今回はストレス性の疾患やうつ状態、慢性的な頭痛や胃痛など体調を崩しているMさんのお話です。
夫が帰宅する時間になると体調が悪くなる
Mさんはある日キッチンで夕食の準備をしているときに、右手の震えが止まらないことに気づきました。心臓の奥から突き上げるような緊張が、体を蝕んでいる気がしたそうです。
『ここ数日、夫のが帰宅する時間が近づくと、私の体は緊張でこわばり、最近では手が震えるようになってきたのです。結婚して15年、ここまで強いストレス症状が出るのは初めてでした。
夫の足音が聞こえ玄関のドアが開くと、心臓が早鐘のようになり呼吸もできない状態になってしまいました。夫がキッチンに入ってきた瞬間、うずくまり夫の声が聞こえないように耳を塞いでいました。
夫は「ご主人様が帰ってきたのに、おかえりもなしか!」と私の体調も気にせず怒り出しました。』
Mさんは長期間の夫のモラハラ行動で、心身に支障をきたしていました。この状態は「夫原病(ふげんびょう)」と呼ばれることもあります。夫原病は、特に夫の態度や言葉によって引き起こされる妻のストレス性疾患を指します。
次のような夫の言動が、妻の心や体に大きな負担を与える原因となります。
- 否定的な発言や批判:「お前は何もできない」「お前のせいで家がめちゃくちゃだ」など、妻を否定し続ける。
- 経済的な制限:生活費の管理をすべて自分で行い、妻には最低限しか渡さない、あるいはお金の使い道を細かくチェックする。
- 支配的な態度:「これをやらないと離婚する」「お前は俺の言うことに従うべきだ」などの強制的な発言や態度。
- 無視や冷淡な態度:妻が話しかけても無視する、冷たい態度で接するなど、意図的に疎外感を与える。
これらの行動が日常的に繰り返されると、妻の自己評価が下がり、自分に自信が持てなくなります。やがて、夫と同じ空間にいるだけでストレスを感じ、体調不良を訴えるようになることも少なくありません。Mさんは夫のこれらの言動を何十年も受け続け、夫原病を発症したのです。
夫が原因で起きる体調不調は実際にあります
Mさんの夫はMさん以外の人に対しては温厚で親切な人です。仕事もでき周囲からの信頼も厚いのでも「いいご主人ですね」といつも周りの人から言われていたそうです。でも、家に戻るとまるで別人になるのです。Mさんがすることに必ずケチをつけ、少しでも夫の気に障ると怒鳴りつけられていました。
「お前、本当に役立たずだな。俺の言うことが理解できないのか?」
「そんな服で外に出るなんて、恥を知れよ」
「子供が悪いんじゃない。お前の教育が悪いんだ」
最初はMさんも反論したり、説明しようとしたりしたのです。でも、夫はどんな言葉にも耳を貸さず、鬼のような視線を向けてMさんを睨みつけるのです。ひと言でも言うと百倍になって返ってくるので、Mさんは何も反論はせずにただ夫に謝っている毎日でした。
『体調がどんどん悪くなり、医者に行っても悪いところはないと言われ、休んでいると夫に怠けていると怒鳴られ、毎日が辛く悲しい日々でした』
夫が原因で起きる夫原病によって、妻には以下のような心身の不調が現れやすくなります。
- ストレス性の身体症状:慢性的な頭痛、胃痛、めまい、動悸、不眠などが頻繁に起こります。心身が常に緊張状態にあるため、リラックスすることができません。
- 精神的なダメージ:夫の否定的な言動を受け続けることで、妻は自己価値感を失い、「自分が悪いのではないか」「自分が至らないからこんなことを言われるのでは」と自分を責めるようになります。結果として、うつ病や不安障害を発症することもあります。
- 人間関係の悪化:夫に支配されていることが原因で、友人や家族との交流が制限され、孤立感を感じることが増えます。外出の許可を得られなかったり、会話が監視されると、社会的な孤立感が深まっていきます。
- 生活の制限:経済的なモラハラにより、自由に使えるお金が制限され、好きなことを楽しむ余裕がなくなります。これにより、日常生活に楽しさを見出せず、どんどん内向的になってしまいます。
妻が具合が悪くても、夫は心配もせずに妻を責める
『ある夜、私があまりにも辛く寝込んでいると、夫が冷ややかな目を私に向け「仮病を使って俺の気を引こうとしてるんじゃないだろうな。お前みたいに、家でダラダラしているだけの奴が疲れるわけないだろう?」と言ったのです。私は胸の奥が締め付けられるように痛み、何も言い返せませんでした。体調不良も彼にとっては「甘え」でしかないのだと一人で布団の中で泣いていました。
数ヶ月前から、私の体調はどんどん悪化していきました。夜は不眠に悩まされ、胃痛や頭痛、胸の苦しさが日常的でした。夫が仕事に出かけている間だけは、私がリラックスできる時間だったのです。その間は体調は悪くないのです。でも、数時間後に夫が帰宅し、また私に対して怠けていると言うだろうと想像するだけで胃がキリキリと痛みました。私は一人で耐えるしかないのです。』
夫原病が進行すると、症状はさらに深刻化し、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。夫の存在や言葉そのものが、妻にとって強いストレスとなり、身体的にも精神的にも健康を損ないます。家の中でもリラックスできず、夫のいる時間帯には心が緊張しっぱなしという状態が続くと、最悪の場合、健康の回復が難しくなり症状がずっと続くことになります。
また、お子さんがいる場合は、母が具合が悪い状態が続くと、素直な子どもらしさがなくなることもあります。また、子供が母親が父親を怖がっていると敏感に反応し、不安定な心を抱えながら成長してしまう場合もあります。
▶この記事の【後編】を読む▶ 友人に言われてやっと自分が悪くないと気がついたMさん。ある日、夫が一泊で不在だったとき、ある真実に気づいてしまった! __▶▶▶▶▶