
モラハラ・夫婦問題カウンセラーの麻野祐香です。
働く女性は、モラハラやDVをする夫から簡単に逃げられるのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。さまざまな事情から、支配的な配偶者との結婚生活を続けている方は少なくありません。オトナサローネ世代のモラハラ被害にフォーカスした本連載。今回は、夫からの異常な嫉妬と支配、そして性的DVに苦しみ続けたRさんのお話です。
※本記事は、相談者様への敬意と守秘義務に十分配慮したうえで、モデルケースとして編集・再構成しお届けしています。特定の人物や事例を示すものではありません。
※写真はイメージです
「結婚して僕だけのものになって」とプロポーズされて
Rさんが今の夫と出会ったのは、シングルマザーとして一人で子どもを育てるために夜の接客業をしていた頃でした。夫はRさんと出会ってから、毎日のように店へ通いつめました。高価なプレゼントを贈り、惜しみなくお金を使い、Rさんの仕事が終わるまでほかの店で時間をつぶして待ち、必ず家まで送ってくれるようになりました。
「今日も迎えに来たよ」
「心配だから。君は俺が守らないと」
そう言われるたび、Rさんは大切にされていると感じました。しかしお店で他のお客さんと話すことも、仕事のうち。それでも彼は、「さっきの男と、ずいぶん楽しそうだったな」と、いつも嫉妬していました。
「ほかの男と話さないでほしい。仕事を辞めて、僕と結婚して、僕だけのものになって」そうプロポーズされたとき、Rさんは「本当に愛されている」と舞い上がり、結婚を決めました。けれど、今振り返れば、惜しみなく与えられたお金も、毎晩の迎えも、強い独占欲も、すべて支配の始まりでした。
「愛」と「支配」の違い
結婚後、夫はRさんを厳しく監視するようになりました。
愛情は、相手の自由を尊重します。一方で支配は、相手の行動、交友関係、時間、そして心まで、自分の思いどおりにしようとします。生活費に困ることはありませんでしたが、そのお金はRさんに自由を与えるどころか、その逆でした。夫が優位に立ち、Rさんを家に閉じ込めるための道具になっていったのです。
買い物に出るときは、「今から家を出ます」「スーパーに着きました」とLINEで逐一報告しなければなりません。帰宅が少しでも遅れると、何度も電話が鳴ります。
「どこにいる」
「誰と話していた」
「だったら、なぜ遅れた」
帰宅後もレシートを見せ、買ったものや時間について説明を求められます。少しでも夫の認識と違えば、尋問が始まりました。美容院やエステも、夫が一緒でなければ行くことを許されません。美容師が男性だったというだけで、その店には二度と通えなくなるのです。
徹底的に妻を管理する。そのために、疑い続ける
モラハラ加害者の嫉妬は、被害者の行動が原因ではありません。加害者が相手を支配するために、疑う理由をつくっているのです。どれだけ行動を改めても、どれだけ説明しても、疑いはなくなりません。それは、相手を管理し続けることが目的だからです。
「養ってやっている」
夫は、その言葉も繰り返しました。
「誰のおかげで、この生活ができると思っている? 俺がいなければ、お前は何もできないんだからな!」
生活費を渡すたびにそうやって恩に着せ、Rさんから反論する力を奪っていきました。しかし、周囲から見れば、Rさんは経済的に恵まれた妻でした。夫は外では穏やかで気前がよく、妻を思いやる様子をアピールするのです。
「優しいご主人ね」
「大切にされていてうらやましい」
そう言われるたび、Rさんは悲しみを心の奥に隠し、ただ微笑むことしかできませんでした。
しかし、どうしてもつらかった時期に、友人に
「実は、うちの夫の監視がきつすぎて…」
と打ち明けてしまったことがあります。そのとき返ってきた反応は、軽い笑いと、
「それって、のろけ? 愛されてるって言いたいわけ?」
という言葉でした。
Rさんはとても傷つきました。
外面のいい夫の本当の姿は、誰にもわかってもらえない。誰に話しても無駄なのだと、このとき身にしみて感じたのです。
熱があっても夫婦生活を強要される
夫婦生活についても、Rさんに断る自由はありませんでした。体調が悪くても、生理中でも、拒否することは許されません。
「今日は熱があるから、休ませて」
勇気を出して、そう伝えたこともあります。すると夫は、低い声で言いました。
「俺を拒むのか」
そしてこう言ったのです。
「本当に体調が悪いのか?…ほかの男と浮気しているんだろう!」
断れば怒鳴られる。責められる。
その恐怖から、Rさんは断ることを諦めました。夫が近づいてくると、心だけを遠くへ逃がし、ただ時間が過ぎるのを待つようになりました。悔しさから涙を流すRさんを見ても、夫は「そんなに”いい”のか」と言い、さらに興奮しました。
妻の意思に反して行われる性行為は、夫婦だからといって許されるものではありません。これは、性的DVにあたります。DVというと、暴力を振るわれたり、無理やり押さえつけられたりする場面を思い浮かべる方もいるでしょう。しかし、実際にはそれだけではありません。
「断ったら怒鳴られる」
「不機嫌になられる」
そうした恐怖や威圧によって拒否できない状態で応じているのであれば、それもDVです。
結婚したからといって、いつでも相手の求めに応じる義務があるわけではありません。相手の意思を無視し、自分の欲求を優先し続けることは、愛情ではなく支配です。Rさん自身も、「夫婦なのだから我慢するしかない」と思い込み、長い間、自分が被害を受けていることに気づけませんでした。
モラハラでは、このように「自分が悪い」「妻なのだから当然」と思い込まされることで、被害者自身が助けを求められなくなってしまうのです。
がんを告知されても…「誰か助けて」心が壊れた日
「もう限界だ。この人とは別れよう」
離婚を決意したその直後、Rさんは胸に違和感を覚えました。病院で検査を受け、告げられた診断は、「乳がん」でした。ぼんやりと医師の説明を聞きながら、Rさんの頭に最初に浮かんだのは、「これでもう、わたしは離婚できない…」という思いでした。
病気になれば、一人で生活していくことは難しくなり、治療費もかかります。逃げようと決めたのに、結局、夫のもとから離れることはできない。Rさんはそう思ったのです。乳がんになったことを夫に伝えたとき、返ってきたのは、心配でも励ましでもありませんでした。
「SEXはできるのか」
その一言だけでした。
もしかしたら、病気をきっかけに夫は変わってくれるかもしれない。少しでも自分を気遣ってくれるかもしれない。そんな期待は、その瞬間に打ち砕かれました。
抗がん剤治療は、通院で行われました。治療を終える頃には、体力も気力も限界です。それでも夫が病院まで来てくれることはなく、Rさんは一人で電車を乗り継ぎ、ふらつきながら帰宅していたといいます。
本編では、夫の強い嫉妬が、結婚後、監視や性的DVへと変わっていったRさんの苦しみについてお届けしました。
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では、病気になっても変わらない夫の支配から、Rさんが自分の心と体を守るために動き出すまでについてお伝えします。



