モラハラ・夫婦問題カウンセラーの麻野祐香です。
夫婦の間で繰り返されるモラハラに耐えきれず、離婚を決意する女性は少なくありません。しかし、「もうこの人とはやっていけない」と覚悟を固めたとき、夫からの攻撃がさらに激しくなることもあります。
今回は、日常的な人格否定に耐えてきたものの、ある日ついに怒りが爆発し、夫に言い返してしまったMさんのお話です。そのとき夫が見せた想像以上に幼稚で自分勝手な態度が、離婚準備を始める決定打となりました。
※本人が特定されないよう設定を変えてあります
※写真はイメージです
ついに「我慢の限界を迎えた」休日の夜
毎日のように人格否定の言葉を浴びせられ、Mさんの心はすり減っていました。モラハラ夫の暴言、思いやりのない態度、家政婦のように扱われる日々。それでも「家族を壊してはいけない」と必死に耐えてきたのです。しかしそんなある休日の夜、ついに我慢の限界が訪れます。
「お前は本当に何をやらせてもダメだな」
「母親のくせに役に立たない」
夫の言葉は、いつも通りMさんを突き刺しました。しかし、この日は子どもたちの前で「お前たちの母親は最低だからな」と笑いながら言ったのです。
(これ以上踏みにじられるのは耐えられない)母としてのプライドが、Mさんに反論させました。
「いい加減にして! 私だって一生懸命やってるのに! 何が最低なのよ!」
声が震えながらも、Mさんははっきりと言い返しました。
すると夫は驚いた顔でにらみつけ、低い声でこう言いました。
「俺に向かってそんな口をきくのか」
そこから怒号が始まりました。「生意気だ」「お前のせいで家がめちゃくちゃだ」「俺を怒らせるな」次々に浴びせられる言葉は、まるでMさんをねじ伏せるための武器のようでした。
Mさんは、このままでは夫の怒りが子どもたちにまで向かうと感じました。「この空気から離れないと危ない」そう思い、子どもたちに「少し出よう」と声をかけました。小学6年生と中学1年生の子どもたちは、家を出れば父の機嫌がさらに悪くなると分かっているので、若干の迷いがあるようでした。いつの間にか「父の機嫌を取ることで家の平和が保たれる」と学んでしまっていたのです。
子どもたちは父が怒る前に空気を読み、先回りして行動します。「お父さんが機嫌よくしていれば、家は安全」……そう思うからです。褒めたり笑顔を見せたりして父を持ち上げるのは、恐怖を避けるために身につけた無意識のサバイバル術でした。
こうした生活が続けば、子どもたちは常に人の顔色をうかがうようになります。「怒らせたらどうしよう」「嫌われないようにしなきゃ」と相手の気持ちを先に考え、自分の気持ちを後回しにしてしまうのです。一見「気が利くいい子」に見えても、心の中は緊張でいっぱい。本音を出せないまま大人になってしまう危険があります。
子どもたちは戸惑いながらも母の必死な形相を見て、黙って靴を履き、一緒に外へ出ました。そして外に出た瞬間……子どもたちはほっとした表情を見せました。
普段は「さすがお父さん」「やっぱりお父さんはすごいね」と父を持ち上げていますが、本当は母と同じように父の言葉が嫌でたまりません。けれど父の前でそれを言えば、母がもっと責められる。それを知っているから、あえて「お父さん大好き」という態度を取っていたのです。子どもたちの健気さを思うと、Mさんの胸は締めつけられるように痛みました。子どもにまで気を使わせてしまっている、その現実がMさんをいつも苦しめ、申し訳なくさせていたのです。
楽しいひとときのあと、突き落とされて
近所のファミレスに入り、Mさんは子どもたちとデザートを頼みました。
「こんな時こそ甘いものを食べよう。甘いものは幸せな気持ちにしてくれるんだよ」
そう言うと、子どもたちは大笑いしました。
パフェが運ばれ、みんなで笑いながら食べたそのひとときは、久しぶりに心から安らげる時間でした。その笑顔を見て、張り詰めていたMさんの気持ちは少しずつほぐれていきました。
「よし、帰ったらまた頑張ろう」
そう思えるくらいに気持ちを切り替えることができました。
しかし帰宅すると、玄関の内側には“ドアガード(チェーンロック)”がかかっていました。ガチャガチャとドアノブを回しても、内側から外される気配はありません。Mさんと子どもたちは、玄関先で立ち尽くすしかありませんでした。
しばらくして、玄関の向こうから夫の声が響きました。「俺に逆らうとどうなるかわかったか」まるで裁きを下すかのような低い声でした。それでもドアはすぐには開かず、10分以上もわざと待たされました。子どもたちは黙ったまま、母のそばでじっと立ち続けます。
小学6年生の娘はMさんの手をぎゅっと握りしめ、中学1年生の息子は唇をかみしめていました。その間、Mさんの心臓はバクバクと音を立て、時間が何倍にも長く感じられました。
ようやく「ガチャリ」と音がして、ドアチェーンが外れました。ドアを開けた夫は、勝ち誇ったような表情でMさんたちを見下ろしていました。その顔を見た瞬間、Mさんの胸の奥で何かがスッと冷えていきました。Mさんには夫の狙いがはっきりと分かったのです。
「これは私を黙らせるための行動なんだ。逆らえないことを思い出させたいだけなんだ」夫は“罰”として玄関の外に立たせ、「お前は黙って従え」というメッセージを突きつけていたのです。
夫は「逆らえばどうなるか」を見せつけ、支配を取り戻したつもりになっていました。けれども、そのやり方はあまりにも幼稚で、Mさんの心の奥では冷たい決意が生まれました。
本編では、Mさんが夫に反論したことで“懲らしめ”として玄関先に立たされ、「お前は黙って従え」と支配を突きつけられた出来事と、Mさんの心に芽生えた決意についてお伝えしました。
▶▶ 「もう一緒に暮らせない」モラハラ夫と離婚することを決めた私が始めた「具体的な準備」とは
では、「私は今まで、いったい何を我慢してきたんだろう」と、子どもたちへの悪影響にも気づいたMさんが、離婚への準備を始めていった様子をお伝えします。