
TOP画像:洞爺湖にて/ローグさん提供
日々が飛ぶように過ぎていくなか、自分のあり方に漠然と迷う40代50代。まるでトンネルのように横たわる五里霧中ですが、そんななか「ほんのちょっとしたトライ」で自分のあり方を捉えなおすには、「最初の一歩」に何をしてみればいいのでしょうか。
ライター野添ちかこがオトナサローネ読者にインタビューを行い、リアルな女性の人生をお届けする本シリーズ。今回は49歳のローグさんが、「こうあるべき」と自分を縛っていた思い込みから自身を解き放ち、人生を取り戻したお話をお届けします。
◾️ローグさん
東京都在住の49歳、会社員。64歳の夫と2人暮らし
結婚以来、家族優先で自分のことは後回しで
ひとり息子が地方の大学に進学したことで、夫と2人暮らしになったローグさん。あるときから「ずっと夫と子どものために生きていて、自分のことは後回しになっていたな……」と、思うようになりました。
夫のことが嫌いなわけではない。むしろ昔と変わらず、大好き。でも
「知らない間に、夫の好みに忖度して『妻として、こうあらねばならない』と、自分のことを縛っていたことに気づいたんです」
例えば、ローグさんは結婚以来、ずっと黒髪のロングヘアで、髪型を変えたことはありませんでした。
「思えば、それも夫が黒髪のロングが好きだったから。強制されたわけでもないし、高圧的な人でもないけれど、夫の望む妻でいたいと勝手に思ってしまっていたんですよね」
「私自身に戻りたい」髪の毛を切ることで気持ちも軽くなった
「自分自身という『個』でありたい!」
「私自身に戻りたい!」
それは魂の悲鳴のような、心からの叫びでした。
最初にしたのは、髪を切ったこと。そして結婚後初めて、ブリーチをして髪色を明るくしました。
「独身時代には明るい髪の色が好きだった。私、そんなことすら、忘れていたな……と思ったら、もう我慢できなくて。心が爆発しそうになって、その場で予約をとって美容院に行きました」
思えば、子どもの頃から、厳しかった親の顔色を伺い、結婚後はよき母、よき妻として振る舞おうと、自分自身をむりやり枠の中にはめ込んでいたのでした。
「家に帰ったら、夫はなんともいえない顔をして黙っていました。でも、『自分の髪くらい好きにしていいよね』って思いましたし、たぶん言葉に出して聞いたら夫も『その通りだ』って言うはずです」
「海が見たい」と向かった先で思い出した気持ち
これまで、仕事には出かけても、休日に1人で遊びに行くことはありませんでした。外泊なんて、もってのほか。ずっと、家族のために生きてきました。
「『旅行に行く』といえば、夫も子どもも快く送り出してくれたかもしれません。だけど、これも勝手に遠慮してしまっていたんです。家族に忖度して、でもそれで報われるわけでもなくて……。もうこれからは自分のために生きる時間も作らなきゃと思いました」
48歳の初夏、「海が見たい」と思い立って、千葉県の犬吠埼に1泊のひとり旅に出かけたローグさん。犬吠埼は、東宝の映画のオープニングで流れる、「荒磯に波」の映像が撮影された場所です。

犬吠の海/ローグさん提供
断崖絶壁の岬で、荒波が岩礁に当たって砕け散る勇壮な景色を眺めていたら、「荒々しい自然を感じる海が大好き……。楽しい!」という気持ちが湧き上がってきました。
「このワクワク感はなんだろう? こんな楽しいことって最近、あったかな……?」すっかり忘れていた旅心を思い出し、心の中はキラキラした気持ちに満たされていました。
「旅をするとこんなに気分が晴れ晴れとするんだ。このキラキラをもっと集めていきたい!」そう強く思ったそうです。
若い頃は旅好きだったというローグさん。
「もう20年以上前だけど、独身時代は思いつくままに沖縄やベトナムに出かけていたのです。自由気ままな旅が本当に好きだった……。こんな大切なことも、忘れていたんですね」
旅先で仕事するワーケーションの効用とは
「旅がワクワク感を連れてきてくれる」
そう実感したローグさんは、さっそく旅先で仕事をする「ワーケーション」を実践してみることにしました。ありがたいことにコロナ禍以降、勤務先はリモートワークになり、どこで仕事をしてもいい体制に変わりました。
旅館やホテルに滞在するのは経済的に負担が大きくなりますが、「ゲストハウスやドミトリーなどを利用すれば、長期滞在も可能だな」と思いを巡らせました。
契約したのは全国の施設に宿泊できるサブスクサービス。訪問する場所を選ぶ基準は、コワーキングスペース(仕事ができる場所)を併設しているかどうかです。
「自炊をすれば1泊4500円ほどで泊まることができる計算で、これなら現実的かなと思いました」
さまざまな土地でのワーケーション体験で気分もUP

人生初のドミトリー/ローグさん提供
最初に行ったのは、神奈川県・小田原のゲストハウス。次に北海道に1ヶ月ほど滞在する中で、ドミトリーにも宿泊をしました。
「二段ベッドが隙間なく部屋に押し込まれたような作りで、そこに4人泊まれるようになっていました。壁はちゃんとあるんです。足元のカーテンをめくって中に潜り込むのですが、押入れで眠るドラえもんのような気分になって、面白い体験でした」
そこを拠点に、日中は登別や室蘭まで移動して名所を見たり、温泉に入ってゆっくりしたり。夜になったらドミトリーに戻ってきて、コワーキングスペースで仕事をしました。
本編では、家族に合わせて生きてきた49歳のローグさんが、「自分らしさ」を取り戻すきっかけとなった「髪を切る」という決意と、初めてのひとり旅についてお伝えしました。
▶▶「もう我慢はしない」49歳女性が忖度だらけの人生を変えた“ワーケーション”の魅力とは
では、旅を通じて見えてきた“自分のために生きる”という新しい生き方についてお届けします。



