何の病気でもそうですけど。
円形脱毛症は、美容師さんが見つけてくれました。脱毛斑が3、4個できたときも、大きめの部分ウィッグに助けられました。治療は塗り薬だけ。脱毛斑が広がるというのを受け入れて、あきらめていました。
その後1回、円形脱毛症を再発しましたが、現在は更年期の薄毛のみで、部分ウィッグを使用しています。
物理的には、夏はポタポタ汗が落ちてくるのがきつかったのですが、部分ウィッグにしてから、部分ウィッグが汗のストッパーになってくれました。
>>娘の友だちに「どうしてハゲてるの?」と聞かれて
ヘアロスのときの苦悩点
社会復帰しようと思っても、スーツ着用のOLなので仕事中は帽子をかぶれないんです。カルチャーフィットしない状況って本当に難しいですよね。ビジネスはやっぱり相互関係なので、自分がよくても相手への印象があるので、私は部分ウィッグを選択しました。
部分ウィッグに出会う前は、ふりかけるヘアパウダーを使ってました。皮膚科のドクターが、「ゴマ塩振ってるの?」みたいなことを言ったんですよ。医療者でもさすがに気持ちまではわかんないんだなぁと思いましたね。
ネットでいろんなものを調べて悩んで、半年くらい経って最後の最後に部分ウィッグにたどり着きました。そこまでが結構きつかったですよね。脱毛を隠せないし、やっぱり視線が気になる。エスカレーターなんて、本当に嫌でした。常に、周囲の視線を避けていました。
娘の友だちに「どうしてハゲてるの?」と聞かれたときはつらかったですね。子どもたちって悪気ないから平気で聞いてくるんです。「なんでだろうね」って答えていました。
>>続き>>「乳がん」サバイバーで「脱毛」「円形脱毛症」経験者が選択したアピアランスケアは?
■野中美紀
株式会社SUMIKIL代表取締役。「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」で、「ホルモン受容体陽性の乳がん」を罹患。抗がん剤(化学療法)による脱毛ではなく、⻑期間のホルモン療法で脱毛。その後、円形脱毛症も発症。自身の経験から、人毛100%の医療用ウィッグを開発、販売。受注後お客様に合わせて人気美容師がカットしてから発送するのがこだわり。HP