長澤まさみが共感したある人物の言葉「人生においても同じことが言える」そこから導き出した壁の乗り越え方【「スオミの話をしよう」インタビュー】
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【写真】長澤まさみ、ツインテール×濃いめメイク 雰囲気ガラリの“スオミ”役
◆長澤まさみの悲しみを乗り越えた方法
― 2022年に長澤さんに悲しみを乗り越えた方法をお伺いした際、「その時間を楽しむ」「悲しみの渦中から抜けられるときはそうしますが、できない時は無理をしない」といったことをお話してくださいました。モデルプレスの読者には壁にぶつかっている方もたくさんいるのですが、以前のインタビューから2年くらいが経って、今「これも大事だな」と思うことはありますか?
長澤:やっぱり積み重ねるしかないとは思うんですよね。自分の人生を人と比較するとどうしても「自分はここができてない」みたいな粗が自分自身で見えてきて、力がないことに落ち込んだり、競い合っちゃったり、他者がいるから生まれる感情というのはどうしても日々あるもの。自身に集中することに早く気付けるかどうかが一つ大事なことかなと思います。
だから、やるべきことに向き合って自分が成長するためにちゃんと時間を使う。これは自分だけが満足するための強引な時間ではなくて、自分がどのような成長をした姿を想像するか、将来に期待するか、という意味で、これによって時間の使い方も変わってくると思っています。なのでそういったところに向き合えれば、壁は自分のペースで必ず乗り越えることができると思います。
― 長澤さんが“成長するための時間”を取るときには、例えばどのようなことをされるのでしょうか?
長澤:私は芝居です。芝居がお仕事なので。でもお仕事じゃなくても人間関係、友達付き合いなど色々悩む瞬間はありますよね。それでも自分がどうなりたいかということに対して、どう時間を使っていくかが重要なのは、全てにおいて同じように言えると思います。
― ゴールを決めたら、そこから逆算して、目の前の今やらなきゃいけないことまで考えていくようなイメージですか?
長澤:そうです。特に仕事はやっぱりちゃんと逆算しないと時間が限られているので、逆算するようにしています。イメージするって大事だから。以前陶芸を習いに行ったときに、陶芸の先生に「どういうものを作りたいかイメージするのはすごく重要」と言われました。「イメージがないと迷っちゃって手が動かない。だから形をイメージしないと、作りたいものが作れない」とおっしゃっていて。人生においてもそれはなんか同じことが言える気がしていて。思い通りの設計で進むことはできなかったとしても、近付くことはできている。昨日より今日の自分の方が夢に近付いているというのは確実ですよね。それは時間っていうものが指し示してくれているから。
◆長澤まさみ主演「スオミの話をしよう」
三谷幸喜が「記憶にございません!」以来5年ぶりに映画監督を務めた同作。長澤はこれまで舞台・ドラマでは三谷作品に出演したことはあったが、映画では今回が初タッグとなる。そんな彼女が演じるのは、突然消えた大富豪の妻・スオミ。スオミが行方不明になったことを知り、夫が住む豪邸に集結したのは、彼女を愛した5人の男たち。しかし彼等が語る思い出の中のスオミは、見た目も性格もまるで別人のようだった。
5人の男たちを西島秀俊、松坂桃李、遠藤憲一、小林隆、坂東彌十郎の実力派が演じ、瀬戸康史、宮澤エマ、戸塚純貴ら豪華キャストが集結。三谷作品ならではのユニークな世界観を作り上げるため、撮影の約1ヶ月前から入念なリハーサルが行われた。
◆長澤まさみ、映像制作業界の変化に言及「良い流れ」
― これまでドラマや舞台では三谷監督とタッグを組まれていますが、映画では今回が初タッグとなります。改めて三谷作品の魅力を教えてください。
長澤:どのキャラクターも当て書きされていることが大前提であることが三谷さんの作品の特徴なのかなという印象があります。今までも一つの作品で何役か演じるのはやってきましたが、今回のスオミは相手によって異なる印象を与える人間であって、何役もの人を演じたわけではないんですよね。それが今までに演じたことのない役柄だなと感じました。
三谷さんはいつも、その人が今までにやってきていない役柄、さらにどのような役をあてがったらその人が輝けるかというのを1番に考えてキャラクターづくりをしてくださっているので、それを感じてこのスオミという役に対してとっても愛着が湧きました。でもそれはどのキャラクターを演じる方にも同じようにあることで、確かにこれはスオミの物語なんだけど、スオミを取り巻く人たちの物語。それぞれが主役なんですよね。そこがやっぱり三谷さんの作品のすごいところだなと思います。それぞれの役がちゃんとスポットを浴びるところが三谷作品ならではだなと思いながらやっていました。
― 映画と舞台が融合したような作品ですが、撮影はいかがでしたか?
長澤:稽古がかなり長い期間あったので、それがすごくありがたかったです。もちろんその場でぱっと瞬発力を持ってやるのもいいんですけど、やっぱり時間をかけて良いものを作るってことができたらいいなと私自身も前々から思っていたので。でもそれは周りの役者さんもおっしゃっていたし、そういう時間があるだけで全然映画の出来が変わってくる。そういう時間を持てた、そういう環境があったのは、三谷さんが今まで培ってきているものがあって、時間をかければそれだけ良いものになることがわかっているからこそだと思います。良い環境に身を置くことができました。
― ミュージカルシーンの稽古もあったかと思いますが、どのような進め方だったのでしょうか?
長澤:同時進行です。撮影終わった後にミュージカルシーンの練習に行く…みたいな、本当に芝居に没頭している「芝居漬けの日々」という感じで、すごく良い環境でした。
― 普通の映画撮影とは時間のかけ方がかなり違ったのでしょうか?
長澤:最近は監督によって稽古や台本の勉強会をする作品もあって、ディスカッションする場は増えてきていると思います。また今、映像作品を作る上では今までの形や固定概念に縛られず、どんどん開けていっている印象もあります。別にこれまでの決まりは誰が作ったわけでもないですからね。作品自体のクオリティ、完成度を上げていきたいと思っている人たちが多いのではないかなというのは感じていますし、絶対に良い流れだと思います。
◆スオミへの共感
― 台本を読んだ最初、スオミは難しい役と感じられたそうですが、具体的にどのようにスオミを作り上げていきましたか?
長澤:相手によって印象の違うスオミのキャラクターを自分なりに作って稽古に挑んだのですが、監督が求めていたのは私が最初にやってみたスオミとはまたちょっと違ったみたいで。「もう少しこういう感じなんだ」と言われたものをその都度私なりに解釈していく作業がありました。
でも人が多面的であるということは、誰もが持ち合わせている部分ですよね。皆それぞれ生きて日常生活を送っていると、大体の人は演じている自分がいる。自分の持つ違うキャラクターが必ずあるので、人によって違う顔を見せてしまうのは多くの人がスオミと共通する部分だと思います。なので、スオミのキャラクターをどう設定するというよりかは、一緒にいる人との関係性がスオミのそれぞれのキャラクターになっていったということだと思います。なので「この人とはどういうふうに時間を過ごしていたんだろう」「どういう関係なんだろう」といつも通りの役作り、向き合い方をしました。
ただそこで1番大事だったのが、「じゃあ素のスオミはどれなのか」ということです。でもきっと、草野さん(西島)と一緒にいるときが1番素のスオミに近いと思うんですよ。草野さんと一緒にいる時のスオミから、別の人と向き合ったときのスオミへの変化を同時に考えなくちゃいけなかったのがすごく複雑でした。日々課題が多くてこれでいいのかなと思うこともありましたが、今のところ自分がやれることはやれたかなと感じています。
― 逆にスオミがあそこまで変われるのがすごいなと感じました。
長澤:私はちょっとスオミに共感しちゃうところがあって。むしろ「自分を出せる人はいいな」と思いますし、自分を出せないからスオミみたいになっちゃうんだと思います。スオミは自分がないわけではないけど、自分らしくいられる、安らげる場所をずっと探している人。だからむしろ自分を出せている人というのは、すごく自由に、自信を持って生きることができている人だと思います。
◆長澤まさみ、緊張のクライマックスシーン振り返る
― 現場で台本が大きく変わることもあったそうですが、アドリブや台本から大きく変わったものが採用されたなど、印象に残っているシーンはありますか?
長澤:最後のミュージカルシーンは途中で急にやることになったんです。全然撮るつもりではなかったけど、突然クランクインする直前に言われて増えました(笑)。ほかに私のシーンで大きく何か変わることはなかったですが、でも撮影は意外とあっという間に終わっちゃって。基本的に夕方ぐらいには終わっちゃう感じでした。
― 長回しが多いにもかかわらずすごいですね…!
長澤:そうですね。でも長回しが多い分、1シーン1カットで撮り終わることも多くて毎日あっという間だったのかもしれないです。だから「これでいいのかな?大丈夫かな?」と思っていました(笑)。
― 特に印象的だった長回しがクライマックスのシーンでした。あの場面の撮影はいかがでしたか?
長澤:やっぱりすごく緊張感はありました。あの場面がこの作品の醍醐味でもあるので失敗できないというか、良いシーンにしたい想いがどうしても強くて。クライマックスのとても良いシーンなので欲が出ちゃってその分緊張感が高まっちゃったのはありましたが、結果的にすごく良い方向に進むことができたんじゃないかなと思います。
◆異例の“ドレス”に当て書き
― 5人の男性の前では衣装の雰囲気もガラリと変わり、三谷監督が衣装に当て書きするほどこだわりがあったとお伺いしました。長澤さんが印象に残っていた、お気に入りだった衣装を教えてください。
長澤:やっぱりこのロングドレスですかね(当て書きの1着)。このシーンは元々なかったんですが、突然三谷さんが「このドレス着せたい」と言って生まれたシーンだったので。
― 現場にあったそのドレスを、三谷さんがたまたま見つけられた?
長澤:そうです。「これを着せたい」となって「そんなのあるんだ」とびっくりしました。でもスオミが謎の女性だという印象をつけたかったのかもしれないです。そうやって撮影していくうちに色々な新しいイメージができていくというのは、面白いと思って演じていました。
◆長澤まさみ、三谷幸喜との再タッグで原点回帰
― 長澤さんがスオミを通じている中で、ご自身の中に新たに発見した一面はありましたか?
長澤:草野さんと一緒にいるスオミは今までやってきた芝居の中で見たことのない自分の顔が見えた気がして、このキャラクターはすごく気に入っています。
― 「今後の糧となるようなものをたくさんいただけた」とおっしゃっていましたが、具体的にどのような経験を今後に活かしていけると感じられたのでしょうか?
長澤:撮影に入る前に稽古があったことで、時間をかけて作品と向き合うことはとても重要だなと思えたし、今お芝居や作品について自分が考えていることはずれていないんだなと思えたきっかけになったので。それは原点でもあると思うんですけど、演じる上でどういうふうにそのキャラクターを肉付けしていくかは、自分が1番向き合わなきゃいけないところで。作品を知る時間はとても重要で、自分が考えている「作品との向き合い方」を大切にしていきたいと思いました。
― 貴重なお話をありがとうございました。
(modelpress編集部)
◆長澤まさみプロフィール
1987年6月3日生まれ。静岡県出身。2000年に第5回「東宝シンデレラ」オーディションにてグランプリを受賞し、映画「クロスファイア」でデビュー。2004年、映画「世界の中心で、愛をさけぶ」で第28回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞・話題賞など数々の賞を受賞。その後もドラマ・映画・舞台と幅広く活躍。2019年には映画「キングダム」で第43回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞、2020年には映画「MOTHER マザー」で、第44回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞と2年連続で受賞。近年の主な出演作はドラマ・映画「コンフィデンスマンJP」シリーズ(フジテレビ系/2018~)、ドラマ「エルピスー希望、あるいは災い一」(カンテレ・フジテレビ系/2022)、映画「シン・ウルトラマン」(2022)、「散歩する侵略者」(2017)など。
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《モデルプレス》