自殺死亡率が低下、閉塞感は改善されたか?
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日本の年間自殺者は１９９８年の金融危機の時から、２０１１年まで１３年連続で３万人を超えていました。ピークは０３年、３万４４２７人でした。その後、増減を繰り返しながらも、０９年以降は一貫して貼り続けました。そして、東日本大震災の翌年・１２年には３万人を割りました。
自殺対策基本法が成立したのは０６年。自殺を減少させる数値目標も設定しました。その前年の０５年、自殺者数は３万２５５２人。自殺死亡率は２５.５。この自殺死亡率を２０％以上、減少させることでした。すでに、自殺死亡率の削減目標は達成しています。
大きな要因は多重債務対策がうまく機能したためではないかと私は思っています。利息制限法を改正し、グレーゾーン金利の廃止、融資の総量規制が行われました。５０代男性の自殺者が多かったのですが、この年代の自殺者が減ったことが、全体も減少しました。これによって５件以上の業者から借り入れをしている「多重債務者」が１７１万人から１２万人に減りました（「赤旗」１６年１２月１３日）。
多重債務対策は直接的には自殺対策ではありません。結果として自殺者を減らしました。もちろん、自殺未遂者対策も、大阪府などは取り組みんでいます。警察と保健所が連携し、未遂者本人の同意が得られれば、警察は未遂者を保健所につなぐことにしています。こうした水際での戦略も効果的で、都道府県別で大阪府は昨年に続いて２番目に低いのです（昨年、最も低かったのは神奈川県。一昨年は福井県）。
しかし、社会的取り組みがしやすい分野と、しにくい分野があります。無料通信アプリやSNSを使ったネットいじめについては、当事者以外に、リアルタイムにはわかりにくい。そのため、深刻な状態になるまで発覚しません。ネットがない時代ではクラスをどう運営するのか、という視点でよかった面もありますが、ネットがある時代では、クラスや学校という枠を超えたり、反面、クラスの一部だけでのコミュニティができやすい。
近年のいじめ自殺では、ネット・コミュニケーションが一因になっていることも多いのです。のちに名誉毀損で訴えることができたとしても、それまでは誹謗中傷に晒されかねません。無視するのも一つのやり方ですが、一旦、気になったりすると、頭から離れにくい。しかも、２４時間、365日、誰かがその書き込み内容を見るかもしれないという不安や恐怖も感じ始めます。これは社会的な規制をしにくい分野です。
昨年、介護自殺も取材しました。警察庁のまとめでは、１１～１５年の５年間で「介護・看病疲れ」を理由に自殺をしたのは１３７５人。自殺者全体の１％ほどですが、介護のメニュー不足が理由であれば、社会的な取り組みをしていけば良いのですが、サービスを積極的に利用する意識がどこまであるのか、家族内で特定の人物に介護負担が偏るのか、といった部分は、意識改革か家族のあり方、現実の家族関係が絡みます。そこまで介入しにくいでしょう。
デュルケムの自殺論を前提にすると、その社会の質が、自殺死亡率を決めています。自殺が急増したり、激減する時は、社会のあり方が変化したときです。自殺死亡率が下がるということは、一般に、自殺の要因が減ったためです。たしかに、自殺未遂や自傷行為をする若者たちは減っているように見聞きます。しかし、閉塞感が改善されているようには見えません。閉塞感がわかりやすい形で現れていないだけで、これまでと違った形で、急増期を迎えるかもしれません。
[執筆者:渋井哲也]
《NewsCafeゲイノウ》
