
子どもが不登校や行き渋りの状態になると、「何とかしなくては」「このままで大丈夫なのだろうか」と、親のほうが強い焦りや不安に駆られることがあります。心配だからこそ先回りして声をかけたり、気持ちを聞き出そうとしたりして、かえって親子関係が苦しくなってしまうケースも少なくありません。
こうした親の葛藤について、20年以上にわたり不登校の子どもと家族を支援してきた公認心理師の植木希恵氏は、「困っているのは誰なのか」を整理し、親子それぞれの”バウンダリー”を意識することが大切だと指摘します。
本記事では、植木氏の著書から、親子がラクになるためのバウンダリーの考え方と、適切な関わり方のヒントをご紹介します。
※本記事は書籍『不登校・行き渋り…タイプ別でわかる 「学校に行きたくない」と言われたときの親のかかわり方』(植木希恵:著/ディスカヴァー・トゥエンティワン)から一部抜粋・編集したものです
「バウンダリー(自他境界ライン)」で親子の課題を分ける
「バウンダリー」とは、自分と自分以外の人とを分ける境界線のことです。
私たち人間は、物理的には皮膚で隔てられていますが、空間や価値観、時間、考え、お金などに関しても、実は自分のものと他者のものとを分ける、見えない境界線があります。自分のバウンダリーの内側(この本では「じぶんゾーン」と呼ぶことにします)には、次の図のようなものがあります。
「体」は、体の感覚であり、体そのものを指します。お腹が痛くても、その痛みそのものを誰かと共有することはできませんよね。暑い、寒いという感覚も人によって違います。
また、性教育におけるプライベートゾーンの考え方とも重なります。あなた自身の体はほかの誰のものでもありませんし、決して第三者が傷つけていいものではありません。
「秘密」は、自分の胸の中にある、とても大切な部分です。誰にも見せなくていいし、誰にも言わなくていい、自分1人がわかっていたらいいことです。
子育てをするうえで、子どもが保護者である自分にすべてを話してくれることが信頼の証しだと思っている方がいるかもしれませんが、本当に大切なところはその子だけのものです。たとえ保護者であっても、勝手に踏み入ることは許されません。
保護者は自分が信頼されているかどうかを、子どもが本音を話してくれるかどうかで判別しているところがあります。子どもが本音を話してくれないと、自分が信用されていないような気持ちになって落ち込むこともあります。
でも、この本音は「秘密」にあたるものなので、言うか言わないかを決めるのは子ども自身です。そして、子どもが言わなかったとしても、それは決してあなたを信じていないということと同義ではないと知っておいてください。
上図にある3以降については、順を追って説明していきます。
「じぶんゾーン」にあるものの扱い方
バウンダリーがあり、それによって「じぶんゾーン」にあるものが守られていると、自分の人生を主体的に生きることができるようになります。そして、「じぶんゾーン」にあるものについて、自分で「選ぶ」「決める」「責任を取る」ことができるようになります。
また、自分だけでなく他者を尊重することもでき、自分の自由も他者の自由も尊重する関係をつくることができるようになります。
たとえば、自分が買ってきたプリンがあり、あとで食べようと思って冷蔵庫に入れておいたとしましょう。このプリンは、「所有物」にあたります。自分のプリンなので、今食べるか、残しておいてあとでゆっくり食べるかは、自由に決めることができます。
しかし、あなたのプリンを誰かが何も言わずに食べてしまったとします。これがバウンダリーの侵害です。もし、あなた以外の誰かがあなたのプリンを食べたいと思った場合は、あなたに確認する、許可を取る、交渉するなどのやりとりが必要です。
一方で、頼んでもいないのに必要以上にプリンをたくさん買ってきて、そのプリンをあなたが食べ終わるまでじっと見て、「おいしいでしょ?」と何度も聞いてくるといったシチュエーションはどうでしょう。好意でカモフラージュされていますが、これは相手の「感情・欲求・思考」のバウンダリーを侵害する行為です。
プリンを買ってきた人に、「いやいや、遠慮しないで食べて」と言われたら、このような好意は受け入れるしかないと思う人も多いのではないでしょうか。このように、バウンダリーは「良かれと思って侵害される」ということも起きるのです。
バウンダリーを越え、相手のじぶんゾーンに踏み込んで干渉することが「やさしい」「共感性が高い」「愛情深い」という言葉で表現されることが、意外と多くあります。
「気を回す」や「気を配る」といった言葉があるように、言われなくても相手のためを思って何かをするという好意は「良いこと」とされています。また、好意を向けられたほうも断るべきではないし、受け取るのが「良いこと」という社会通念が、日本には強く働いているように思います。
そのため日本では、バウンダリーを守る行動は、時に相手の好意より自分の意思を優先することになるため、相手に冷たい印象を与えてしまうこともあります。バウンダリーを守る行動をとりにくいのは、この点に原因があります。
ここまでの記事では、親が知っておくべき「バウンダリー(自他境界ライン)」という概念についてご紹介しました。つづく関連記事では、「子どもとの心の距離感」についてご紹介します。
つづき>>子どもの自立を妨げる「心のへその緒がつながっている」状態とは?母親が越えがちな「心の距離感」の保ち方【公認心理師が解説】
■著者略歴: 植木希恵(うえき・きえ)
公認心理師。20年以上、不登校・発達障害の子どもたちとその家族にかかわる。カウンセラー・心理スタッフとして勤務したフリースクール併設のカウンセリングルームで、多くの不登校の子どもたちにソーシャルスキルトレーニングや心理カウンセリング、進路相談を行う。その後、中学校で講師として勤務した際に不登校や発達障害の子どもと接する機会が増えたため、2014年、広島市にて「不登校・発達障害傾向の子どものための個別指導塾 きらぼし学舎」を開業。1人の子どもに長くかかわるのが特徴で、小学生から高校、大学、専門学校、社会人になってからもカウンセリングを継続しているケースもある。子どもの心理・学習サポートを行うと同時に、母親に子育ての視点を提供する人気講座「お母さんのための心理学講座」をオンラインで開講中。受講生の方から「もし受講していなかったら、不登校の子どもへの対応を誤ったり迷ったりしていたはず」「不登校だから、発達障害だからではないもう一つ上の視点を学び、子どもとの関係が良くなった」という報告が届いている。著書に『発達障害&グレーゾーンの子の「できた!」がふえる おうち学習サポート大全』(主婦の友社)がある。




