スタンフォード校長がAI時代の中高生に「唯一の必修科目」として教えていること『13歳からの哲学的思考』
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【星 友啓氏プロフィール】
スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長。哲学博士。1977年東京生まれ。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業後に渡米し、テキサスA&M大学哲学修士、スタンフォード大学哲学博士号を取得。同大学の哲学オンライン講義プログラムの立ちあげに携わり、2016年よりスタンフォード大学・オンラインハイスクール校長に就任。著書に『スタンフォード式生き抜く力』(ダイヤモンド社)、『全米トップ校が教える自己肯定感の育て方』(朝日新聞出版)、『脳が一生忘れないインプット術』(あさ出版)など多数。
スタンフォードの中高生が「いちばん学んで良かった」と言う科目
スタンフォード大学・オンラインハイスクールは、私が校長を務める、スタンフォード大学が開校したオンラインの中高一貫校です。2006年の創立以来、急成長を遂げ、ここ8年連続で全米トップの進学校と評されるようになりました。
成績順位や偏差値はありません。カリキュラムも時間割も生徒ひとりひとり異なり、中学生でも大学レベルの授業が受けられます。全米はもちろん世界50か国以上から1,000人規模の生徒が集まる、かなりユニークな学校です。
卒業生たちは、ハーバードやアイビーリーグの名門大学、世界中の大学院、スタートアップ起業、GoogleなどのIT企業で次世代のリーダーとして活躍しています。その彼ら・彼女らが、卒業後「いちばん学んで良かった」と口をそろえて言ってくれるのは、成績でも進学実績でもありません。本書のテーマは「哲学」なのです。
だからこそ、わが校は哲学を唯一の必修科目として位置づけています。「私が哲学博士だから」という校長のエゴではありません(本当です)。AI時代を生きる中高生にとって、哲学こそがもっとも実用的なグローバルスキルだと考えているからです。
「ばかばかしい問い」を問い直すから、新しい視点が見つかる
「そもそも哲学って、何なんですか?」よく聞かれる質問です。短くお答えしましょう。
哲学の本質は、普段は考えないような「当たり前」「ばかばかしい」「無意味だ」と思われがちな疑問を、あえて問い直して、新たな視点にたどり着くこと。それだけです。
たとえば、突然誰かが「目の前のものって、本当にあるのかな?」と尋ねてきたら、どう思いますか?「ちょっと疲れてるのかな?」「変な人?」と感じてしまうかもしれません。「目の前のものが存在する」というのは、あまりにも当たり前すぎて、問い直すことがばかばかしく思えるからです。
しかし、この根本的な問いに立ち返って考え抜くことで、私たちは新しい理解や気付きにたどり着くことができます。実際、この問いは西洋哲学の歴史を通じて、「世界をどう捉えるか」についての重要な視点を何度も生み出してきました。
哲学と聞くと、「難しそう」「日常とは無縁」というイメージがあるかもしれません。しかし、「当たり前を問い直して新たな視点に至る」という営みは、私たちの日常にこそ役に立ちます。
学校でのトラブルに悩んでいるとき、どうすれば前向きな考え方に変えられるか。テストで解けない問題にぶつかったとき、どこから新しい発想を見つければ良いか。仕事で行き詰まり、アイデアが出ないとき、どうすれば壁を突破できるか。哲学は、何かに行き詰まったとき、いったん立ち止まって状況を整理し、柔軟に新たな突破口を見つけるヒントをくれます。普段使いできる、脳と心のストレッチなのです。
「ChatGPTは考えているのか?」AI時代の13歳に投げかけたい問い
本書『13歳からの哲学的思考』の第1章は、こんな問いから始まります。
「AIは考えているのか? ロボットは心をもてるのか?」
ChatGPTのようなAIを使っていて、「まるで人間みたい」と感じたことはありませんか。ちゃんと質問に答えてくれるし、話を理解しているようにも思える。実際に、ChatGPTを使って500人にチューリング・テスト(人間かAIかを当てるゲーム)をやってもらったところ、54%の人がChatGPTを「人間」だと勘違いしたという研究結果があります。半分以上の人が、AIと人間を区別できなかったのです。
では、そのAIは本当に「考えている」のでしょうか? この問いに対して、哲学者たちはまったく異なる答えを出してきました。
イギリスの数学者アラン・チューリングは、「人間と区別がつかないほど自然に会話できるなら、それは『考えている』と見なして良い」と主張します。私たちがLINEでやりとりしたことのない相手を「この人も自分と同じように心をもっている」と信じるのは、自然に言葉を使ってやり取りできるから。だとすれば、チューリング・テストをパスしたコンピューターも同じように「考えている」と認めて良いはずだ、というわけです。
しかし、アメリカの哲学者ジョン・サールは、「中国語の部屋」という思考実験でこれに反論します。
ある部屋に英語しかわからないジョンがいて、手元に「この記号が来たらこの記号に変えなさい」というマニュアルをもっています。部屋の外の人が中国語で質問を書いて渡すと、ジョンはマニュアルどおりに記号を変換して返す。外から見れば「中国語で会話できている」ように見えますが、ジョン自身はまったく中国語を理解していません。ただ記号を機械的に変換しているだけです。
サールはこう問います。コンピューターも、この部屋のジョンと同じなのではないか? いくら人間らしく答えられても、「言葉を理解している」「考えている」とは言えないのではないか。
答えはまだ出ていません。「心とは何か」「考えるとは何か」という問いは、今なお世界中の哲学者・科学者が議論を続けているテーマです。
しかし、重要なのは答えが出るかどうかではありません。ChatGPTを日常的に使う時代の13歳が、こういう問いに自分なりに向きあえるかどうか。AIと共に生きていく彼らにこそ、「考えるとは何か」を考える経験が必要なのです。
答えを知ることより、問い続けること 哲学が鍛える12のテーマ
「答えが1つではない問い」とよく耳にしますが、ではどんな問いなのでしょう。
たとえば、
・AIは考えている?
・その責任は誰にあるの?
・なぜルールを守らなきゃいけないの?
・言いたいことを言って何が悪いの?
・なんで便器が芸術なの?
などいろいろとあげられますが、私は今回の本で、「形而上学」「認識論」「倫理学」「心の哲学」「政治哲学」「美学」など、字面だけ見ればちょっと尻込みしそうな分野から中心となる12テーマを選び、中高生にも読めるよう具体例とともに解説しました。各章は読み切り形式。興味のあるトピックから自由に読み進められます。
変化が激しく予測不可能な今の時代、「みんながすでに知っているゲームを上手にプレーする力」だけでは不十分です。現在のルールを正しくあてはめるだけの仕事は、すでにテクノロジーに置き換えられつつあります。
これからの時代を生き抜くために求められるのは、「新しいゲームを生み出す力」ゲームチェンジの力です。そして、その力を育むのにもっとも効果的なのが、「答えを知ること」ではなく「問いを立て、考え続けること」。つまり哲学を学ぶことなのです。
受け身から、自分から考える自分へ 哲学はメンタルの土台にもなる
最後に、もう1つお伝えしたいことがあります。
哲学的に考えるという営みは、絶対的に能動的で、自発的な心の働きだということです。
私たちが不安になったり、不満を感じたり、途方に暮れたりするとき、状況に身を任せて受け身でいるだけでは、ネガティブな気持ちに歯止めがかかりません。一方、哲学的な問いかけによって、現状を改めて考え直し、「受け身の自分」から「自分から考える自分」へとシフトチェンジする。そうすることで、より強いメンタルと、持続可能な自己肯定感を手に入れることができます。
人間の心は、誰かに言われたり何かに強制されたりしてやることを、本質的に嫌います。自分の意思に基づいて、自発的に行動することを心は求めているのです。哲学はまさに、自分の意思で考えること。自発的な心の営みの、究極バージョンです。
だからこそ、ご家庭でぜひ試していただきたいことがあります。お子さんが何かに悩んでいたり、「なんで○○なの?」と聞いてきたりしたとき、「それはね」と即答するのではなく、「あなたはどう思う?」と問い返してみること。親子で同じ問いを抱えて、一緒に考えてみる。それだけで、ご家庭の食卓はもう立派な哲学の教室になります。
答えを知っている大人になるのではなく、問い続けられる大人になる。その土台を、13歳のうちに育てておく。それが、AI時代を生き抜くための、いちばん確かな準備になると私は信じています。
スタンフォード大学・オンラインハイスクールで唯一の必修科目となっている「哲学」のエッセンスを、中高生にも読めるよう具体例とともに解説。「AIは考えている?」「なぜルールを守らなきゃいけないの?」「表現の自由はどこまで許される?」など12のテーマで、形而上学・認識論・倫理学・心の哲学・政治哲学・美学といった哲学の主要分野を一気にカバー。各章読み切り形式で、親子・授業・自学のいずれにも使える1冊。
《編集部》
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