
*TOP画像/信長(小栗旬) 市(宮崎あおい) 大河ドラマ『豊臣兄弟』6話(2月15日放送)より(C)NHK
『豊臣兄弟!』(NHK総合ほか)ファンのみなさんが本作をより深く理解し、楽しめるように、40代50代働く女性の目線で毎話、作品の背景を深掘り解説していきます。今回は戦国時代における「きょうだい」について見ていきましょう。
きょうだいは邪魔になれば“排除”一択!?
『豊臣兄弟!』の6話のタイトルは「兄弟の絆」。このタイトルにふさわしく、小一郎(仲野太賀)と藤吉郎(池松壮亮)、織田信長(小栗旬)と信勝(中沢元紀)、信長と市(宮崎あおい)をとおして、きょうだいのさまざまなかたちが描かれていました。小一郎が藤吉郎を命懸けで守ろうとし、藤吉郎が小一郎を信じ続けたことに感動しました。その一方、信長は弟・信勝に裏切られた過去を持ち、市が心に傷を負った信長に寄り添い続ける姿にやるせない気持ちになりました。
戦国時代において、きょうだいは時には邪魔な存在であり、自分の出世の妨げになれば消し去るべき存在でもありました。
当時、親やきょうだいは当主の座を争うライバル。当主とは領国の最大権力者であり、この権力は家庭内でも発揮されるものでした。
側近にとっても主人の家督相続は出世に深く関わる問題でした。側近が主人に後継者争いで勝てるように入れ知恵したり、主人のきょうだいを斬りつけたりすることもありました。
また、当時は珍しくない異母きょうだいですが、異母きょうだいにはお家騒動のリスクが特にありました。例えば、美濃(みの)の戦国大名・斎藤道三の長男であり、側室の子であった義龍(よしたつ)は家督を譲られました。しかし、道三は正室の子を思い、義龍の廃嫡(はいちゃく)を検討し始めたのです。義龍は病人を装い、異母弟を見舞いにおびき寄せ、暗殺しました。さらに、父である道三も長良川(ながらがわ)の戦いで攻め滅ぼしました。義龍は父母、きょうだいを殺してでも、自分の地位を守り抜きたかったのです。
織田信長と弟・信勝の間には何があったの?
『豊臣兄弟!』の4話のラストでは、小一郎が「兄に従い 兄と共に 殿にお仕えしとうござります!」と信長に宣言するシーンがありました。信長はその言葉を聞いて表情がわずかに揺らぎ、記憶の中へと引き戻されていきました。夜更けの頃、弟・信勝が自分に向かって刀を抜き、それを阻もうとした家臣が信勝を素早く斬りつけた光景がよみがえります。信勝は「兄上…」と呟きながら、手を伸ばし、信長の足元で動かなくなりました。

信長(小栗旬) 信勝(中沢元紀) 柴田勝家 (山口馬木也)大河ドラマ『豊臣兄弟』4話(1月25日放送)より(C)NHK
史実においても、織田信長の弟・信勝は信長派に殺されています。信長に家督が譲られた後、信長が家督相続者として不相応と考えた一派が信勝を擁立し、謀反を起こしたためです。信長は稲生の戦いで信勝を破り、家の当主としての地位を守り抜きました。また、信勝については、母・土田御前(どたごぜん)の取りなしによって助命されました。
しかし、きょうだい間の対立はこれで終わりませんでした。信勝は信長に対して再び謀反を企てたのです。さすがに、信長は信勝を許さず、彼を殺しました。
信長と信勝の間には母・土田御前をめぐる確執もありました。土田御前は信長と信勝に愛情を等しく注がず、信勝ばかりに愛情を注いでいたといわれています。信長は母の愛情を実感できず、そのことを気にしていたようです。
ちなみに、2014年放送の大河ドラマ『軍師官兵衛』(NHK総合ほか)では、信長(江口洋介)は弟を殺めて以降、土田御前(大谷直子)から「お前は鬼だ」という言葉を顔を合わせるたびに投げかけられています。
また、信長は妹・お市を自分の地位を維持する道具のようにも扱っていました。“戦国時代一の美女”としても称えられていたお市ですが、兄・信長のために翻弄された人生を送りました。信長はお市を浅井長政に嫁がせ、両家の同盟関係維持を試みましたが、長政は長年縁の深い朝倉義景に寝返り、信長を裏切りました。
この裏切り行為を信長に知らせたのがお市とする有名な逸話があります。お市は小豆を入れた袋の上下を縄で結び、信長に送りました。“織田軍が浅井・朝倉の軍に挟み撃ちにされ、袋の鼠のように逃げ場のない状態にある”と暗示したのです。このエピソードは史実として確定的とまではいえないものの、きょうだいの絆が危機を救ったというロマンチックな解釈もできます。
信長は弟を殺めたり、同盟関係を維持するために妹を政略結婚の道具のように嫁がせたりと、家族をモノのように扱うこともありました。戦国時代ではこうした行為は“普通”であったとはいえ、信長は戦国三英傑の中でもっとも“冷酷”だったと評する識者も現代において少なくありません。しかし、信長自身も身近な人から何度も裏切られるなど苦しい経験をしていますし、弟・信勝の謀反も一度は許しています。これらの点を考慮すると、彼にも寛大さや柔軟さがあったと考えられるでしょう。
本編では、戦国時代において「きょうだい」が絆であると同時に、出世を脅かす危険な存在でもあった現実についてお伝えしました。
▶▶「毒くない」は誰が仕込んだ? 信長が試した“忠義”と“裏切り”の境界線。孤高のカリスマ・信長の悲しい過去が明らかに……
では、次郎左衛門にかけられた疑いの真相と、信長が臣下を試した理由、そして藤吉郎と小一郎が示した“信頼”のかたちについてお届けします。
<参考資料>
小和田哲男(監修)『戦国 忠義と裏切りの作法』ジー・ビー、2019年
黒田基樹『お市の方の生涯 「天下一の美人」と娘たちの知られざる政治権力の実像』朝日新聞出版、2023年
橘龍介『真田丸の夢 ~真田信繁など真田家から見る戦国時代と戦国武将たち~』ICE、 2015年



