
*TOP画像/女絵 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」41話(10月26日放送)より(C)NHK
「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」ファンのみなさんが本作をより深く理解し、楽しめるように、40代50代働く女性の目線で毎話、作品の背景を深掘り解説していきます。今回は江戸時代における「男を虜にした町娘」について見ていきましょう。
男たちが“普通の女の子”の愛らしさに惹かれるのは今も昔も同じ
現代においてもスタイル抜群のモデル級の美女を好む男性もいれば、一般女性の素朴なかわいさを好む男性もいますが、江戸時代においても同様でした。
本作の40話における蔦重(横浜流星)と滝沢瑣吉(津田健次郎)が市中で美人詣を行うシーンでは、瑣吉は行きつけの店で働く推しの女子(おなご)を蔦重に紹介していました。おきた(椿)が働く団子屋では「(おきたを)見守りたい男どもが こうして集まっておる」「まぁ モテない男たちだがな。ハハハハハハハ!」と説明。ちなみに、椿が演じるおきたは「寛政の三美人」の一人で、浅草寺近辺の茶屋で給仕していた難波屋のおきたがモデルとなっています。

おきた(椿) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」40話(10月19日放送)より(C)NHK
歌麿は「難波屋おきた」という題の絵を描いています。この絵のおきたは茶をのせたおぼんを持ち、髪には花魁のように華やかな髪飾りがいくつも刺さっています。
また、おひさ(汐見まとい)が売る煎餅には男性客で行列ができていましたが、瑣吉によると煎餅は大したことがないらしい…。ちなみに、汐見が演じるおひさも同名の人物がモデルとなっています。おひさもまた寛政の三美人の一人で、本作同様に高島屋で働いていました。
東洲斎写楽は「高島おひさ」という題の絵を描いています。この絵のおひさは胸元が大きく開いた艶やかな姿が印象的です。それでいて、どこかクールな雰囲気を漂わせています。
本作には現時点では登場していませんが、もう一人の寛政の三美人は富本節の吉原芸者・富本豊雛(とよひな)です。歌麿は彼女をモデルにした「富本豊ひな」という題の絵を描いています。
史実においても、江戸には推しの店員に会うために店を訪れた客は多く、“看板娘”と呼ばれる女性が働く店は多々ありました。飲食店のみならず、楊枝屋(≒歯ブラシ)、矢で的を射る店(≒ダーツバー)、煙草屋などさまざまなジャンルの店が看板娘を置いていました。
店で働く愛らしい女性たちが人気を集めた背景には、独身男性が江戸に多かったことも関係しています。当時、参勤交代や大奥における女性の独占などにより、江戸には独身男性が多く暮らしていました。独り身の男性が気軽に食べられる蕎麦屋や寿司屋などが充実していただけでなく、彼らの心をつかむ店やサービスも充実していたのです。
“独身天国の江戸” 現代のメイド喫茶!?売れっ子になれば贅沢もできる
現代においてもメイド喫茶や会いに行けるアイドルは多くの男性のニーズに応えたサービスとして人気を集めています。
メイド喫茶の先駆けともいえる水茶屋が江戸時代に存在し、多くの男性客を惹きつけていました。水茶屋は寺社や繁華街にあり、15歳前後の女子が働いていました。数ある水茶屋の中でも郡を抜いて人気だったのが鍵屋で、この店で人気ナンバーワンの笠森おせんは男性客を魅了していました。
美人画や役者絵で知られる鈴木春信はおせんの美しさに惹かれ、彼女の絵を何枚も描いています。春信が描いた絵も火付け役の一つとなり、1765年、おせんを一目見たいという男性やおせんのファンが店に殺到したのです。
鍵屋の人気を知った水茶屋はかわいい町娘を雇い、それぞれ競い合うかのように商売を営んでいました。
水茶屋とは茶や団子を客に提供する今でいう喫茶のようなものですが、メニューや味ではなく、看板娘で競い合っていたといっても過言ではありません。水茶屋で働く女性たちの番付(ランキング表)が売り出されるほど、男性たちの間で水茶屋の娘は話題でした。
水茶屋で働き、“評判娘”として名を馳せば収入もおのずと増えます。人気の評判娘の中には高価な髪飾りや着物を身に着ける者、花魁のように少女を引き連れて歩く者もいたといわれています。
さらに、評判娘の中には客と性的な関係を築く者もいたそうです。現代においても客と一線を越えてしまう女性もいますが、人間の弱さや驕りはいつの時代も変わらないのかもしれません。
本編では、江戸に存在した“メイド喫茶”の先駆けともいえる水茶屋文化と、男たちを虜にした町娘たちの「推し活」ブームについてお伝えしました。
▶▶母と息子、ようやく通じた「おっかさん」……蔦重とつよが交わした、40年越しのぬくもり
では、吉原で生きた母と息子が、ついに心を通わせる感動の瞬間をお届けします。
参考文献
江戸歴史研究会『江戸のひみつ 町と暮らしがわかる本 新装版 江戸っ子の生活超入門』メイツ出版、2025年
河合敦『早わかり江戸時代 ビジュアル図解でわかる時代の流れ!』日本実業出版社、2009年
立川談慶『安政五年、江戸パンデミック。~江戸っ子流コロナ撃退法~』エムオン・エンタテインメント、2020年



