
もうしばらく前になりますが、8月に俳優の加藤ローサさん(40)がバラエティ番組『おしゃれクリップ』(日本テレビ系)に出演、サッカー元日本代表の松井大輔さん(44)との離婚を公表しました。
一般に離婚はやはり「大きな決断」。現在の日本ではまだまだ「子どもが育つまでは我慢するのが得」と婚姻関係を維持する人が多いのではと思います。だからこそ、子どもが自立すると同時に「卒婚」を計画する同世代が急増しているのでしょう。
「ローサ型離婚」は女性の新しいロールモデルとなるのか? いっぽうで「アンナ型再婚」に夢をみてよいのか?
そんな中、「籍は外すものの同居は続け、子どもを一緒に養育する状態を保つ」、いわば「ローサ型離婚」とでもいうべきスタイルは、険悪な関係になる前によい距離を保ち子どものメンタルを守る選択肢として今後検討する人が増える可能性があります。
いっぽうで、オトナサローネで闘病連載を続ける梅宮アンナさんが5月に公表した「アンナ型再婚」も同世代に対して「もうこの年でと思っていたけれど、私たちにはまだ次の人生がある」と希望を与えてくれました。アンナさんは闘病という共通項でより強くご主人と結びつきましたが、このように「子どもの養育を完全に終えた女性が新たな伴侶を得て再婚する」いわば「アンナ型結婚」も今後増加することは間違いありません。
立て続けに提示された新たな女性のコースモデル、「ローサ型離婚」「アンナ型再婚」ですが、いっぽうで法律の専門家からこれらを見る場合、どのような課題や検討点、注意点があるのでしょうか。
労働問題を中心に、女性と子どもの権利保全についても活動を続ける伊達有希子弁護士にお話しを伺います。
「とはいえ離婚は本当に大変なんですよ。弁護士の立場からはそう軽々には勧められない」

今年ワルシャワで開催されたショパン国際コンクールを見学した際の1枚。
伊達有希子先生、通称ゆっこ先生はこの記事の聞き手であるオトナサローネ編集部井一のママ友です。難しくなることも多い法律の話を、ママ友雑談している感じで解説していただければと思っています。さて、ゆっこ先生は労働がご専門なのですが、離婚も扱うことはあるのでしょうか?
「私の感覚で言うと『扱わない弁護士はいない』というくらいに、離婚案件を扱った弁護士は多いと思いますよ。ただ、弁護士が登場する時点でもう相当こじれた状態なんですよね。だから弁護士に離婚を取材なんかしてしまうと、これはもう、離婚おすすめ!新しい暮らしをがんばろう!なんてテンションには絶対ならないけど、ミホさん、記事はそれでいいの? 私たち、相当大変な話ばかり向き合ってますから……」
ああ、なるほど、ぐっとシブい話になるんですね、そりゃそうですよね。厚生労働省「令和5年人口動態統計(確定数)」によると
協議離婚 … 約 87 %
調停離婚 … 約 10 %
裁判離婚 … 2 %未満(裁判手続きを経た離婚)
弁護士はこのうち、調停と裁判に関与するのでしょうか? 争われるのは主に親権と養育費……?
「弁護士が協議に参加することもありますよ。協議離婚においては、親権 養育費 財産分割、主にこの3つがもめます。ローサさんの離婚でいうと、彼女は仕事をして収入を得る手段ががあるからお金の問題をそれほどクリアにしなくても、金銭的な面で妥協して離婚できたのではないかと推測します。離婚時に経済的に自立していることは女性の場合とても重要になってきます。これで話が終わってゴメンというくらいに重要です」
やっぱりそこですね。寿退社はいまやすっかり姿を消しましたが、どちらにせよ女性は稼ぎを手放してはならない、このことは子ども世代にも強く教える必要がありますね。我々の世代にしても、収入さえあれば比較的離婚しやすくなりますから、いつでも離婚できると思えばこそ冷静になり、親権が問題にならなくなる年、子どもの18歳を待つこともできると。
「お金は本当に大事。離婚しようと夫は父親ですから、子どもの養育の責任がありますが、家庭裁判所が提示する養育費の算定表は子どもの養育費としてはぎりぎりの額だと思います。そして、それ以外に自分の生活費は自分で工面しなければならない。たとえば子どもが『私立中学に進学したい』と言うならば養育費の増額を話し合い、だめなら増額調停を起こします。が、調停は互いの合意ができなければ終了。裁判になるのですが、裁判所においても子どもに特に費用がかかることを立証しなければ大きな増額を認めないのが現状です」
子どもが幼児や小学生以下であれば母親が親権を得ることが多いものの、養育費の支払いは7割が滞る
これだけ少子化が進んでいるのですから、とりわけ育児に関わる部分はどんなことも自己責任にせず、安心して子どもを産めるよう国に制度的に何とかしてほしいです。いま現在、まだまだ女性は離婚で被る経済的リスクが大きいのですね。
「はい。もうその夫と1秒たりとも一緒に生きていきたくないという気持ちはすごくよくわかるし、自分にうそをついてまで子どものために自己犠牲を続ける必要はないと私も思います。ましてや子の面前で父母の言い争いが絶えないならば、子どもの心を守るために離れてほしい。でも、どちらにせよ現状ではものすごく準備が必要です」
そもそも養育費にしても、継続的に支払われている割合は3割未満というデータがあります。養育費の取り決めを行ったのが約6割、1度以上支払いがあったのがそのうちの約6割。算定表を見ても、たとえば義務者年収 800万円・権利者年収 200万円(給与)、子2人(0〜14歳+15歳以上)で月 10〜12万円程度。実家の世話にならない限り生活が成り立たない雰囲気です。
「そう。離婚を少しでも考えるなら、夫よりも稼いでやる!くらいの気持ちで向き合う必要があります、これが弁護士の本音です。母親による虐待がある、母親が病気で子どもを監護できない、母親が子どもを置いて家を出たなどの事情がない限り、おおむね小学生以下の子どもの親権は母親側が取れることが多いのですが、母親に収入がない場合は、貯蓄がある、ご実家が面倒を見てくれる等でない限り、結局子どもに負の連鎖がいきます。そうなる未来が見えているのに、というケースもあります」
上の算定例では中学1年と高校1年というような想定ができますが、月10万ほどとなると高校を出すのが精いっぱい、実家に頼れないならば夫を身ぐるみはがすレベルの交渉をしないとならないですね。とはいえ夫も夫で生活が続くわけで、限界もあるでしょう。
「そうでなくても傷ついている女性が夫と争ってお金を確保するだなんて、とんでもなくつらいことです。私たちも女性が先々苦しむ姿を見たくない。よく『離婚したあとの女性は晴れ晴れしている』と言いますが、それはDVやモラハラなどそもそも人権が侵害されるような事態を耐えていた場合じゃないかと思うんです」
熟年離婚ならもうちょっと気楽かな? と思いきや「それも考えるべきことがある」
ですがゆっこ先生、それってローサさんのような、子どもが中学生以下でまだまだお世話の手間も生活費も教育費も必要なケースですよね。オトナサローネのメイン読者層は40代50代、例えば30歳で出産した現在50歳の女性なら第一子は20歳です。現在54歳の私は高齢出産なので子どもがゆっこ先生のお子さんと同じ中1ですが、小中学校時代の同級生はすでに育児を終えています。この世代はいわゆる熟年離婚に相当しそうなのですが、その場合はどうでしょう。
「私は個人的に熟年離婚もおすすめしていません。ぶっちゃけ『死ぬまで待って』って言ってます(笑)。仕事をして収入のある女性はいいのですが、ずっと専業主婦でいらした場合、まず年金分割といっても大した額にはならない場合もあります」
えええ、そうなの? 半分もらえると思っていました。でもいまググったら、厚生年金の合意分割でも3万円増える程度なんですね??
「年金分割の手続き自体は難しくはないのですが、その他のこと、例えば高齢者になると家を借りるのも難しいし、仕事をしたくでもパートすら見つけるのも大変になっていきます。だから死ぬまで待て、お味噌汁の味を超濃くして待ってみてはどうですかと冗談のように言うこともあります。そのくらい社会は単身者に厳しいのを私たちは見ているんです」
わあ、なんだか漠然と考えていた現実が悪い意味でクリアに見えてきた気がします。そうか、そのあとの人生のことを考えると、相当明確に経済を設計しないと厳しいのですね。
「だったら家庭内別居なり、他に家を借りるなりして、他に楽しみを見出して別々の老後をすごすなど、いろいろ方法があるのではないかとお話することも多いです。法的な離婚にはいろいろな労力がかかりますし、そのあとにも思いがけない困難が待ち受ける。それに見合うだけの未来があるのかと考えてほしいんですよね」
逆に言えば、本当に籍を外したい強い理由がある人ならば、その労力をかける分だけはっきりと、自分が離婚後はどこでどう暮らして、どう死んでいきたいかを明確に考えるべき、ということですね。あるいは長い間孤独を耐え忍んできてもうとっくに限界を越えている、他に好きな人がいるというような、「だから絶対離婚します」という理由をはっきり心に打ち立てると。
「そう、漠然とバラ色の未来を思い描かず、どうか緻密に考えてほしいんです。弁護士が応じるのも、50代を過ぎたクライアントですと相続だの何だの亡くなる話ばっかりになるんです。どれだけイヤな相手でも20年30年一緒にいられた人ですから、たとえば体を壊したときにはありがたい存在になるのかもしれませんし。たとえば家事をいっさい停止して、自分の好きに旅行でも趣味でも打ち込んで暮らしてもいいのでは、なんて、私はよくお話します。逆に、30代40代の若い人はなんとか経済面を工面して、どんどん早く離婚したほうがいいです、これからいっぱい出会いもあるから」
つづき>>>私たちにはもう「勢いで離婚」する体力がない。だからこそ緻密に「これからの50年」を考えて準備して人生をリスタートしたい



