あなたの隣の「ネオ・ネグレクト」はなぜタワマンに多いのか | NewsCafe

あなたの隣の「ネオ・ネグレクト」はなぜタワマンに多いのか

子育て・教育 リセマム/教育・受験/小学生
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 「ネオ・ネグレクト」。これは中学受験塾の代表を務める矢野耕平氏の造語で、「衣食住に不自由はなかったとしても、親がわが子を直視することを忌避していたり、興味関心を抱けなかったりする状態」を意味するという。「ネオ・ネグレクトはタワマンエリアでよく観察される」と言う矢野氏に、その理由について寄稿してもらった。

タワマンエリアに見られる「ネオ・ネグレクト」

 あなたの隣の「ネオ・ネグレクト」“外注される”子供とは? の記事でも紹介したように、「ネオ・ネグレクト」とは令和の時代の親子関係に散見される現象を私が造語した表現で、「衣食住満ち足りた生活をしていたとしても、親がわが子を直視することを忌避していたり、わが子に興味関心を抱けなかったりする状態」を意味する。

 さて、この「ネオ・ネグレクト」の取材を重ねる中で気づいたことがある。このネオ・ネグレクト現象が東京湾岸タワマンエリアに集中的に見られるということだ。

 たとえば、タワマンエリアの大規模に小学校で学級崩壊を引き起こした「主犯」の男の子の母親は、周囲の親たちの誰もがその姿を見たことがないという。また、あるタワマンに住む小学生の女の子は友人たちに万引きをそそのかしたり、下級生の家に無理やりあがりこもうとしたり、さまざまな問題行動を取るのだが、「被害」を受けた子の親たちがその子の親と連絡をとろうと試みるも、一向につながらない。その女の子は「ウチの親は普段海外にいて、家にはいない」と言い張っているものの、本当かどうかもわからないようだ。

 さらに、複雑な家庭の事情なのか、高校生になったばかりの男の子がタワマンの一室を親から買い与えられ、一人暮らしを始めたという例もある。しばらくすると友人たちの格好の溜まり場となり、大きな声が響いたり、煙草の臭いが近隣に漂い始めたりしたため、隣室からしばしば「苦情」が入ったという。

 タワマンエリアの公立小学校の校門には、放課後になると数台のマイクロバスやバンが停止する。そこに続々と乗り込む子供たち。民間学童をはじめとした各種習い事の送迎サービスである。聞けば、ある子供は月曜日から金曜日まで週5回は「習い事漬け」であり、家でのんびりする時間はないという。習い事費用だけで月額数十万円はかかるらしい。

 拙著『ネオ・ネグレクト 外注される子どもたち』(祥伝社新書)には、これらのエピソードをより詳細に描いている。

タワマンは縦に伸びる「長屋」
 近代的、最先端の住環境を有したエリアでなぜ「ネオ・ネグレクト」の現象がよく観察されるのだろうか。

 その理由として考えられるのは、東京湾岸タワマンエリアに居住する親たちは共働き世帯が多いということが挙げられる。勤務先まで利便性の良い地域であることと、子供を預ける民間教育機関などが近隣に数多くあるというのも大きいと考えられる。忙しく働いている親のもとで、子供たちはともすれば「放置」されやすい環境にあると言い換えることができる。

 しかし、わたしはタワマンエリアをここで論難するつもりは毛頭ない。

 それどころか、タワマンエリアの「長所」があるからこそ、「ネオ・ネグレクト」現象の報告がたくさん耳に入ってくるように感じられるのだ。

 どういうことか?

 近年は在日華僑が好んで購入するとされているタワマンだが、いま小中学生の親が多くこの地に移り住んだ10年前~15年前はそうではなかった。国内のあちこちからファミリー層が一気に集まってきたという。そして、東京湾岸にあるタワマンの多くは歴史が浅いため、当然のことながら「昔から代々そこで暮らしている住民」はいない。知り合いがいないまま、このエリアの住人たちは生活を始めたのである。これらの人たち、とりわけファミリー層に対して自治体はさまざまな試みをおこなって、その「団結」を強固にしようと努めている。

 たとえば、港区には「うさちゃんくらぶ」という子育て支援の一環として乳幼児をもつ母親、それこそおなじ月齢の子をもつ近隣の母親たちが知り合えるイベントを用意している。そこで知り合った親たちが今度は子供たちを同じ保育園に託すことで、互いの仲を深めていく。

 私の塾は港区にあるが、タワマンエリアの親、特に母親たちはわが子が誕生して間もないころからの付き合いばかりであることに驚いた。

 聞けば、コロナ禍で学校が休校措置になった際は、同じタワマンに住む母親同士で「当番制」で互いの子供たちを家で預かり、各々の仕事に支障が出ないようにしたという。

 タワマン在住のひとりの母親からこんなことを言われたことがある。

 「タワマンは『人間関係が希薄ではないか』なんていう世間のイメージとは真逆です。『縦に伸びている長屋』だと思ってください。住民同士の付き合いは濃いですし、噂話なんて一気に広まります」

 わたしはこの話を耳にして、とうの昔に日本からはすっかり失われた「共同体」がタワマンエリアで復活しているように感じたのである。

 つまり、タワマンエリアで「ネオ・ネグレクト」の報告が多いのは、共働き世帯が密集しているということだけでなく、確固たる「共同体」を有しているがゆえに、ようすのおかしい子供たち、ようすのおかしい家庭の情報を即座に共有しやすい環境だからではないか。実はタワマンエリアの「長所」の裏返しではないか、そんなことを思ったのだ。

ネオ・ネグレクトを引き起こす背景
 タワマンエリアで「ネオ・ネグレクト」が見られることを指摘し、その具体的事例を幾つか紹介した。

 それでは、「ネオ・ネグレクト」の現象が引き起こされる背景とはどういうものなのだろうか。

 まず1点目は、共働き世帯の増加である。この40年で全世帯に占める共働き世帯の割合が倍近くになったというデータもある。両親が慌ただしくしていて、仕事に追われ、いつの間にかわが子に目が行き届かない…その延長に「ネオ・ネグレクト」があるのではないかと考えた。

 2点目は男女共同社会と言われるが、依然として子育ては母親サイドに偏るという点だ。男女共同参画社会といわれ、共働き世帯が増えている中、昭和時代の「近代的母親規範」を令和になったいまも引きずっている。それによって、子育てに息苦しさを覚えてしまう母親が多いのではないかということだ。こういう意味では、父親サイドにも大きな原因が潜んでいると見ることができる。

 3点目は「民間教育事業者」の過剰な顧客サービスにもあるように思う。親が手を離しても「外注」すればわが子はどうにかなるのではないか。そんな期待と安心感の裏返しとして「ネオ・ネグレクト」が生まれる側面があるのではないかと私は考えている。

 本書ではこれらの背景事情について具体的な統計をもとに詳しく説明している。気になった方はぜひ本書を手に取ってほしい。新たな気づきが得られるかもしれない。

矢野耕平 
 中学受験指導塾「スタジオキャンパス」代表で、『中学受験のリアル』(KADOKAWA)『令和の中学受験』(講談社)、『ことばの裏側図鑑』(文英堂)など多くの著書でも知られる。

《編集部》

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