「自由な子ども」は、本当に幸せ?『テルマエ・ロマエ』作者 ヤマザキマリの過酷な子ども時代。「絵を描かないと、自分のコントロールがうまくいかなくなっていく」 | NewsCafe

「自由な子ども」は、本当に幸せ?『テルマエ・ロマエ』作者 ヤマザキマリの過酷な子ども時代。「絵を描かないと、自分のコントロールがうまくいかなくなっていく」

女性 OTONA_SALONE/LIFESTYLE
「自由な子ども」は、本当に幸せ?『テルマエ・ロマエ』作者 ヤマザキマリの過酷な子ども時代。「絵を描かないと、自分のコントロールがうまくいかなくなっていく」
「自由な子ども」は、本当に幸せ?『テルマエ・ロマエ』作者 ヤマザキマリの過酷な子ども時代。「絵を描かないと、自分のコントロールがうまくいかなくなっていく」 全 1 枚 拡大写真
  

ミラノ・コルティナ五輪の開会式で、解説を務めたヤマザキマリさん。イタリア文化への「深すぎる」知識を駆使した解説が大好評! マンガ大賞を受賞し、映画化もされた『テルマエ・ロマエ』の作者です。

「私は世間からとても自由な人間だと思われています」と語るヤマザキマリさん。14歳でヨーロッパを一人旅し、17歳でイタリア留学。極貧生活の中、画家としての腕を磨き、シングルマザーに。現在では漫画家以外に、文筆家、画家としての顔も持っています。確かに、夢をかなえて自由な生き方をしているように見えます。

しかしヤマザキマリさんにとって、「自由」は大きな「代償」をともなうものだったそうです。一体、どんな子ども時代を過ごしたのでしょうか?

※この記事は、2024年7月に放送された「最後の講義 漫画家・文筆家・画家ヤマザキマリ」(NHK)を書籍化した著書最後の講義 完全版 漫画家・文筆家・画家 ヤマザキマリ』ヤマザキマリ著(主婦の友社)から一部を抜粋・編集したものです。

友だちに「いいなあ」とうらやましがられる一方で、けなげに待ちつづけた母の姿

私の父は幼いころに亡くなり、それから母は再婚したけれどその人とも離婚してしまったので、私と妹は子どものときから二人きりで過ごしていました。母は音楽というエンターテインメントを仕事にしていたので、ほとんど留守。

なので、家にいても、「ご飯を残さず食べなさい」としつけてくれる人もいなければ、「宿題をしなさい」と指示してくる人もいない。

外で遊んでいても、夕方5時くらいになるとどこからともなく帰宅を促す音楽が流れれば、みんなは家族の待っている家に帰ります。しかし、私たちには迎えに来る人も家で待っていてくれる人もいないので、いつまで遊んでいても大丈夫でした。

友達からは「いいなあ、いつまでもブランコで遊べて」などとうらやましがられました。誰もいない家に帰り、用意されたご飯を自分たちで適当に食べ、夜9時過ぎになっても母はまだ戻らない。

寂し紛れにつけているテレビもそのうち内容が大人向けの番組になる。子どもが見るような番組ではありませんが、それすら見たい放題でした。

妹は先に寝てしまうけれど、私は母が帰るまでがんばって起きていて、ときには道路まで出ていって母の車のライトが見えないか真っ暗な外に立ち尽くすこともありました。

子ども時代の「孤独」と「寂しさ」を癒したのが、「絵」だった

私は自由な子どもでした。宿題も自分の意思でやり、ご飯も自分の意思で食べたいだけ食べる。だけど、その自由の代償として抱えていたのが非常に大きな孤独感と疎外感でした。

疎外感はどこからくるのかというと、私たちのような親の管理下に置かれていない子どもと一緒に遊ぶことを、ほかの子どもたちは親から推奨されません。監視されていない子どもと遊ぶのは危険を伴うという解釈が一般的になされていました。

私は自分の中に子どもらしくない孤独感や疎外感が増長していくのを感じつつも、当然それを誰かと共有することもできませんでした。

学校へ行くと、1970年代の半ばですから、当時は郷ひろみさんなどアイドルの話で友人たちは盛り上がっていましたが、私はまったくそうした芸能人やエンターテインメントに関心がありませんでした。テレビが見せてくれるものは寂しさや孤独感を払拭してくれるわけではなかったからです。

では、自分の孤独感はどうやって癒やしていたかというと、家にいるよりも生命反応が大きい屋外にいる時間を増やす。私が幼少期を過ごしたのは北海道で、家の外の森や川にはたくさんの生物がいるので、家にいるときの寂しさや孤独感がなくなります。

母を待ちながらテレビをつけていても、だんだんむなしい感じがしてくるので、そのうち見る気がしなくなっていく。それよりも本を読んで想像力を活性させているほうが楽しいと気がつく。

絵を描くことも同じ。とにかく自分の中にたまり続けるさまざまな思いを外へ何かの形で出していないと、自分のコントロールがうまくいかなくなっていく。そうしていないと、孤独感と寂しさでどうにかなってしまうのではないかという恐ろしい感覚に見舞われてしまうんです。

自由とは、「過酷で困難なもの」という意識を持つべき

なので、自由がもたらすものというのは、楽しさや解放感よりも、誰にも守ってもらえない孤独感だといっていいと思います。哲学者サルトルも言っているように、自由に対して我々はもっと過酷で困難なものという意識を持つべきなんです。

確かに何かに囲われ続けていると、この外へ行けば解放され、自由な空気を吸えるというのもありますよ。そういう感覚をもたらすものであることは間違いないけれど、同時に自分を守ってくれる組織からも距離を置くことになる。

自由という束縛されない解放感には、同時にとても大きな負荷がかかるものであるということを、知っておく必要があると思います。

【関連記事】では、ヤマザキマリさんが「漫画」を描き始めたころのお話を掲載しています。

>>>「きみは絶対漫画が描けるはず」イタリア人オタクのひとことが、人生の転機に。『テルマエ・ロマエ』作者のヤマザキマリ、漫画家としての「はじまり」は?

■BOOK:最後の講義 完全版 漫画家・文筆家・画家 ヤマザキマリ』ヤマザキマリ著 1,760円(税込み)/主婦の友社

■著者:ヤマザキマリ

漫画家・文筆家・画家。日本女子大学 国際文化学部国際文化学科 特別招聘教授、東京造形大学客員教授。1984年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。比較文学研究者のイタリア人との結婚を機にエジプト、シリア、ポルトガル、アメリカなどの国々に暮らす。2010年『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞2010受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ受章。2024年『プリニウス』(とり・みきと共著)で第28回手塚治虫文化賞のマンガ大賞受賞。著書に『ヴィオラ母さん』『ムスコ物語』『歩きながら考える』『扉の向う側』『貧乏ピッツァ』など。現在、『続テルマエ・ロマエ』を集英社「少年ジャンプ+」で連載中。


《OTONA SALONE》

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