「書くことがとにかく大好きでひたすら書いてきた」作家が、12年前の直木賞受賞時に言われた「衝撃的な言葉」 | NewsCafe

「書くことがとにかく大好きでひたすら書いてきた」作家が、12年前の直木賞受賞時に言われた「衝撃的な言葉」

女性 OTONA_SALONE/LIFESTYLE
「書くことがとにかく大好きでひたすら書いてきた」作家が、12年前の直木賞受賞時に言われた「衝撃的な言葉」
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2002年に『雪虫』でオール讀物新人賞、2013年に『ホテルローヤル』で直木三十五賞を受賞した作家の桜木紫乃さん。25年3月3日発売の新刊『人生劇場』では『ラブレス』『ホテルローヤル』に続き桜木さんのルーツをより一段深く掘り下げます。作品について伺いました。

小説家とは「小説の中に毎日出勤していく」仕事、しかも「気づかれないように」

――お父様の話を描くわけですから、結末は見えている状態で書き進めていかれたのでしょうか?

それが、書くまでわからないんですよ……。毎日小説の中に出勤するように書いているんですが、作中の人たちに私の存在を知られてはいけないんですね。知られると彼らは演技を始めるから。とにかく気づかれないようにして、そっと右肩の上あたりで透明人間になって見ています。

――出勤するかのようにコツコツと日報を書いているから、1日の労働時間がそのまま、物語が淡々と進んでいくのでしょうか。これだけのドラマ、ハリウッドなら12分に1回くらいものすごいVFX入れた演出をかけてきます。

最近気づいたけれど、私は最初から最後まで文章のペースが変わらないんです。こういうペースが好みでもあるんだろうし、たぶん直らない癖なんだと思います。生活していても同じで、時間がないから急げと言われても気は焦るばかりで速度が変わらないんです。なんでだろうって、いつも思います。

直木賞受賞時に「なにげなく」言われた衝撃的な言葉とは……?

――直木賞はとてもしんどいとおっしゃっていましたが、何がしんどいのでしょうか。次回作のプレッシャー?

「このままだと3年でいなくなりますよ」って言われました。「なんで?」「好きなこと書いてちゃダメなんです。そんなことしてたら売れないんですよ」、そう言われたとき混乱しました。私、小説が好きで書いてきたのに、それではいけない……?

「シリーズものを書いたり、エンタメ性を強くしていかないといけない」というのが、とても辛くなった時期があったんです。ずっと好きでやってきたことだったので、気持ちも激しく落ち込んで。でも、そこから脱出できたのも小説のおかげでした。「砂上」というお話を書いていたとき。長いつきあいのある編集者が「桜木さんはそのまま真っ直ぐ書いてください」って言ってくれて、あのときは泣いたなあ。

私いまのところ、デビューしてから1冊も出さなかった年がないんですよ。半年休んでしまうと次の年、本が出ないんです。並行して連載するという器用さがないの。1本1本を全力で書くのは商業的にも厳しいし愚かなことかもしれないけれど、出来はどうあれ常に同じ肩力で球を投げている気はします。

――単館上映の映画館の客席に座り、淡々と映画が流れ、最後にいいお話だったなって心の中で自分と対話して席を立つかのような、するりと800枚が過ぎていく読了感でした。でも、匂いや湿度や冷たさを感じるんです、映画との違いを言うなら。

いい映画を見たなって思ってもらうのは嬉しい、なんといっても今の時代、書籍1冊の価格が映画より高いんで。たしかに、釧路の街はちょっと魚臭いんです、昔はもっと臭かったの。魚のすり身と重油のにおい。水産加工場が排水を流し、川面には貨物船や機械の重油が浮いてマーブル模様を描いてたから。いまは少しきれいになりました。

作品に登場する室蘭ですが、父が生まれ育った場所と言われて見てきましたが、目に焼きついているのはすり鉢みたいな地形。湾があり、その内側に日鉄と港があって、室蘭駅のそばの八幡さまのところに遊郭もあったようです。

室蘭は北海道でも独特の街だったと聞いています。軍需工場があって軍人さんがたくさんいた町。室蘭で育った方から「空も土も屋根も赤い」って聞いて、空が赤いなら海も赤いだろうと思って、赤い町という描写をしています。

――文中、流行歌や事件が折々に出てきて、それで「いまこのへんの時代か」とわかるのも体感時間経過に即していました。

どうやって時代を表現するのか。時代がわかるように書くことは『ラブレス』からの課題でした。北海道の片田舎で暮らして生きるのにいっぱいいっぱいだったから、時代や流行なんて考えたこともなかった。長く、私の筆は時代性を出していくのが課題だったんですが、その当時に流行っていたもので世相がわかりますよね。流行歌を聴けば当時の女性観、男性観がよくわかるように。

父には「おまえら年とったら何を聴くんだ?」って、そんなことを言われていたのに、先日サザンが懐メロで流れてきたときは愕然としました。勝手にシンドバッド、懐メロなんですね。

つづき>>>『人生劇場』直木賞作家・桜木紫乃が「性愛ごと」描き出した父の人生に「込めなかったもの」とは

『人生劇場』桜木紫乃・著 2,310円(10%税込)/徳間書店

桜木紫乃(さくらぎ・しの)

1965年北海道釧路市生まれ。江別市在住。14歳の時、原田康子の「挽歌」を読んだことをきっかけに作家を志す。高校卒業後、タイピストとして裁判所の職員に。専業主婦時代に地元の同人誌「北海文学」で執筆を始め、2002年『雪虫』でオール讀物新人賞受賞。2013年『ホテルローヤル』で第149回直木賞受賞。北海道を舞台に生きる人々の性愛を描くことが多く、他にも代表作は『ラブレス』『家族じまい』など。


《OTONA SALONE》

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