【五輪解説】真のワールドチャンピオンまであと一歩
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7月19日、オリンピック前最後の親善試合で対戦した両チーム。スピード、パワーに加えて、高度な戦術を持って戦うフランスの前に、0-2でなでしこは完敗していた。あらゆる局面で体を当てられ、パスを繋ぐどころか、相手にスピードで振り切られた。当時、なでしこは負荷の高いトレーニングを積んで疲労のピークにあった合宿の山場、フランスは2日間のバカンスを楽しんでリフレッシュした状態で迎えたゲームだった。両者にコンディションの差があったのも敗因のひとつだった。
しかし、フランスに対する嫌なイメージは脳裏に焼きついていたに違いない。
8月6日、準決勝で当たったフランスは、その時のイメージとは程遠かった。選手全体の動きが鈍かった。あれだけサイドから鋭い切り込みを見せた、右ウイングのトミスはさほどゴール前に入ってこない。187cmの長身ながら俊足のセンターバック・ルナールは、裏へのボールを追いかけるにもトップスピードを出せずにいた。
動きの重いフランスに対して、なでしこは序盤から積極的な攻撃で揺さぶりをかける。
たとえボールを奪われても、相手を中央に寄せてセンターバックの岩清水と熊谷がしっかりとブロックしていく。開始わずか40秒、パスカットしたトミスが上がろうとしたところで、澤が体を投げ出すようにしてボールを奪ったシーンはこの試合への執念を感じさせる場面であった。
また、なでしこはこの日、徹底してフランス対策を施していた。右サイドの近賀、宮間、ボランチの澤が連係することで、強烈なクロスを中央に入れてくる左サイドバックのボンパストル、左ウイングのティネを徹底的に押さえ込んだ。
セットプレーディフェンスに難があるフランスに対して、なでしこはしっかりと研究していたようだった。32分、宮間のフリーキックを大儀見が押し込んで先制点を挙げる。48分にも、宮間のフリーキックを阪口が頭で合わせて2点差とする。
試合終盤、ようやくエンジンのかかってきたフランスは、連続でゴールを狙いに行く。なでしこは集中力の高い守備でボールを掻き出すシーンが増える。76分、ルソメルのシュートを浴びて1点返される。なでしこの左サイドの守備のズレからの失点だった。79には、PKを献上するがキッカー・ビュサグリアが外して、同点を免れた。残り5分の時点でルナールを前線に置いてパワープレーに出られるも、なでしこは試合終了までフランスの猛攻を何とか守りきった。
オリンピックのような短期決戦では、1試合1試合をどう進めていくのかが重要になってくる。今回のように、中2日での連戦、試合会場もバラバラ、という条件では選手のコンディション管理が難しい。
フランスはグループステージでは、アメリカ戦での激闘に始まり、ターンオーバーしてもよかった北朝鮮とコロンビア戦は、ほぼフルメンバーで戦った。準々決勝のスウェーデン戦では、先制点を奪われながらも何とか2-1で勝ったが、4試合を終えた時点での主軸選手の消耗は激しかった。
一方のなでしこは、決勝までの全6試合を見据えて、ここまで戦ってきた。グループステージでは、1、2戦をフルメンバーで戦い、3戦目の南アフリカ戦では7人の控え選手を先発させてターンオーバーに充てた。4戦目ではブラジルに2-0と快勝して、勢いを持ったまま準決勝に臨んでいた。
さらになでしこは、1戦ごとに戦い方を修正してきていた。初戦から好調だったセンターバックの岩清水と熊谷の守備は、両サイドの選手との連係を高めて安定感を増した。FWの大儀見と大野も前線からの守備で汗をかきつつも、一瞬で攻撃のスイッチが入れられるような動きを磨いた。何より、澤の調子が上がってきたことで、中央でボール奪取してからの攻守の切り替えがスムーズになった。
この試合終了後、宮間は涙を見せた。大会に入ってからもあまり調子が上がらず、ミスパスも多かった。キャプテンとしてのプレッシャーが重く、精神的に苦しいこともあっただろう。しかし、念願の金メダルまであと1勝に迫ったことで、感情が堰を切ってこぼれ落ちたようだ。
宮間が昨年のW杯優勝後にずっと言い続けてきたことがある。
「オリンピックでも優勝して、W杯で世界一になったことが、まぐれではなかったことを証明したい」。
8月9日、ロンドン・ウエンブリースタジアムにて決勝戦が行われる。相手はアメリカだ。"真のワールドチャンピオン"になれるチャンスがやってきた。
[女子サッカーライター・砂坂美紀/ツイッター http://twitter.com/sunasaka1]
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