「訪問調理師」という言葉を聞いたことがありますか? この言葉を作り、自らの肩書きとして使っているのが、ごはんさんです。
ご家庭にうかがってキッチンを借り、家庭料理を「短時間で効率的」に調理するのがお仕事。限られた時間内で「その家庭に寄り添うごはん」を作るごはんさんのアイディアやスキルは、日々の食事作りのヒントになりそうです。
そんなごはんさんが、エッセイを中心とした「読むレシピ集」を発売。今回は著書の中から、「訪問調理師」のお仕事についてや、大人気おかずができあがるまでのエピソードをご紹介します。
※この記事は『訪問調理師ごはんさんの簡単・時短・栄養満点! エッセイレシピ』ごはんさん・著
「訪問調理」は、一期一会の一本勝負だから面白い!
インターホンを押して玄関先でご挨拶を済ませたら、すぐにキッチンに直行。手を洗ってエプロンをきゅっとしめたら、訪問調理師の仕事が始まります。
冷蔵庫を開けて食材を眺めながら、おうちの方のお話や理想の食事風景を想像して、最善のメニューや調理方法を考えます。私にとってこの瞬間が何よりの楽しみで、一気に頭がフル回転して不思議と次々とアイデアが湧いてくるんです。
初めてのお客さまでも事前の打ち合わせはほとんどせず、「ご家族のお好きな食材をご用意くださいね」とお伝えすることが多いです。
訪問を始めた頃はいろいろと心配が先立ち、メニューを事前にお知らせしたり、食材リストをお伝えしたりしていましたが、何せお客さまだって忙しい。だからこそ訪問調理の依頼をしてくださっているわけで、できる限りの負担を減らしたいと今のスタイルが定着しました。
とはいえ、おうちによってキッチンの作りも違うし、調理家電や道具、食材や調味料、タッパーの保管場所もまったく違います。「初めてのキッチンで、どうしてそんなにスムーズに料理ができるんですか」と必ず聞かれますが、こればかりは「慣れです」としか言えず……。
食材と同じように、「このキッチンならこうやって、ここにこの鍋を置いて……」とメニューを提案しながら物の配置や段取りも自然と組んでいます。言葉にするのは難しいですが、きっとどんなお仕事にもこういう流儀みたいなものってありますよね。
私の場合は食材含めキッチンを「お借りする」ことが前提の仕事。ただ料理をするだけでなく、その場がより整うように、安全に、大事に、もとの状態をできるだけ崩さないようにすることを心掛けています。
お料理のスピードや技術を褒めていただけることももちろん嬉しいのですが、おうちに上がらせていただけること、自分の分身のような大事な空間を信じて任せていただけること、そっちのほうが私にはとてもありがたくて。
だからこそ、そのおうちに「本当の意味で寄り添うこと」を何よりも大切にしたいと考えています。
実は「苦手料理ナンバーワン」だった「唐揚げ」。「作り置き」に特化してたどりついた「解決法」は?
言わずもがな「唐揚げ」は、どこのお家でも大人気のメニュー。当たり前に作れると思われがちですが、実は訪問調理を始めた頃の私にとって“ 苦手料理ナンバーワン” でした。
何度練習してもうまくいかず、衣は剥がれるし、真っ黒になっちゃうし……。うまくいったと思うとすぐにシナシナ、味がまったく入っていなかったり。
言い訳をすると、唐揚げだけをゆっくり丁寧に作れるならまだしも、他の料理と同時並行しながら短時間で作らなければいけない特殊な状況。しかも揚げ油もたっぷり使うし、作業中は両手も塞がってしまうから、他の料理との段取りがとても難しいんです。
でも、きっと訪問調理だからこそできるレシピもあるはず!と方向性を変えました。特に課題だったのは「短時間で味をしっかり染み込ませること」と「揚げ油の使用量をできるだけ抑えること」。
通常ならひと晩漬け込みたいところを、訪問調理ではおよそ3時間のうちに作り切らないといけません。だから包丁よりハサミでカットしたり、下味の甘さを強めにつけることで解決しました。
最初は小麦粉と卵の衣で作っていましたが、時間が経つとしんなりしてしまうのと、卵1個の量で作れる全体量が決まってしまうのがもったいないなと思い、衣は片栗粉を使う「竜田揚げ風」にすることにしました。
両方を取り入れたことで作業時間もぐんと減り、「作り置き」に特化した時間が経っても味が落ちにくい唐揚げになりました。5~6個だけ作ってほしいというご依頼にも楽々対応できるように。
また揚げ焼きなので、揚げ油を処理する手間もありません。かつてはあんなに苦手だった唐揚げも、「冷凍しても、温め直してお弁当に持って行っても美味しい!」と言っていただける定番メニューになりました。
「作り置きでも美味しい、味染み唐揚げ」の作り方がこちらです!
『今まで食べた唐揚げで一番美味しい!』『週に1キロを2 歳児が食べてます』と訪問調理を始めた頃からおかげさまで大人気を評している定番メニュー。揚げ焼きで作るから油鍋も必要ありません。
材料( 15個程度)
鶏もも肉 ……………… 350g( 大1枚)
★ 醤油 ………………… 大さじ2
★ みりん ……………… 大さじ1
★ 砂糖 ………………… 大さじ1/2
★ すりおろし生姜 ……… 小さじ1
★ すりおろしにんにく …小さじ1
片栗粉 ………………… 大さじ3
揚げ油 ………………… 適量
作り方
❶ 鶏もも肉はひと口大にカットして、★と一緒にキッチン用袋に入れて揉み込む。
❷ 冷蔵庫で20分以上(ひと晩寝かせてもOK)寝かせる。
❸ フライパンに油を1 の高さまで引いて、片栗粉を薄くまぶした❷を並べる。
❹ 中火にかけて片面約4 分ずつ揚げ焼きにしたら完成。
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■BOOK:『訪問調理師ごはんさんの簡単・時短・栄養満点! エッセイレシピ』ごはんさん・著
■著者 ごはんさん
数カ月先まで予約が取れない、人気の訪問調理師。今までに訪れた訪問件数は、のべ4,000 軒にのぼる。小学校の給食調理の経験を活かした子ども向けメニューや、苦手克服レシピが大好評。和洋中とジャンルを問わないレシピの豊富さを活かして、各メディアでも活躍中。子どもや食育に悩む親御さんとの食育プログラムも人気。「あさイチ」(NHK)、「ヒルナンデス!」(日本テレビ)などにも出演。現在は「ハロー!ちびっこモンスター」(NHK)料理レシピ担当としてレギュラー出演中。主な著書に「訪問調理師ごはんさんのどんどんおかわりする子ども大好きレシピ78」「訪問調理師ごはんさんの野菜大好きレシピ」(ともに徳間書店)がある。