
家族の愛と笑いに満ちた日々を描いたコミックエッセイ『小林一家は今日も「ま、いっか!」』(主婦の友社刊)が好評発売中の、漫画家・小林潤奈さん。描かれているのは、ささいな幸せや、クスッと笑えるエピソードが盛り込まれた小林家の日常。読んでいる人の心をほっこりさせたり、「あるある」と共感できるとオトナサローネ世代からも人気を集めています。
作者である小林潤奈さんご本人に、家族に対する思いや、ご両親の子どもとの向き合い方を伺いました。子育て中の人には、目から鱗の育児論も満載です!
【 「あの作品、もう読んだ?」インタビュー 3 前編】
母は申し訳ないぐらい家族に尽くしてくれていた
――『小林一家は今日も「ま、いっか!」』は、家族思いで天真爛漫なお母様の存在が魅力的です。実際のお母様はどんな人ですか?
母は専業主婦でしたが、家族のためにめちゃくちゃ働いてくれる人でした。今思えば「お母さんに自分の時間ってあったのかな?」って思うぐらい、家族のために尽くしてくれていましたね。
――具体的なエピソードはありますか?
高校受験を控えて私が塾に行っていた頃、帰宅時間が遅く、帰宅した頃には他の家族はもうご飯を済ませていました。当然、私は一人でご飯を食べることになるのですが、そんな時母は必ず私の前に座り、話し相手になってくれていました。
当時は「お母さん、なんでずっと座ってるんだろう」と思っていたんですが、今思えば、私が寂しい思いをしないように気を遣ってくれていたんですよね。塾のことや学校での出来事を母と話しながら食べられたので、おかげで寂しいと思うことはなかったですね。
――夜の忙しい時間に家事などのすべてを止めて、娘の食事を見守るのはできそうでできないことですよね。
母自身、子どもの頃に両親が忙しく寂しいなと思うこともあったそうです。だから子どもにはそんな思いをさせたくないと、意識的に行っていたことだと、大人になってから聞きました。
思うのですが、自分がしてもらったことを相手にするのは、わりとできることだと思うんです。でも母の場合、寂しさを埋める方法を自分で考えて相手に与えていて、余計にすごいなぁと。こういうのは想像力やそれなりの努力が必要だと思うんです。本当に愛情深い人なんだなと思いますね。
幸せ探しをするのではなく、今すでに「幸せの中にいる」ことに気づいて
――コミックの中に、お母様と一緒にマヨネーズを作るシーンがあります。生活の中に学びを取り入れるような教育も積極的にしてくれていたんですか?
マヨネーズを作るほどの出来事ではありませんが、生活の知恵や慣用句を教えてもらったりしていたのは覚えています。学校の持ち物でも「小さい袋よりも大きい袋を持って行ったほうがいいよ。それを大は小を兼ねる、って言うんだよ」と教えてもらったり。そういったちょっとした知識を生活の中で教えてもらっていましたね。



――話を伺ってきて、小林家は愛情あふれる両親のもと、子どもたちもまっすぐ育っていると感じます。「幸せな家族」というものに対して、潤奈さんが思うことはありますか?
小林家を「幸せな家族」とするなら、それは幸せのハードルが低いからだと思うんです。うちの家族は小さなことでも、「すごくうれしいこと」に変換するんです。例えば父親は、パーキングの最後の1台分に止められたというだけで家族に報告するし、食卓に好物の海苔があるだけで「しあわせや〜」って言います。父親の口癖なんですよね「しあわせやろ?」が(笑)。家族に向かっていつも「こんなことができるなんて、しあわせやろ?」って言っています。
――海外旅行に行ったり、高級料理を食べることだけが幸せではないと。
そう思います。今の人は、幸せのハードルがすごく上がっていると思うんです。それはキラキラしたSNSを見ることが増えたり、インターネットでたくさんの情報が得られるようになったせいかもしれません。
そうじゃなくて、私たちは「すでに幸せの中にいる」ことをもっと自覚すべきだと思います。今ある環境で十分幸せだと。海外旅行に行けなくても、すでに自分は幸せの中にいると知っていれば、それだけで気持ちは変わりますから。
――「幸せだな」と心の中で思うことがあっても、潤奈さんのお父様のように口にすることはあまりないかもしれません。
口にするのっていいですよね。うちの家族はよく言いますよ。「今日ラッキーやったわ」とか、何かを見て「豪華だね!」とか。人がポジティブな言葉を使っているのを聞くと、自分も同じ気持ちになりますから。母なんて、実際とびはねて喜んでいることもあります(笑)。
――ネガティブなことは口にしない、といった暗黙の了解みたいなものがあったりするんですか?
いえいえ、愚痴もたくさん言い合いますよ。「さっきこんなことがあって、ほんと腹が立ったわー」って母が言うと、私も「何それ! めっちゃ腹立つ!」と私が2倍のテンションで怒ることも(笑)。母が「それでも私頑張ったのよ」と言えば、「そうだね、よくやったね」と返します。そうやって一緒に怒り合える相手がいるのも、家族のよさかもしれません。
父は母のことが大好き
――お父様は、仕事であまり家にいなかったと伺いましたが、どんな人ですか?
とにかく母のことが大好きですね。父も若い頃に苦労をしてきた人なので、母と出会えたこと、温かい家庭を築けたことが、とにかくうれしいようです。お母さんと結婚できたことを、「人生のホームランを打った」と言うのが、父の口癖です。
――ご両親ともに苦労されてきたからこそ、小さなことでも幸せを感じられるんでしょうね。
はい。自分たちがしてきた苦労はなるべく子どもにさせたくない。そういう思いが一致して夫婦の絆になっていると聞きました。



失敗するかもしれないけど、子どもの挑戦はやらせるべき
――潤奈さんにひとつ相談が寄せられています。「現在高校2年生の息子がいて、大学に入ったら一人暮らしをしたいと言っています。家は都内にあるので、通えない距離ではありません。私としては小林家みたいに、大人になっても家族みんなで同じ家に住み、程よい距離感で暮らしたいのですが、どう思いますか?」
私はまだ子育ての経験がないのであくまでも持論ですが、息子さんは自分が守られているということに気づかず、とにかく「自由になりたい!」と思っているのかもしれません。でも私たちもその時期があったから分かるけど、高校生ってそういう時期。「好き勝手したい」というのを自由と履き違えているのかもしれません。
ただそれをわかった上でも、親としては「認めてやらせてみる」が大事な気がします。息子さんも一人暮らしを体験してみれば、自分で生活することの大変さもわかるし、親のありがたみをわかってくれるかもしれません。
――頭ごなしに否定しないことが大事なんですかね。
そうですね。1回サバイバルさせてみるのはいいことだと思います。ただその時に「自由と勝手は違うよ」ということはきちんと伝えるべきだし、お金もかかることなので、そこもきちんと話し合うべきですね。家賃はどうするつもりなのか、自分でアルバイトして払う覚悟があるのか、と。私自身も初めて一人暮らしをする時は両親とたくさん会議をしました。
――ちゃんと計画を立てさせた上で、認めると。
はい。それでもし失敗しても、ネチネチ言わず明るく迎え入れてあげてください。失敗の原因は本人が一番わかっているはずなので(笑)。
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反抗期の子どもとの向き合い方、子どもの夢の応援の仕方など…小林家のご両親がしてくれてきたことや潤奈さんが感じてきたことについて語っていただきます。
【PROFILE】
小林潤奈

1995年愛知県生まれ。2016年からX(旧:Twitter)アカウント「小林姉妹」で投稿スタート。禁断のハイカロリー飯やダイエット、お姉さんをはじめとした家族あるある等の日常をマンガにしたブログ『小林おでぶろぐ。』で一躍有名に。お母さんの唐揚げとフライドポテトが大好き。著書に『小林姉妹はあきらめない!』(KADOKAWA)『禁断の変態ごはん』(宝島社)がある。



