そのシーンでジェシー・バックリー演じるアグネスが着用している真紅のドレスについて、A24製作の『X エックス』『Pearl パール』などでも知られる衣装デザイナーのマウゴシャ・トゥルジャンスカがその秘密を明かした。
16世紀イギリスの小さな村。森を愛し、薬草の知識に優れ、不思議な力を宿した妻アグネス・シェイクスピアと、劇作家としてロンドンで活動する夫ウィリアム・シェイクスピア、そしてその3人の子どもたち。だが、あるとき一家に大きな不幸が降りかかる――。
この度解禁された本編映像は、結婚前、恋焦がれるアグネスの視線を引き留めようと不器用に話しかけるウィリアム・シェイクスピア(ポール・メスカル)の姿を捉えた印象的なひと幕。
そのなかでひときわ目を奪うのが、緑豊かな自然の中に鮮烈に浮かび上がるアグネスの〈真紅の衣装〉だ。生命力と痛みの記憶を同時に感じさせるこのドレスには、キャラクターの内面を読み解くための緻密な設計が込められている。
衣装デザインを手がけたのは、Netflixシリーズ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」や、A24製作の『X エックス』『Pearl パール』などで知られ、第98回アカデミー賞衣装デザイン賞にもノミネートされたマウゴシャ・トゥルジャンスカ。
アグネス役のジェシー・バックリーは、この赤いドレスについて「まるで開いた傷口のような色で、時間をかけて縫い上げられ、いくつもの穴が繕われています。誰にも見えないほど小さなものまで」と語り、鷹匠、薬草採集者、治療師として自然と結びつく彼女の精神性を象徴する衣装であることを明かす。
マウゴシャ・トゥルジャンスカは「思い浮かんだのは鼓動する心臓、生命力と血で満ちた筋肉でした。彼女は自然と有機的につながり、ベリーのように慎重に扱わなければ毒にもなりうる存在です」と衣装デザインの着想について明かす。アグネスが初登場する時のベリーレッドやオレンジ、さび色といった鮮烈な色彩は、物語の進行とともに灰紫やプルーンブラウン(深みのある濃い黒紫色)へと変化し、癒えない傷のように、最後には深く成熟した赤へと移ろっていくという。
また、素材面でも徹底したコンセプトが貫かれている。アグネスの大地との結びつきを表現するため、衣装には主に植物繊維の生地を採用。リネンは歴史的背景とキャラクター性の双方に適合する素材として用いられ、さらに本物の樹皮から作られた有機的なテキスタイルも取り入れられた。重ね着の構造は時代考証に基づきながらも、着こなしには現代的な感覚が与えられている。
「整った装いのシェイクスピア家の人々と比べると、彼女は野性的で反抗的、パンクな印象を持っています。外見は変化しますが統一感を保ち、まるでムードリングのように、一着のドレスが自然に彼女に寄り添って変化していくように見せることが重要でした」と、視覚的なインパクトだけでなく、キャラクターの時間や感情の変遷までを織り込んだ衣装表現に言及。
真紅のドレスの意味を知ることで、本編の見え方もまた大きく変わってくるはずだ。
『ハムネット』は4月10日(金)より全国にて公開。



