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ダルビッシュでもなく

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野球がオフになると、やはり何か寂しい。普段は気になるチームが負けると当り散らし、3~4時間もかかるスポーツにもう見るものかと後悔し、野球の時代は終ったと悪態をつく。春から秋にかけては知らず知らずに体内時計になっていた野球に、今はスパイスの欠けた料理の味気なさの気分を味わう。野球で遊び、育ち、そしてスタジアムやテレビで慣れ親しんだものは、自分が嫌ってもおいそれとは離れていかないものだ。

今年も野球の世界では色々な話題があった。いつの間にか元ヤクルト野村克也監督のID野球が取り入れられ、日本一になった巨人。巨人での指揮官を熱望していたが、ミスターとの確執で夢は実現しなかったが、野村ID野球は巨人に浸透していった。来年は尾花元ベイスターズ監督が投手コーチに復帰。巨人の野村化はますます進むだろう。
選手ではMVPの阿部慎之助。ドラフト1位入団から12年。ついに大輪を咲かせた。首位打者、打点王は優勝チームのリーダーに相応しい。しかも守備の要、捕手を努めてだ。阿部が早くから一塁手に専念していれば、歴史に残る長距離砲と思っていたが、投手リードが上達して首位打者になり一皮剥けた。今年のプロ野球全体でもMVPだろう。

メジャーではダルビッシュ有。いきなり16勝。レンジャースの地区優勝に貢献し日本中を沸かせた。しかし、最も感動を与えてくれたのはイチローだろう。昨年打率0.272で10年連続200本安打が途絶えて迎えた今シーズン。はっきり言って冴えなかった。7月23日にヤンキースに電撃移籍するが、それまでの成績は0.261だった。しかしピンストライプを着たイチローは蘇った。ヤンキースの67試合で打率0.322、出塁率0.340、長打率0.454。かっての輝きが戻ってきた。しかもこの10月で39歳になったベテランが、もっとも体力が低下する夏場、シーズン後半でこの成績。9月に限って言えば0.385の高打率で、オリオールズとの優勝争いでチーム優勝に大きな貢献をした。当初は8番や代打の起用だったが、気がつけば1番ジーターと3番アレックスの間に収まる2番として塁間を駆け回っていた。何よりもあんなにイチローが生き生きとした表情でプレーしているシーンに出会ったのは何年ぶりだろうか。比類まれなる安打製造機で数々の大リーグ記録を塗り替えてきたが、所詮は個人記録に過ぎない。チームの優勝に大きく貢献できて、これらの記録も輝きを増すのだ。この強い緊張感がイチローを蘇らせたのではないか。オリックス2年目やマリナーズ1年目に優勝の味は味わったが、ヤンキースでのプレッシャーはプロ野球人生において初めて経験するものだっただろう。プレーオフでは地区優勝戦で敗退したが、貧打のヤンキースでシリーズ17-6、0.353。相変わらず緊張感の増す中での本領発揮を見せた。

そのイチローがWBC辞退を表明。NPB選抜でも3連覇の可能性はあるが、イチローのもつリーダーシップが抜けるのはチームにとって大きなマイナスだろう。私なりに言えば、今年の日本人プロ野球選手でのMVPはイチローだ。モチベーションの人に与える大きさを伝え、復活ぶりは感動を与えてくれた。来季は日米通算4000本安打がかかる。あと116本。再びピンストライプでヤンキーススタジアムのフィールドを賑わす想像はオフの楽しみになりそうだ。

[ビハインド・ザ・ゲーム/スポーツライター・鳴門怜央]

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