
うつ病は「心の風邪」と表現されることがあります。厚生労働省が実施した2023年の患者調査によると、精神疾患で通院や入院をしている方は全国で603万人にのぼります。2011年時点では258万人だったことを考えると、10数年で2倍以上に激増している計算になります。私たちが日常的に風邪をひくのと同様、誰がいつうつ病を発症してもおかしくありません。「自分には関係ない」と高をくくるのは非常に危険で、それは自分自身だけでなく大切な家族にとっても同じことです。つまり、うつ病を患った家族を支える側になる可能性も大いにあるのが現実です。
今回の相談者であるパートタイマーの恵理子さん・41歳も、まさにそんな過酷な状況に直面した一人でした。
<家族構成と登場人物、属性>
妻:夏田恵理子(41歳) / パートタイマーで年収180万円。今回の相談者です。
夫:夏田幹夫(44歳) / 会社員で年収600万円。
元妻:南野未唯(40歳) / 派遣社員で年収250万円。
子:南野未桜(8歳) / 幹夫と未唯の間に生まれた子どもです。
<毎月の支出内訳:計 343,900円>
家賃:90,000円
電気代:14,000円
ガス代:12,000円
水道代:8,000円
携帯代:24,000円
車のローン:23,300円
ガソリン代:6,000円
自動車保険:4,000円
食費:50,000円
生命保険:5,600円
奨学金返済:37,000円
元妻への養育費:70,000円
※画像はイメージ写真です。
【行政書士がみた、夫婦問題と危機管理 #24】
激務と人員削減で崩壊した夫…傷病手当金では足りない過酷な現実
恵理子さんの夫である幹夫さんは、部品メーカーの管理職として真面目に働いていました。幹夫さんには離婚歴があり、6年前に離婚した元妻との間に生まれた子どもを育てるため、毎月7万円の養育費を支払い続けています。恵理子さんもその事情を理解した上で再婚し、生活を支えてきました。
しかし、幹夫さんの勤務先が物価高を理由に無理な人員削減を強行しました。部署の部下は以前の3分の2に激減したにもかかわらず業務量は変わらず、足りない穴埋めはすべて管理職である幹夫さんの肩に重くのしかかりました。帰宅は連日午前零時過ぎでした。管理職のため残業代は一銭もつかず、休日も自宅で仕事をこなす異常事態が続いたのです。
やがて幹夫さんは会話が減り、夜も眠れず、みるみるうちに頬がこけて体重は8キロも減少しました。ついにベッドから起き上がれなくなり、過労とうつ病で休職を余儀なくされました。
休職により、夫の収入は給料から健康保険の傷病手当金へと切り替わりました。そして、振り込まれる金額は休職前の3分の2にあたる毎月17万円まで激減しました。恵理子さんの毎月13万円ほどのパート代を合わせても世帯収入は30万円。毎月約34万円かかる支出を賄いきれず、家計は一気に火の車へと転落してしまったのです。
▶「月7万の養育費」で家計が押しつぶされそう。ある日、裁判所から届いた衝撃の『履行勧告』
家計を押しつぶす「月7万の養育費」と、届いた衝撃の『履行勧告』
家計を最も圧迫していたのが、幹夫さんが毎月支払い続けてきた7万円の養育費でした。過去にも一度うつ病を経験していた幹夫さんにとって、今回の再発は長期休職を意味していました。この窮状で養育費を満額払い続ければ、毎月3万円から4万円の赤字が積み重なる計算になります。
困り果てた幹夫さんは元妻へ「休職中は毎月3万5000円に減額させてほしい」とLINEで苦渋の訴えを入れました。しかし元妻は「そんなの理由にならない!」「約束したんだから全額払って!」と一切耳を貸さず、激しい非難を浴びせ続けたのです。ただでさえ心身の安静が必要な病床の夫は、元妻との不毛なやり取りで症状がますます悪化してしまいました。減額の合意が得られないまま約半年間、苦肉の策として半額だけを振り込み続けていたところ、ある日突然、自宅に家庭裁判所から封筒が届きました。
封筒の中身は「履行勧告」の通知書でした。離婚調停などで決まった養育費に未払いが発生した際、権利者である元妻の申し立てによって裁判所から義務者へ支払いを催促する書面です。そこには、未払い額が計21万円に達していることや、確定判決と同等の効力があり履行しなければならない旨が厳格に印字されていました。
私がやるしかない…病床の夫に代わり、41歳妻が立ち上がる決意
「このままじゃ夫が壊れてしまう……どうしたらいいんですか!?」と不安に押しつぶされそうになりながら、筆者のもとへ相談を寄せてきた恵理子さん。
厚生労働省が公表した2024年の人口動態統計でも、結婚全体に占める再婚の割合は24%と約4人に1人にのぼり、子連れ離婚や再婚家庭における経済トラブルは決して珍しくありません。
幹夫さんは離婚当時から元妻への養育費支払いに追われ、貯金はゼロでした。恵理子さんと出会った頃も財布はすっからかんで、最初のデート代は恵理子さんがおごったほどでした。結婚後もほとんど蓄えがない状態での休職だったため、猶予なしの極限状態に追い込まれていたのです。
病床で苦しむ夫に養育費の減額交渉をさせるのは限界がありました。「養育費を踏み倒す気なんて一切ありません。主人が復帰するまでの間、支払いを猶予してほしいだけなんです」と涙ぐむ恵理子さん。筆者は「ご主人の代わりに、恵理子さんが元妻と交渉を進めてみませんか」と提案し、元妻との直接対峙に向けた具体的な準備へと乗り出しました。
ここまでは、過労うつで休職中に養育費が支払えなってしまった夫が「せめて半額だけでも」と振り込みをしていたら、裁判所から履行勧告が届いてしまった…という恵理子さん夫婦の窮状をお伝えしました。つづく後編記事では、病状が悪化した夫のかわりに、元妻へ養育費の減額交渉をすることにした恵理子さんの戦略についてお伝えします。
>>つづく【後編】を読む
『「苦しいのはこっちも同じ!」暴言を吐く元妻。過労うつで休職した夫を守るため、41歳の再婚妻が突きつけた「法律の切り札」とは【行政書士が解説】』



