2022年3月、ロシア国営放送の海外特派員だったジャンナ・アガラコワは、ウクライナ侵攻に抗議し、職を辞した。「いつの間に私はプロパガンダに加担していたのか?」その答えを求めて彼女は過去を遡る。
ジャンナ・アガラコワは、イタリア人の夫と娘のアリーチェとニューヨークで暮らしていた。3歳の時にロシアを離れ、思春期を迎えたアリーチェとはどこか“言葉”が通じない。そんな娘にルーツの祖国を知ってもらいたいと、休暇にあわせ3人は縦横無尽にロシアを旅した。
四つの夏と一つの冬の旅を含む家族の記録には、母娘のズレとロシアのリアルが映っている。「ロシア人らしさ」を求める母を理解しつつも、受け入れることも、受け流すこともできないアリーチェ。ロシアを偉大で素晴らしい国だと信じ、誇りを胸に仕事を全うするジャンナ。
広大な土地にまばらな人家、豊かとは言えない人々の暮らし、少しずつ濃くなる戦争の気配。伝えられることのないロシアの現実と、語られることのない家族の秘密。そして、アリーチェの決定的なひと言をきっかけに、ロシアを巡る家族旅行はジャンナの内省の旅へと変貌を遂げる――。
世界各国の映画祭でソールドアウト続出、密かに注目を集める話題作ジャンナ・アガラコワは現在、「外国の代理人」に指定され、事実上の亡命生活を送っている。そんな彼女が3年の歳月をかけ、数百時間に及ぶ映像から編み上げた本作には、祖国と家族を愛するがゆえに犯した自らの過ちと悔恨が包み隠さず描かれ、世界各国の映画祭でソールドアウトが続出するなど密かに注目を集めている。
ソ連崩壊という動乱の時代に自由と変化の兆しを感じて、ジャンナはジャーナリストになり、順調にキャリアを築いていった。その一方で、テレビから市井の人々の姿が消え、ニュースはプーチン一色に染まっていった。
そして始まった戦争は、現在も続いている。世界は徐々に変わっていく。その変化に無自覚なまま沈黙と妥協を重ねてきた彼女が、ジャーナリストとして、母として、自身の良心と向き合い完成させた、愛と嘘、そして故郷喪失の痛みを綴った、私的かつ詩的なドキュメンタリー映画だ。
ジャンナ・アガラコワ監督よりコメント私にとって、2022年2月24日は、私が信じていたこと、ロシア人であることについて教えられてきたこと、私のアイデンティティの基盤となっていたすべてが破壊され、崩れ去った日です。私たちは学校で、ロシア人は戦争を始めたり、同胞を見捨てたりせず、老人や子供たちを守るものだと教えられてきました。しかし、それらはすべて嘘であり、偽りでした。それは私の人生で最も強烈な衝撃でした。
今回、私の映画が日本で上映されることになり、この上なく誇りに感じています。私が自ら気づいたことを日本の皆さんにお伝えできればと思います。愛国心はファシズムからほんの二歩しか離れておらず、いかなる国家的・文化的アイデンティティよりも、人間性こそが重要なのです。
『さよなら、私のロシア』は11月14日(土)よりユーロスペースほか全国にて順次公開。


