中国・言論統制の実態(後)
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釈放後の6月末、脱税を理由に1,200万元以上(1億9千万円)の巨額の追徴金支払いをアイに命じた。この窮地に、ネットユーザーが立ち上がり「アイ・ウェイウェイにお金を貸そう」とSNSで呼びかけ、香港を中心に3万人以上の人々から、わずが一週間で1億2千万円が集まった。中には、お札を紙飛行機にしてアイのスタジオに投下する者もいた。これらの行為に、アイは「未来に対する美しい幻想をもたらした。香港は中国の将来の変革の大きな力になるだろう」と語った。
■表現の自由とは
アイの芸術活動は一緒くたで言い現すことが難しい。国の象徴に"中指を立て"写真撮影したり、漢の時代の歴史的価値のある壺を割ってみせるなど、その破天荒ぶりは毎度世界を驚かせている。中でも代表的な作品となっているのは2つの作品だ。一つは、「鳥の巣」と呼ばれる北京五輪のメーンスタジアムである北京国家体育館の芸術顧問として大きな役割を担った。が、政治的プロパガンダに利用されていると考え北京五輪プロジェクトから手を引くことになる。2つ目は、ギャグを織り交ぜ政治風刺した「草泥馬中央」。この作品は裸体のアイがアルパカのぬいぐるみで股間を隠しジャンプしているポートレート写真。「アルパカが真ん中を隠す」を声調を変えると「中国共産党中央」を罵る言葉となり、アイのユーモアが垣間見える作品だ。先に述べた、警察による暴力はこの作品が大きく関係していると言われている。「ヌード」はアイの芸術活動において大切な要素であり、大きな代償を払ってでもこだわりをもつエッセンスだ。過去にも、アイらの裸体を撮影した写真家がわいせつ容疑で尋問を受けている。アイの支持者らが、自分のヌードをウェブサイトに投稿し「中国政府よ、ヌードはポルノではない」と抗議した。政治的な深い意味はなく、政府は「反抗的な行為」と受け止めたのだろうとアイは当時を語った。もはやヌード云々よりも、「艾未未」という反体制者の拘束に主眼がいき、盲目になっているのだ。
■言論統制、ハリウッド進出
カナダのCBCラジオでジャッキー・チェン氏が出演し、カンフースターについて賑やかに会話が進行していた。終盤、司会者が艾未未ついての質問を投げた。ところが、ジャッキーはしかめた表情で「誰だアイウェイウェイは?俺は知らないな」とあからさまな拒否反応をしめしたのだ。アイは80年代にニューヨークを中心に活動しており、80年代に同じアメリカで活躍してきた彼が知らぬはずがなく、彼の「I don't know.」は「分かるけど、ここでは公言できない」ということなのだろうか。中国の情報・言論統制は政治の舞台だけでなく、ハリウッド進出を果たしている。
■なぜNOなのか?
アイが「表現の自由」を断固主張する姿勢は、幼いころの経験からきていた。父は著名な詩人・艾青(アイ・チン)であり、母も詩人であった。艾青は文化大革命で非難され、一家で新疆ウイグル自治区の強制収容所に送られている。幼いアイも5年間を労働改造所で暮らしており、社会から軽視される家庭で育った。思想犯として流刑された父の背中をみて育ったアイは自由思想を求めアメリカに渡っている。アイがアメリカで活動している頃に発表した詩雑誌で芸術についての考えを書き記しるしている。その一つに、「私たちはよく「なぜ?」と聞くが、芸術の中で私たちは「なぜNOなのか?」と聞くべきであり、それは理性の挑戦なのだ。」と考えを示した。彼の言葉は今でも生きている。
【参考文献】
未未 著/牧陽一 編著
「アイ・ウェイウェイ スタイル/現代中国の不良」 勉誠出版
【執筆者:王林】
《NewsCafeコラム》