
「投資にリスクはつきもの」とよく言われますが、頭ではわかっていても、やっぱり不安に感じてしまうもの。「もし損してしまったらどうしよう…」と、なかなか踏み出せない人も多いのではないでしょうか。
こうした不安について、オルカンの生みの親である代田秀雄氏は、投資のリスクとは「損すること」ではなく、価格が上下に動く幅のことであり、その変動にどう向き合うかが大切だと指摘します。
本記事では代田氏の著書から、投資におけるリスクの本当の意味と、上手な向き合い方について紹介します。
※本記事は書籍『オルカン思考: 世界経済を味方につける「長期投資」の教科書』(代田秀雄:著/Gakken)から一部抜粋・編集したものです
投資の世界におけるリスクとはなにか?
投資を始めるうえで、避けては通れないテーマが「リスク」です。
投資の世界で語られるリスクには、理論的に測定できる「客観的リスク」と、投資家が心理的に感じる「体感的リスク」の二つの側面があります。
この二つを混同すると、理屈では正しいはずの運用が途中で続かなくなってしまうことがあります。ここでは、その両面からリスクの本質を考えてみたいと思います。
投資における「リスク」とは、日常的に使われる「危険」や「損をする可能性」とは少し意味が異なります。投資の世界でいうリスクとは、簡単にいえば「価格がどの程度、大きく上下に変動するか」という不確実性の大きさを指します。
この価格変動の大きさは、感覚的なものではなく、理論的には数値で表すことができます。その代表的な指標が「標準偏差」です。標準偏差とは、一定期間の平均的なリターンから、どの程度上下に振れているかを示す指標であり、値が大きいほど価格変動が激しく、「リスクが高い資産」と評価されます。
重要なのは、リスクが高いということは、「損をする可能性が高い」という意味ではない点です。リスクとはあくまで結果の振れ幅の大きさであり、上にも下にも大きく動く可能性を含んでいるということです。したがって、短期的には損失が生じることもあれば、大きな利益が得られることもあります。
投資の基本原則として、リスクとリターンは常に表裏一体の関係にあります。価格変動が小さく安定している資産は、結果の見通しが立てやすい反面、得られるリターンも限定的です。預貯金や債券がその典型例です。一方で、価格変動が大きい資産は、短期的な損失リスクを伴う代わりに、長期的にはより高いリターンが期待されます。株式がこの代表です。
では、なぜこのような関係が成り立つのでしょうか。それは、投資家が引き受ける「不確実性」の大きさに理由があります。将来の結果がある程度予測できる資産には、多くの投資家が安心して資金を投じるため、リターンは自然と低く抑えられます。
逆に、将来の見通しが不確実で、結果の振れ幅が大きい資産には、その不確実性を引き受ける見返りとして、より高い期待リターンが求められるのです。
このように、リスクとは避けるべき「危険」ではなく、リターンを生み出すための前提条件ともいえます。投資において重要なのは、リスクをゼロにすることではなく、自分がどの程度の変動を受け入れられるかを理解したうえで、適切に管理し、時間を味方につけて活用することなのです。
投資家が感じる体感的リスク
一方で、理論上定義されるリスクと、投資家が実際に感じるリスクは、必ずしも一致しません。
理論的なリスクは、「価格変動の大きさ」を客観的に測定したものですが、人が恐怖や不安を覚えるのは「振れ幅そのもの」ではありません。多くの人が本当に怖いのは、次のような結果です。
・このまま続けたら、資産が取り返しのつかないほど減るのではないか
・老後資金など、必要な時期までに必要な金額が用意できなくなるのではないか
・今売らないと、もっと損をしてしまうのではないか
たとえば、長期投資の途中で相場が大きく下落した局面を想像してみてください。理論的には、十分に分散された株式投資であれば、時間をかけて回復する可能性が高いと説明されます。しかし実際には、多くの投資家が「このまま続けて本当に大丈夫なのか」「これ以上損をしたくない」という感情に強く揺さぶられます。
その結果、本来であれば保有を続けることで回復が期待できる局面にもかかわらず、不安に耐え切れず売却してしまうことがあります。これは、価格変動そのものが問題なのではなく、その変動に対して人がどう感じ、どう行動してしまうかが問題なのです。
このように、数値として測定されるリスクではなく、投資家の感情や心理的反応、行動のブレによって生じるリスクを「体感的リスク」と呼びます。体感的リスクの本質は、「相場の変動」ではなく、「変動に直面したときに、自分の判断が揺らぐこと」にあります。
実際、行動経済学の分野では、人は利益よりも損失に強く反応し、同じ金額であっても「得る喜び」より「失う痛み」を大きく感じることが知られています。そのため、理論的には合理的でないタイミングで売買を行い、結果として長期的なリターンを損なってしまうケースが少なくありません。
また、実証データも、これを裏づけています。投資信託評価会社・モーニングスターの調査によれば、一般的な公募投信では、過去10年間において、投資信託そのものの平均リターンよりも、実際に投資家が得たリターンのほうが低くなる傾向が確認されています。これは、多くの投資家が相場の上下に合わせて売買を繰り返し、「安く売って、高く買う」という行動を無意識に取ってしまった結果だと考えられています。
つまり、長期投資における最大のリスクは、市場そのものではなく、「自分自身の行動」である場合が少なくないのです。だからこそ、投資を成功させるうえでは、理論的なリスク指標を理解すると同時に、自分がどの程度の変動なら感情的に耐えられるのか、つまり体感的リスクに対する耐性を知り、それを前提に投資の仕組みを設計することが極めて重要になります
ここまでの記事では、「投資のリスク」についてご紹介しました。つづく関連記事では、「パッシブ運用」と「アクティブ運用」について詳しくお伝えします。
つづき>>投資信託の「最も合理的な運用方法」って?「オルカンの生みの親」が教える、長期投資で成果を上げるうえで欠かせない二つの運用タイプ
■著者略歴:代田秀雄(しろた・ひでお)
三菱UFJアセットマネジメント前常務。シロタ・ウェルス・アンド・ウェルビーイング・アドバイザーズ代表。1985年に三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)に入社。支店にて個人財務相談や法人融資などを担当した後、年金資金や投資信託の運用業務に約30年にわたり携わる。三菱UFJ投信で商品企画部長などを歴任し、2019年より三菱UFJ国際投信常務取締役として商品・マーケティング部門等を所管。インデックス投資を通じて、資産形成やNISAの普及に貢献した。2025年4月、三菱UFJアセットマネジメント常務取締役を退任し、特別業務顧問に就任するとともに、シロタ・ウェルス・アンド・ウェルビーイング・アドバイザーズを設立。中央大学法学部兼任講師(国際金融論)。人気投資信託シリーズ「eMAXIS Slim」、なかでも「オルカン」の生みの親として、メディアでたびたび取り上げられている。本書が一般書としては初の書籍となる。



