
元TBSアナウンサーのアンヌ遙香がニッチな眼差しで映画と女の生き様をああだこうだ考え、“今思うこと”を綴る連載です。ほんのりマニアックな視点と語りをどうぞお楽しみに!
【アンヌ遙香、「映画と女」を語る】
MEGUMI初プロデュースの話題の新作映画

『FUJIKO』TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 配給:Atemo © 2026 FUJIKO Film Partners
6月5日に公開された映画『FUJIKO』。この作品は、MEGUMIさんが企画・プロデュースおよび出演もされている作品ということでも話題になっています。今やMEGUMIさんといえば、タレントという枠を超えた、実業家やプロデューサーのイメージ。高市総理との会談も昨今報道されていましたが、「道を切り拓いてきた女性」のもはや代表格のような存在だと私は感じています。
そんな彼女が手掛けた映画だからこその、力強さがここにはある! もちろん、「良い映画に男も女もない」という前提はありますが…ただ、それでもなお私は、この作品は特に女性に観てほしい映画だと感じている次第。
貴方の人生は「つまらない」のか?

『FUJIKO』TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 配給:Atemo © 2026 FUJIKO Film Partners
そこのあなた、自分の人生を「ごくごく平凡でつまらない」と思っていませんか。特別な経験なんてない、自分には人に語れるようなドラマはない、と感じている人は少なくないでしょう。(実は「平凡」に勝る素晴らしい価値観はない、と私は感じたりしますが、この話はまたいつか。)でも、この作品は「本当にあなたの人生はつまらないの?そうじゃないでしょ!?」と教えてくれるのです。
そう、すべての女性の人生は、ロックンロールなのだと。
雷の中で出産、波乱の人生の富士子。

『FUJIKO』TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 配給:Atemo © 2026 FUJIKO Film Partners
物語の舞台は1977年の静岡。嵐の夜、停電した病院で主人公・富士子(片山友希)が娘を出産する場面から始まります。富士子は後に保険の優秀な外交員となるのですが、ある日、たまたま知り合った男性に自分の身の上話を語り始めます。その男性を演じているのが、リリー・フランキーさん。これがまたよい。
「私はこんな雷の日に子どもを産んだんです」
そう語り始める富士子の人生を、観客は少しずつリリーさんとともに辿っていくことになります。富士子は子どもをきっかけに結婚。しかし、義母や義姉との関係は苛烈なもので、ついには娘を取り上げられてしまいます。精神的に追い詰められ、実家へ戻り、寝込む富士子。

『FUJIKO』TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 配給:Atemo © 2026 FUJIKO Film Partners
そんな彼女を外へ連れ出してくれたのが、MEGUMIさん演じる喫茶店のママ・瞳でした。亡霊のように立っているのがやっとの富士子でしたが、そこで女性たちによるデモに遭遇します。

『FUJIKO』TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 配給:Atemo © 2026 FUJIKO Film Partners
▶「モテない女のヒステリー」と揶揄されて
「モテない女のヒステリー」

『FUJIKO』TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 配給:Atemo © 2026 FUJIKO Film Partners
1970年代から80年代。当時、女性が権利を主張することは、今以上に冷笑の対象でした。「モテない女のヒステリー」などと揶揄される、とMEGUMIさんのセリフにもあるほど。それでも女性たちは声を上げつづけます。「女にも自由を」「抑圧するな」と。
同じシュプレヒコールを叫んでいても、その背景にある人生は一人ひとり違うわけです。家に閉じ込められて苦しんでいる人、自分でお金をかせぎたい人、自分の力で子育てしたい人、どこか遠くに行きたい人……。叫びの裏に、それぞれの人生があるのです。
その時、富士子の中に浮かんだ言葉は、「子どもを返せ」でした。自分が本当に叫びたいことは何なのか。彼女はそこで初めて気づきます。そして義実家へ走り、玄関扉を叩き、「子どもを返して」と泣き叫びます。フジコの迫力に気押された義理の母たちはすんなり子供を返したのでした。
女たちがお互いに殴り掛からんばかりの迫力で罵り合う場面が大変印象的な本作品。これは女たちのアウトレイジなんだよな。ただ、この映画がすごいのは、そこを“感動のゴール”にしないところ。子どもを取り返したあとも、もちろん現実は続いていくわけで。

『FUJIKO』TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 配給:Atemo © 2026 FUJIKO Film Partners
保育園は足りない。役所は冷たい。働きたくても子どもの預け先がない。今でこそ待機児童問題は広く知られていますが、当時はもっと深刻。赤ん坊を抱えながら保育園を回り続けるフジコの姿は、子育て世代の女性ならずとも、「こんな現実おかしい!」と胸に迫る物があるはず。でもはっきりいってこの現実、令和の今でもかわっていなかったりするわけで。
女である、だけで忍耐を強いられる。
さらに、ようやく見つけた仕事も一筋縄ではいきません。賭博場で料理を作る仕事(!)に就き、必死に働き、お金を貯める。しかし、空き巣に入られ、すべてを失う。
それでも彼女は生きなければならない。子どもを生かすために。「女の人生はとにかく必死」なんですよ。もちろん、シングルマザーだけの話ではありません。結婚、出産、介護、仕事、地方での生きづらさ。女性であるというだけで、過酷な選択を迫られる場面、理不尽な忍耐を強いられる場面は、今なお日本社会に多く残っています。
産むのは女性。身体に負担がかかるのも女性。そして、仕事に復帰しようとしても、子育てとの両立は簡単ではない。「男女平等」という言葉だけでは片付けられない現実が、まだまだ確かに存在しています。
人生を切り拓け!それはロックだ!
でも、この映画はただ「つらい現実」を描くだけではありません。それでも人生を切り拓いていくのが女なんですよ。その姿そのものが、ロックンロールなの。
劇中では、ロックというモチーフが何度も登場します。フジコの父親役としてうじきつよしさんが出演しており、ギターを奏でる場面も。フジコ自身も、本当はロックをやりたかった、でも、自分には無理だと思って諦めていたわけです。しかし後になって気づくのです。生き様そのものが、ロックだったのだと。
苦労して、転んで、裏切られて、それでも前に進む。たぶんこのロケンロールは、私たちの母も、祖母も、曾祖母も、みんな経験してきたはず。そして終盤、フジコは人生の大きな選択を迫られます。この選択をぜひ、みなさんにも見届けてほしいのです。
フジコの選択。

『FUJIKO』TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 配給:Atemo © 2026 FUJIKO Film Partners
保険会社で出会った同僚からプロポーズを受けるフジコ。その男性は娘にも優しく、誠実。ここで再婚すれば安定したおだやかな幸せが少なくとも少しは約束されるのです。フジコの生き方にずっと眉をひそめてきた母や兄らはもろ手を挙げてこの話をよろびます。「これで安心だ」と周囲が勝手に胸を撫でおろすわけですが……。フジコは、そこで立ち止まるのです。
本当に私は、この道を選びたいのだろうか。
“女一人では生きるのが大変だから”という理由で結婚を選んでいいのか。
彼女が最後にどんな選択をするのか。それはぜひ劇場で確かめてほしいと思います。どんな女性の人生にも、必ず“ロックだった瞬間”がある。自分では平凡だと思っていても、大なり小なり、眠れなくなるくらいの修羅場があったはず。苦労がある。必死で何かを守った瞬間がある。
何度も言いますが、それはあなたの母親かもしれないし、祖母かもしれない。
貴方の母も、祖母も、ロックだったはず。
私の祖母も、樺太から引き揚げて北海道へ渡り、家族を作り、ここまで命を繋いでくれました。きっとその人生にも、ロックだった瞬間が山ほどあったはず。もちろん生きるか死ぬかの体験もしているわけで、ロックでは済まされない経験もしているわけで。でも戦後結婚し、子供を産んで、いろいろ悩んだ瞬間が絶対あったはず。
私自身も、東京でアナウンサーをやっていた時代もあるし、今は20年の東京生活を後ろにおいて、故郷北海道で新しい人生を送っています。占い師さんに半生を話すと驚かれることもあるような数奇な人生だったかも。でも、それを「苦労」と思うのではなく、「ロックンロールだった」と思えたら、人生は少し違って見えるのかも。
もちろん、本当に追い詰められる瞬間もあります。それでも、「これもロックだ!」と感じられたら、人は少しだけ前に進めるのかもしれない。人生を前向きに捉えることができるのかもしれない。『FUJIKO』は、すべての女の生きかたの肯定であり、エールであり、そして全女性が富士子そのものだということを教えてくれるのです。
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『FUJIKO』

『FUJIKO』TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中 配給:Atemo © 2026 FUJIKO Film Partners
監督自身の母の人生を題材に、木村太一監督とMEGUMIが企画・プロデューサーとしてタッグを組んで生まれた渾身作。主演は映画『茜色に焼かれる』で報知映画賞最優秀新人賞を受賞した片山友希。
舞台は1977年の静岡。嵐で停電した病院で娘・麻理を産んだシングルマザー・富士子は、姑と義姉に娘を奪われるという理不尽な仕打ちを受けながらも、実母の力を借りて取り返し、周囲の反対を押し切って二人で生きることを選ぶ。既成の価値観に抗いながら、自由と自分らしい生き方を模索する富士子の波乱万丈の人生を描く。
出演:片山友希、YOU、リリー・フランキー、MEGUMI、うじきつよし、竹下景子、イッセー尾形、岸本加世子ほか
原案・監督:木村太一 脚本:我人祥太、國吉咲貴 企画・プロデュース:MEGUMI
配給:Atemo © 2026 FUJIKO Film Partners TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中



