「仕事をがんばる=ガマンすること」と思って仕事をしていませんか? かといって「やりたい仕事」を聞かれても考えてしまう……そんな人も多いのではないでしょうか。
20代で「FIRE」(Financial Independence, Retire Early。経済的自由を達成して、早期退職をすること)を実現したヒトデ氏によれば、努力をしてFIREを達成しても、結局虚無感に苛(さい)なまれて、仕事を始める人が多いそうです。
【前編】の記事では、仕事で「幸せ感」を得るにはどうしたらよいかをご紹介しました。この【後編】では、自分の「やりたい仕事」はどうしたらみつかるのかについて、ヒトデ氏の小説『1万回生きたネコが教えてくれた 幸せなFIRE』(徳間書店)から、一部抜粋・編集してご紹介します。
〈登場人物〉●僕(佐藤智也):FIREしたいと願う25歳会社員。不思議なネコ(小鉄)を拾った。●小鉄:人間の言葉を話せるネコ。1万回目の「猫生」で出会った智也に、これまでの飼い主たちのFIREを伝える。
仕事を「職種」で決めるから、辛くなる。「やりたい仕事」はどう探す?
小鉄はソファに凜(り ん)と座りながら話を続けた。
「一朝一夕ではやりたい仕事は見つからないかもしれません。まず最も大事なのは、お金を第一に考えないことです。先程お伝えした通り、仕事というのは社会の誰かの役に立つことで、その結果としてもらえるのがお金です。この前提を間違えてはいけません」
小鉄の言っていることを理解できている自分がいた。正直、まだ「仕事はお金を得るための手段」という思い込みは消えないけれど、社会への価値提供の対価がお金ということは間違いのない事実だろう。
「もしFIREして3年くらい好きに遊んだあとに、結局どんなことをやるだろうかと考えるのがひとつの手です。人によっては、もうこれだけで何かが出てくるかもしれません」
実際にFIREをして、嫌というほど遊んでのんびりしたあと、何をしたいだろうか……。出てくる人もいると小鉄は言ったけれど、さっぱり浮かんでこなかった。
「ごめん小鉄、やっぱわからないや」
「今この場で答えを出さなくても大丈夫です。でも、必ずこの問いかけを頭の中に入れておいてください。常に頭の片隅においておけば、いつか必ずわかりますから」
「そうは言っても不安だなぁ。やりたい仕事を見つけるヒントってないの?」
「ありますよ」
「それを教えてよ!」
「わたしが今まで見てきたニンゲンで、仕事選びで失敗する方はもれなく〝職種だけ〟で仕事を選んでいます。ネコが好きだから、ネコの雑誌の会社で働く! といったイメージです。もちろん全く意味がないとは言いませんが、重要なのは〝職種〟ではなく〝実際にどんな業務を行うか〟です」
「んん? どういうこと?」
「例えば、ネコの雑誌の会社で働くことは原稿を書いたり、デザインをしたり、取材をする、これらの業務が好きな人にとっては天職ですが、ネコがどれだけ好きでもこれらが苦手な人には辛い仕事になります」
この話を聞いて、中学生のときに行った職業体験を思い出した。当時、漫画を読むのが大好きだった僕は、職業体験に本屋さんを選んだ。漫画に囲まれて仕事ができるなんて最高だと思ったからだ。でも実際に任せられた仕事は本の在庫チェックや返本の処理で、その作業を全然楽しいと思えなかった。
「確かに、実際に毎日やるのは〝業務内容〟のほうだもんね」
「そうです。なので考えるべきなのは〝行動〟です。智也さんが〝ついやってしまう行動〟を思い出してください。〝やりたいこと〟ではなく〝やってしまうこと〟なのがポイントです」
「やってしまうこと……」
仕事にすべき、「普段から、ついやってしまうこと」とは?
「過去を振り返って、学校生活や部活、アルバイト、仕事等の中で、〝これだけならずっとやっていたいこと〟や、やれって言われたわけでもないのに〝ついこだわってしまうこと〟や、周りの人から驚かれたようなこと。必ず誰にだってひとつはあります。智也さんにも、きっとありますよね?」
そんなのない、と返そうと思いながらも、考えてみるといくつか頭の中に浮かんできたことがあった。
「そういえば、友達とゲームをやるときに、みんなが使っている一番強いキャラクターじゃなくて、わざと弱いキャラクターで工夫して戦ったりしてたかも。そりゃ勝つためには強いキャラを使ったほうがいいんだけど、なんかそれが楽しかったんだよね」
「おお、いいじゃないですか」
こんなのでいいんだ。ゲームの話なんて関係ないと一蹴されるかと思っていたけれど、思いがけず肯定されたことで「こんなのでもいいのなら」と、次々思い出が溢あ ふれてきた。
「そういえば、僕が考えたオリジナルゲームで遊んだことがたくさんあったよ。その場に落ちていた空き缶とかボールとかを使って、勝手にルールを考えたりしたなぁ」
他にも紙を切ってカードゲームを作ったり、鉛筆や消しゴムを使ってオリジナルの遊びを考えては、クラスメイトたちと楽しんでいた。小鉄は満足気に頷いた。
「うんうん、いいですね。他にはどうですか?」
「あとは……居酒屋でアルバイトしたとき、マニュアルよりもいい方法を思いついてさ。実際に時短に成功してバイト仲間からは感謝されたけど、店長にバレてすごく怒られたこともあったなぁ」
「智也さん、たくさん出てくるじゃないですか」
「話してたら、まだまだ出てくるかも」
「ここまでの智也さんの話は大きくまとめると〝今までにない新しいアイデアを考える〟という行動ですよね」
「言われてみれば、確かにそうかも」
「世の中にはどんなに考えてもアイデアが出てこない人もいます。そんな人が〝新しいアイデアを考える〟仕事をやっているとしたら、それはすごく不幸なことです。でも、逆に智也さんが〝新しいアイデアを考える〟ことがメインの仕事につくことになったら、どう思いますか?」
新しいアイデアを考えることがメインの仕事……? 僕にとって、それはまさに理想のように思えた。毎日そのために時間を使ってよくて、しかもそれが誰かの役に立つのならば、充実した日々になるに違いない。
「その感覚ですよ。あるじゃないですか、やりたいこと」
小鉄に言われて、ハッとした。同時に、僕が今の会社が辛い理由がわかった。
今の会社では、新しいアイデアを求められることは一切ない。むしろアレンジなどはきかせず、やるべきことを淡々とやるのが業務内容だ。そういう仕事が世の中に必要なことはわかっているし、そういった業務が得意な人もいる。でも、自分がやってしまう行動とはかけ離れている仕事だった。
「人によって、この〝ついやってしまうこと〟は違います。次々と人に話しかけて関係を構築してしまう人もいれば、誰にも頼まれてないのにデータをすごくキレイにまとめている人もいるし、いつも人前で話してその場の皆を引っ張っている人もいるし、常に改善点を探し続けている人もいます。まずは、自分のそれがなにかを知ることです」
「FIREするために」とガマンして働き続けるよりも、今できること
「ニンゲンはつい、社会的な評価や、誰かに言われた言葉を理由にやることを選んでしまいがちです。他人との比較ではなく、自分の内側に焦点を当てる必要があるんです。はじめに、お金を第一に考えないでと言ったのも、これが理由です」
今まで、やりたい仕事なんて一切ないと思っていた自分が、今は自分のやってみたいことに気づき「なんかやれるかも」と思っている事実が、その言葉の正しさを証明していた。
「逆に言えば、そんなふうにやることを決めている人たちばかりということです。そんな人たちが、心から〝これをやりたい!〟と思ってる人に敵(かな)うわけがないんです。智也さんなら、大丈夫ですよ」
その言葉に、僕は大いに奮い立った。
アイデアを考えることが仕事になり、それで生きていけるのであれば、それはなんて素晴らしいことだろうか。そんな未来は、FIRE生活よりも輝いて見えた。
「嫌な仕事を頑張って、お金を貯めていつかFIREするのではなく、FIREしたあとに自主的にやりたくなるような仕事を、今からやりましょうよ」
自分の進むべき道が、ほんの少しだけど、見えた気がした。
★ここまでの記事では、自分の「やりたい仕事」はどうしたらみつかるのかについてご紹介しました。仕事で「幸せ感」を得るにはどうしたらよいかは【前編】をご覧ください。
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』ヒトデ■著者:ヒトデ
1991年愛知県生まれ。株式会社HFの代表取締役。趣味で始めたブログがきっかけで人生が激変。最高158万PV/月を記録し、2021年にFIRE達成。最高ブログ収益は月間2500万円。累計ブログ収益は5億円以上。完全初心者のためのブログの始め方講座「hitodeblog」をはじめ、複数のサイトを運営。名古屋でブロガーのためのコワーキング「ABCスペース」を経営する。著書に、『嫌なことから全部抜け出せる 凡人くんの人生革命』『「ゆる副業」のはじめかた アフィリエイトブログ』がある。