
私は児童自立支援施設併設校の元教師で、現在は子育ての悩みアドバイスを発信しているきのぴー先生と言います。 「1人も見捨てない」という信念のもと、Instagram、YouTube、VoicyなどのSNSでの発信、全国各地での講演会、個別相談などで活動しています。ありがたいことに、年間数百件以上のご相談をいただいており、現在は新規のご相談を一時的にストップせざるを得ない状況にもなりました。
今回40代50代の親御さん世代の読者が多いオトナサローネにて連載のお話をいただき、私が施設での教師時代に体験してきた実例、これまでに受けてきた数多くの相談、そして研究と失敗の中から生まれた「子育ての技術」を、体験談を交えて具体的にお伝えしていきます。
児童自立支援施設併設校で教師をしていた当初、どんなに面白い授業をしても、どんなに情熱を込めても、子どもたちの心に届くことはなく、反感と反発で、私の心は真っ暗闇に覆われていきました。
それもそのはずです。ここは、もともと在籍していた学校の素晴らしい先生方でさえ、向き合うことが難しかった子どもたちだけが集まる場所。いやがおうでも、自分の「在り方」が心の底から試される環境だったのです。問題は、子どもたちではありませんでした。私自身の「在り方」だったのです。
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▶「愛情」だけでは子供は変わらないという気づき
反発する子どもたち、「愛情」だけでは変えられない。そこで生み出した「技術」とは
この学校に赴任した年の終わり、担任していた子どもに声を荒げて叱ってしまいました。「ここまで我慢してたけど、なんで君はそんな態度なんだ。こちらがこんなに思っているのに!」と。
すると、こんな言葉が返ってきました。
「は? なに怒っとん? 頼んでねぇし」と。
子どもに声を荒げて叱るなんて、最低最悪な教師だと思います。しかし、およそここまで尽くし、優しく、愛情をもって関わっても、「うんともすんとも響かない」なんて……。そんな体験を、私はそれまで一度もしたことがなかったのです。
ここで私は、私の「やり方」を変えていくべきだと強く悟りました。
翌年からは、行動経済学や心理学を授業に取り入れ、従来の教え込み授業から脱却し「生徒の意志決定を尊重し、よりよい選択を後押しする」指導を行うようになりました。すると、少しずつ、けれど確実に、子どもたちの反応が変わり始めました。私が面白い授業をしなくても、カリスマ的な人間的魅力を持っていなくても、子どもが自走して学び始めたのです。
・小学3年生から勉強をしていない中2の男の子がテストで0点から70点に。
・中3の女の子は内申点が1から5に。
元の学校の先生からは、「信じられないから、もう一度テストを受けてほしい」と言われるほどでした。少しずつ、子どもたちが話を聞いてくれるようになり、やがて、この学校の生徒指導主任を任せられるようになりました。ただし、決して私は上手に教えられるようになったわけではありません。すべてのはじまりは「技術」でした。この「技術」を応用し、不登校に悩む親御さんをサポートするボランティア活動を始めました。これが現在お伝えしている「子育て技術」の原型です。
親御さん方がその「子育て技術」を使っていくことで、子どもたちは再登校をしたり、親子関係が回復したり、新しいコミュニティに参加したりと、目に見える変化を遂げていきました。そして何より、技術をつかう「親御さん自身」が少しずつ笑顔を取り戻していくことが一番の変化でした。
この経験が、今の私の活動の原点です。
▶孤独な子育てをする親が増えている
「孤独な子育て」をする親が増えている。だからこそ信念は「1人も見捨てない」
最後に、私が児童自立支援施設の子どもたちと出会ってから、ずっと大切にしている言葉があります。それが、「1人も見捨てない」という言葉です。これは、理想論でも、きれいごとでもありません。自分をよく見せたいわけでもありません笑。 施設の子どもたちと日々向き合う中で、心から大事だと思うようになり、そして、この先の時代にこそ必要になる考え方だと、本気で感じている言葉です。
そう思う理由のひとつに、インターネットの普及があります。正確に言えば、インターネットを使えるデバイスの急速な広がりです。今は、欲しい情報がすぐに手に入る時代になりました。その一方で、地域での助け合いや、人と人とのつながりが、少しずつ薄れてきているのも事実です。核家族化が進み、孤独な子育てをしている親御さんは、確実に増えています。
さらに、インターネットは「現実から逃避する手段」としても使われています。子育てがうまくいかず、ストレスを感じたとき、ついスマホやパソコンに手を伸ばし、ネットの世界に没頭してしまう。誰にでも起こりうることです。
問題は、その先にあります。ネットの中では、他の家庭の暮らしが、どうしても「キラキラ」して見えてしまう。SNSで楽しそうな投稿を見るたびに、
「どうしてうちの子は、こんなに言うことを聞かないんだろう」
「どうして私は、こんなにうまくいかないんだろう」
そんな思いが積み重なり、気づけば自己嫌悪に陥ってしまうことがあります。
もうひとつ、見過ごせないのが、不登校の子どもの数が年々増えているという事実です。これは、親御さんにとって、とても大きな不安の種ですよね。「なぜ学校に行かないのか」「このままでいいのか」「どう関わればいいのか」正解が分からないまま、そもそも正解とはなんなのか、多くのネットの声に惑わされ、自分という軸を見失い、孤独に悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
この不登校の増加は、時代の変化を映し出しているとも言えます。昭和の時代には、学校に行くことが「当たり前」であり、子どもたちもその枠の中で生きることが求められていました。しかし今は、社会全体が多様化し、価値観も選択肢も広がっています。学校以外にも、さまざまな居場所や学び方が存在する時代です。その中で子どもたちは、自分なりの生き方や居場所を模索するようになっています。もちろん、不登校の増加を、すべて肯定すればいいという話ではありません。ただ、親として「どう向き合い、どう支えればいいのか」に悩むのは、ごく自然なことです。それを、「大丈夫、大丈夫」「フリースクールがあるでしょ」といった言葉だけで片付けてしまうのは、違うと私は思うのです。
▶子育てをする親が持っていると楽になるもの
子どもは性格も環境もみな違う。子育てする親は「複数のカード=手札」を持っておくべき
子どもの性格も、家庭の状況も、親御さんの悩みも、ひとつとして同じものはありません。
だからこそ、この令和のインターネットの世界で、誰かの「正解」を押しつけるのではなく、使える技術を、複数のカード=手札として増やしていくことが大切だと考えています。技術は、年齢を問いません。状況が違っても、悩みの形が違っても、応用がききます。一人ひとり違う現実に対応するための、柔軟な支えになります。
この連載では、私が施設での教師時代に体験してきた実例、これまで受けてきた数多くの相談、そして、研究と失敗の中から生まれた「子育て技術」の手札を、できるだけ具体的にお伝えしていきます。
子育て技術の「手札」とは、子育てをする上での関わり方や考え方の選択肢のことです。例えば自分の経験則しかなく選べる手札が少なかった場合、苦しい状況に追い込まれてしまうことがあります。ですので、複数のカードを持っておくことが必要なのです。また、手札が増えることで、迷いや葛藤が生まれることもありますが、その経験が、親を育て、親子の関係を強くしていくと考えています。
そういった願いを込めて、「1人も見捨てない子育て手札の提案者」として活動を続けています。あなたの手札を、1枚でも増やすことができたなら。それが、何よりの願いです。
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◆プロフィール
1人も見捨てない子育て手札の提案者
きのぴー先生

公立小中学校にて10年間勤務。うち3年間を児童自立支援施設に併設された小中学校で勤務し、生徒指導主任を務める。さまざまな背景をもつ子どもたちと向き合う中で、子どもへの関わり方を技術として体系化。現在は教職を退き、1人も見捨てない子育て手札の提案者として、無料で技術を公開し続けている。現在は講演活動や個別支援も行いながら、感覚やセンスではなく、誰にでもできる関わり方を広めるべく、教育・福祉・家庭の垣根を超えて活動を展開中。Instagram(https://www.instagram.com/kinoppi30)でも子育て技術を発信中。
◆公式サイト
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◆YouTube
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