筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして20年間で2万件以上の離婚相談を受け持っていますが、最近は「なんとなく婚」が増えている印象です。これはいつの間にか結婚し、いつの間にか離婚していたという意味。特に傍から見ると、なぜ離婚したのか分かりにくいのですが、その傾向は私たち一般人も同じです。法務省の司法統計(2020年)によると離婚原因のうち、性格の不一致は全体の38%。精神的に虐待する(25%)を合わせると63%を占めます。不倫(15%)、酒乱(6%)、浪費(10%)、家出(7%)より圧倒的に多いです。
これは女性(妻)が申し立てた場合の数字です。基本的に申し立てる側=離婚したい側だと思って差し支えありません。逆に離婚を切り出したのは夫の側。夫を翻意させるため、裁判所に助けを求め、妻が申立をしたケースを聞いたことがありません。つまり、上記の数字は妻が離婚したい理由の順です。
酒に溺れ、女を作り、金を借り、挙句の果てには家を出て行った…そんな昭和の時代によくいたダメ亭主なら話は早いです。悪いのは完全に夫なので離婚するように説得するのは難しくありません。しかし、令和の時代はどうでしょうか?ジェンダーレス化(男女間の性差がなくなる現象)により、亭主関白は今や絶滅危惧種です。専業主婦(458世帯)は共働き(1,177世帯)の半分しかいないので「男は外で働き、妻は家を守るべき」とは言えません。さらに働く女性は10年間で10%以上(340万人)も増加し、現役世代(25~44歳)の就業率はほぼ同数(女性78% 男性83%)です(いずれも2022年、男女共同参画白書)。
このように経済的に男性が弱く、女性が強くなった結果、性格が合わないから結婚生活を続けるのは無理。そう考える女性が増えたのが昨今の離婚事情です。とはいえ「離婚したい」のと「離婚できる」のとは別です。性格の不一致の場合、さすがに夫が10割、悪いと決めつけるのは無理です。そもそも夫は自分が悪いと思っていないので、「あなたが悪いんでしょ!」と責め立てても上手くいきません。さらに妻の方が離婚を切り出したことを逆手に取られ、「家庭を壊したのはそっちでしょ!」と逆ギレされる恐れもあるのです。
【行政書士がみた、夫婦問題と危機管理】
500万円以上多く稼いでいる年上妻が、夫と別れたい理由
「彼のやることが何もかも気持ち悪くなってしまって…もう一緒にいたくないんですが、彼がなかなかOKしてくれなくて困っています!」と訴えかけるのは今回の相談者・八巻美園さん(45歳。仮名)。美園さんが勤めるのは自然派化粧品を生産から販売まで自社で行う中堅企業。新卒で入社した美園さんは23年のキャリアで部長まで上り詰め、年収は750万円に達しています。一方の夫(39歳)は派遣社員で年収250万円。稼ぎだけ見ても三倍の開きがあるのですが、仕事のスキル、社会的な地位は言うまでもありません。
それでも「美園ちゃんの役に立ちたい!」と言い、料理や洗濯、掃除などの家事をやると約束してくれたので、美園さんは夫と結婚したのです。彼より彼女の方が稼いでいる「格差婚」ですが、わずか3年で夫は「気持ち悪い存在」に凋落したのです。結婚生活のなかで何があったのでしょうか?
なお、本人が特定されないように実例から大幅に変更しています。また夫婦の年齢や年収、性格が合わなくなった原因や離婚を決めたきっかけ、財産分与の条件などは各々のケースで異なるのであくまで参考程度に考えてください。
結婚してよかったと思えたのは、最初だけ
美園さんが初めて筆者の事務所を訪れたとき、左手が包帯でぐるぐる巻きの状態でした。筆者が「どうしましたか?」と尋ねると、美園さんは「(ペットに)噛まれてしまって」と苦笑いをします。美園さんの飼い犬は6歳のヨークシャテリアですが、美園さんは結婚3年目で夫との共通点は「動物好き」。
このヨーキーはかなり臆病で噛みつく癖があり、6年間、世話をしている美園さんにも容赦ないのは前述の通りです。しかし、初対面の夫には懐いたので驚いたそうです。ヨーキーを可愛がる夫の姿を見て、「この人なら長続きするかも」と好意を寄せ、二人は交際、結婚するに至ったのです。
しかし、美園さんは「良かったのは最初だけなんです」とため息をつきます。最初に出会ったとき、夫は低収入のために生活がままならず、150万円のカードローンを抱えていました。そこで美園さんは結婚するにあたり、150万円を支払って完済。そして今後、夫の生活費も面倒みることを約束したそうです。つまり、経済的には美園さんが夫を養っている状態です。
「うっかり」が過ぎる、学ばない夫にげんなり
可愛がっている人に裏切られることを「飼い犬に手を噛まれる」と言いますが、美園さんは夫のことを経済的に救ってあげたにもかかわらず、恩を仇で返されたのです。美園さんに噛みついてきたのはペットだけではありませんでした。夫もそうだったのです。
美園さんは「主夫クンのくせに!」と恨み節を吐きます。筆者は「夫の何が期待外れだったのですか?」と尋ねると、美園さんは「全部です!」と答えます。
まず料理ですが、夫は大根ステーキだと言い、お皿に盛りつけ、テーブルに並べたのです。一見すると美味しそうですが、そうではないことが一口で分かりました。中心部が固くて生の状態。美園さんの口のなかでボリボリという音を立てたのです。大根を焼く前に下茹でしていないのは明らかでした。美園さんは「ちゃんと調べれば分かるでしょ、レシピサイトとかあるじゃない!」と叱ると、夫は「ごめんごめん。今度は気をつけるよ」と平謝りしたのですが、料理にまつわる夫の「うっかり」はこれだけではありませんでした。
後日、夫が「今日は麻婆豆腐だよ」と言って、出てきたものは具が豆腐だけ。挽肉や玉ねぎ、長ネギなどが入っていませんでした。美園さんが「これって麻婆豆腐じゃないよね!」と指摘すると、夫は「ホントだ」と陳謝。冷蔵庫に豚の挽肉や長ネギのみじん切りがあったにもかかわらず、麻婆豆腐を作る際に入れなかったようなのです。美園さんは「誰だって忘れることはあるよ。でも忘れないように工夫すべきでしょ!見るのを忘れるならスマホのリマインダーを使うとか…」と説教したのですが、夫の「うっかり」は料理だけにとどまりませんでした。
美園さんはある日、洗濯にまわしたはずの下着、タオル、ブラウスなどがいつまでたっても洗いあがってこないことに気付きました。そこで「どうなっているの?」と聞くと、夫は「雨に降られちゃって」と弁解します。1日限りならともかく、夫はなんと3日連続で洗濯物を雨に濡らしてしまっていたたのです。そこで美園さんは「雨が降るかなんて前もって分かるでしょ?!ネットの天気予報や雨雲レーダーを見ればいいのに」と教えてあげたのですが、3週間後にはまた同じことが起こったそうです。筆者は「なぜですか?」と聞くと、美園さんは深いため息をつきます。
夫は雨雲レーダーをチェックせずに洗濯物を干してしまったのです。さすがの美園さんも気に障ったようで、「何回言ったら分かるの!書いてある通りにやるだけでしょ?!」と大きな声をあげてしまったとのこと。なぜなら、濡れた洗濯物を近所のコインランドリーに持ち込み、乾燥機に入れたのは美園さんだからです。
「生活の不一致」が露呈。同じこと注意されるの、これで何回目⁉
このように美園さんは夫を育てようと最初は仏の心で接していたのですが、大目に見るのも限界。家庭内のストレスで食べ物の味が分かりにくくなったり、夜中に突然、目が覚めたり、夫のことを思い出すたびにお腹が痛くなったり……明らかに身体が悲鳴をあげていたのです。美園さんは「もちろん、失敗はつきものです。だから、しっかりと準備をして、十分にチェックをしてから行動する。私は今まで仕事でも私生活でもずっとPDCA* で回してきました!」と言います。
* 業務やプロジェクトにおいてPlan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の4つのステップを順番に繰り返し、継続的な改善を目指すこと。
しかし、夫は準備をしたり、チェックをしたりした形跡はなく、PDCAの「D」しかないのです。そのため、美園さんはついに我慢の限界に達し、思わず夫にぶつけてしまったのです。「このままじゃ離婚よ!私の足を引っ張るんだったら、さっさと出て行って」と。
しかし、夫は首を縦に振りません。「ごめんなさい。僕なりに頑張っているんだけれど、美園ちゃんの求めるレベルが高すぎて…ここを追い出されても行く先がないから出て行けないよ。できる限りのことをするから、僕のことを見捨てないで欲しい」と鼻声で平謝りしてきたのです。目には涙を浮かべ、土下座同然の態勢だったので、美園さんは離婚を取り下げるしかありませんでした。美園さんが筆者の事務所に相談しに来たのは、離婚したくてもできずに悩んでいるときでした。
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