映画をこよなく愛するアンヌ遙香が、今見るべきイチオシ作品や永遠の名作と「女の生き方」を絡めて、“今思うこと”を綴る連載です。
TBSアナウンサー時代から培われた、ほんのりマニアックな視点と語りをどうぞお楽しみに!
【アンヌ遙香、「映画と女」を語る #5】
会費をケチっていたくせに、この作品が見たくて思わず…
『極悪女王』も『地面師たち』も気になってはいたけれど、毎月の会費をケチって入会を渋っていたNetflix。つい先日入会しました。なぜなら、是枝裕和監督の『阿修羅のごとく』が配信スタートになったから。
ときに争い、口汚く罵り、泣きわめき、かと思えば、抱き合って高らかに笑う。女は阿修羅だ――。
日本のホームドラマの礎を築いた脚本家、向田邦子の最高傑作が是枝監督の監督・脚色によりリメイクされ、Netflixで独占配信中の本作品は配信前から話題をさらいました。
多くの日本人の心の故郷とも言える昭和の風景が詰まった名作中の名作であると断言できます。Netflix、本当に入ってよかった……。
舞台はオリジナルに合わせ、昭和50年代から60年代にかけての東京。ちなみに私は昭和60年生まれです。そんな昭和に対して永遠の懐かしさを感じてしまう私なりに、本作品の見どころを3つに絞ってお伝えしたいと思います。
物語の中心となる四姉妹は奇跡のようなキャスティング
四姉妹(宮沢りえ、尾野真千子、蒼井優、広瀬すず)を中心とする、時折くすっとさせる要素もつまった昭和を代表とする家族劇。
寡黙で知的な父(國村隼)に愛人がいると知った4人は、母(松坂慶子)の耳には入れずどうにかこの問題を解決できないかと右往左往します。が、実は母含め姉妹もみなそれぞれ、モヤモヤや人には言えない悩みや葛藤を抱えていて……。
日常が大きく揺らぎ、対立し、感情をぶつけ合いながらも心の底では互いを気にかけ、やがて手を取り合う。その泣き笑いが細やかに描かれているのです。
4人姉妹を、さらっとさりげなくまとめ上げる、生花師範長女の綱子(宮沢)は不倫関係がいつまでも解消できずにいます。やめようやめようと思っても、いつも欲望に負けてしまうのです。
次女・巻子(尾野)は専業主婦。優秀なサラリーマンの夫・鷹男(本木雅弘)が秘書と浮気をしているのではないかと心穏やかではなく、思いもよらぬトラブルを起こしてしまいます。
三女・滝子(蒼井)は真面目で少し潔癖な図書館司書。興信所に父の愛人疑惑を依頼しますが、調査員の勝又(松田龍平)と恋愛関係に発展します。すぐ下の妹とは長年の確執があり、ことあるごとに衝突してしまいます。
四女・咲子(広瀬)は喫茶店でウェートレスとして働きながら、 同棲中の売れないボクサー・陣内(藤原季節)を叱咤激励する毎日。華やかな見た目に恵まれ、その一方でとても頭が良く、びっくりするような一言で家族間のいざこざを解決することもあり、器用に生きているように見えますが…。
全7話のボリューム感で描かれる昭和の空気感
これまで過去に何度も映画化やドラマ化をされてきた作品ですが、これだけの時間をかけて当時の昭和の空気感がそのまま再現されていることにまずは感激。
懐かしの昭和住宅の外観のみならず、家具や小物類に至るまで…。キッチン入り口の玉のれん、小さい木彫りの梟の置物、食器棚になぜか置いてある用途不明のミニサイズの紙製の傘、キタキツネをモチーフにした掛け時計など、どの家庭にも「あったよね!」と感じさせる、懐かしくてたまらなくなる当時の生活そのものが細かく再現されているのです。
それをひとつひとつ目で追ってしまうのです。この撮影が終わった後、小物の数々は一体どこに行ってしまうんだろうなんて余計な事を考えてしまいましたが。本物が醸し出す空気感、パワーを感じさせます。まずそちらが見どころの1つめ。
四姉妹の生きざまから目が離せない
2つめは、やはり女たちの生きざま。四姉妹物語は、常に私たち日本人の心を揺さぶる何かがあるようです。海外の作品ですが『若草物語』も、谷崎潤一郎の『細雪』も四姉妹の物語。
姉妹のピンチを何となくまとめあげる「次女の夫」および「次女」が物語のキーパーソンを担うところは『阿修羅のごとく』も『細雪』も同じですが、四姉妹のうち、誰が主人公とも言えず、一人ひとりの物語が浮き彫りになるたび、私たちはその場その場でフィーチャーされる人物に心を寄せていく図式もこの二作品は非常に似ています。
しかしながら、観ているうち、なんとなく自分は「四姉妹の中で、この人に1番近いかも」もしくは、「この人の生き方好きかも」なんていう見方が少しずつ生まれていく訳です。
私は当初、天真爛漫に見えて、実は物事をいつも真正面から受け止めて、的確に動こうとする四女(広瀬)に共感していました。
ネタバレを含みますので、まだご覧になってない方には以下の文章、ご注意をいただきたいのですが、当初、四女・咲子が支えるボクサーは泣かず飛ばず。しかし彼女は「チャンピオンになる!」と信じ続けます。
彼が減量を頑張っているんだからと自分まで断食のような真似をし、職場で倒れ、2番目の姉に迎えに来てもらった咲子。予定より早く帰宅してみれば、なんと彼氏は平気でラーメンを平らげ、女と浮気していたということが発覚。
周囲からは「そんな男とは別れなよ!」と言われながらも(実は私も、さっさと別れちまえ!!なんて、心の中で思っていましたが笑)、彼女の信念の強さが彼の心を入れ替えさせ、なんとボクサーとしての才能が開花。沢山のスポンサーがつくほどの大金持ちへと登り詰めていくのでした。
実は私、最初は咲子にかなり心を寄せるあまり、彼女となんだかんだ反目してしまう三女・滝子(蒼井)がちょっと苦手だなぁなんて感じていたんです。ごめんなさい!
真面目だし、純粋なところは良いと思うのですが、事あるごとにひがみっぽくなってしまって、自分の結婚式には1番下の妹は呼ばない!と駄々をこねてみたり……。正直、「そんなにネガティブに捉えなくていいんじゃない!?」なんてちょっと苛立ちながら観る場面もありました。
それが!一気に滝子のことが大好きになるのが、最終エピソード。数々の泣かせどころがある本作品ですが、私が嗚咽するぐらいに泣いたのは、最終話の滝子のエピソードでした。
優しさや、心からの愛、思いやりと言うのは、それがエネルギーの塊になって、悪い奴もやっつけることができるんだ、なんて強く強く感じさせる場面があります。どんなシーンかはあえて言わないでおきますが……。
私はもうこのシーン、泣きながら、手を握り締めて息を詰めて見つめていました。「滝子ちゃん、かっこいいよ!やったね!昔の滝子ちゃんだったらこんな事できなかったよね。強くなったね」とエールを送りながら、そして「やっぱり家族ってなんだかんだ良いものだよね」なんてほっこりした気持ちになるのでした。
▶【後編】では、そんな四姉妹を取り巻く男性陣にスポットを当ててさらに語ります。▶▶▶【後編】を読むこちらから▶▶▶