
今の日本は「子どもがほしいのに産めない社会」――。そう指摘するのは、ジェンダーやフェミニズムについて多数の著書を持つ作家のアルテイシア氏と、家族関係の仕事を多く手がけ、ジェンダーと憲法に関心を寄せる弁護士の太田啓子氏。
2人は日本全国の学校から講師として呼ばれ、ジェンダーに関する授業を行う中で寄せられた、生徒たちの質問・疑問・モヤモヤを一冊の本にまとめました。本記事ではその書籍から、「子育ては自己責任」という考え方の問題点と、子どもを産み育てやすい社会に必要な視点について紹介します。
※本記事は書籍『男と女、どっちがずるい? 10代のジェンダー、49の疑問と悩み』(アルテイシア、太田啓子:著/集英社)から一部抜粋・編集したものです
「自分の意思で産んだのに…」自己責任論の危険性
Q.自分の意思で産んだのに、子育てが大変とか言うのは甘えているんじゃないですか。
アルテイシア(以下、アル):「自分の意思で産んだのに、子育てが大変とか言うのは甘えているんじゃないですか」と言う人もいるよね。出ました、自己責任論。
太田啓子(以下、太田):子どもも大人も、何もかも自分ひとりの責任でできている人なんていないでしょうに。どんな親のもと、どんな国に生まれるかも誰も選べないんだから。
アル:自助努力だけで解決して、国や社会に要求しない国民って権力者にとって都合がいいんだよね。お上に文句も言わないし、お上は何もしなくてすむから。
そういう都合のいい奴隷にさせられてることに気づいたほうがいいよ。
太田:何かを選択したら、それによって生じるどんな苦労や負担も引き受けなければいけないって、それで成り立つなら社会も政府もなくていい。
アル:いまの若者はオギャーと生まれた瞬間から新自由主義的な世界に生きているから、自己責任論を刷り込まれているよね。
稼いだもの勝ちの弱肉強食の世界で、負け組になるのは自分の努力不足だと洗脳されている。
あと「他人に迷惑かけるな教」も刷り込まれていて、ストライキやデモも「文句を言うな」 「迷惑かけるな」と叩いたりする。
謎の経営者目線、為政者目線とか言われてるけど、 「長いものには巻かれろ」が染みついてるんじゃない?若者だけじゃなく大人もそうだけど。
太田:すごく成功した人も、たまたま恵まれた環境にいたから才能や能力を発揮できたとも言えるので、すべて自力で獲得したわけではないんだよ。
アル:努力したくてもできない環境の人もいるから。貧困家庭に生まれて、塾や習いごともさせてもらえず進学もできない若者とか。
学費が無償の国々では「子どもは生まれる家を選べないから、国が子どもの学ぶ権利を保障する」って考え方なんですよ。自己責任を押しつける国とどっちが生きやすい?って話だよね。
太田:そうそう。それに、子どもがほしいと思って産んだとしても、自分の身体の変化とか子どもの発達や病気や障がい、何もかもを自分の意思でコントロールできるわけがない。
夫が激務とか単身赴任でワンオペ育児になってしまったり、産まれた子に難病があって、保育園に預けられず看病対応のために仕事を続けられなくなったり。
それを全部「自分が子どもを望んだんだから自己責任」と言うのはおかしすぎる。個人だけに押しつけず社会全体でなんとかしていこうよ。
アル:スウェーデンに移住した友達も、日本に住んでいるときは自己責任でなんとかしなきゃと思ってたんだって。
スウェーデンの女性は働きながら子どもを2人3人育ててると聞いて、どんなスーパーウーマンかと思ってたけど、いざ移住してみたら、頑張らなくても子育てできる仕組みになってることに気づいたと。
「保活」なんかしなくても保育園に全員入れるし、ほぼ手ぶらで保育園に行けば子どもに朝ごはんも食べさせてくれる。
育休はカップルで計480日とれて、子どもの看護のための病休が年間120日もとれる。会社勤めでも夕方4時には帰宅できて、育休をとると迷惑だなんて言う人は誰もいないと聞いて、天竺かと思ったわ。
太田:うらやましくて吐きそう……。日本だと子育ての大変さは個人の、とりわけ母親の自助努力ですませようとするのに、少子化の話になると「女性にもっと産んでもらわないと」みたいになるよね。
子どもを産み育てることは、個人的な幸福追求の側面と社会の持続可能性の側面があって、社会のために産むわけではない。
ただ結果として生まれた子どもが将来は働いたり税金を納めたりする。だから社会が子を支えることは別に恩恵ではなく、社会を維持する合理的政策でもあるはず。
アル:国のために産むわけじゃないけど、結果的に国のためになる。だから諸外国はもっと前から男女ともに働きながら子育てできる仕組みを整えてきた。
産みたい人が産める社会にするためには、社会がそれを支える必要があると気づいていたわけです。
太田:産む産まないは個人の自由、女性の自己決定の問題だけど、子どもがほしいのに産めない社会が問題なんですよ。
子育てに不安を抱かずにすむ社会になれば、産みたい人は自然と産む。女性差別的な社会を変えないまま少子化対策なんて不可能です。
アル:先進国の中では「女は子どもを産むべき」 「子育ては女の仕事」という保守的な家庭観の国ほど少子化が進んでます。家父長制の根強い韓国なんて、出生率が0.75で日本より低い。
私のまわりにも、産めるなら4人でも5人でも産みたいって女性や、シングルでも子どもがほしいって女性はいっぱいいる。
そういう人たちが安心して産み育てられる社会にすればいいんだよ。だけど保守的なおじさんたちが政治の中心にいるから、いつまでも有効な少子化対策ができないんだよね。
太田:国内でも都市部と地方の差が激しいよね。人口減少に悩む地方はいろいろ対策を考えているけど、女を産むための子宮として見ている感じがあるよね。
アル:そんなんだから若い女性が出ていくんだよ。 「女は男に養われて子どもを産めばいい」って価値観だから女性が自立できる仕事も少ない。
ある地方出身の女の子は「子どもを産まないなんて非国民だ」って言われたそうで、そりゃ逃げ出したくなるよね。
太田:地方の因習とか差別的な価値観に耐えられず都会に出ていく女性は多い。暮らしやすい環境だったら、若い人も地元に残って子育てしたいと思うでしょう。
事実婚でもシングルマザーでも、同性カップルでも安心して産み育てられる国であれば、子どもは増えることは証明されてるんだから、そういう社会にしましょうよ。
ここまでの記事では、子育てを自己責任にすることの危険性についてご紹介しました。つづく関連記事では、日本の大学入試で「女子枠」の果たす役割についてお伝えします。
つづき>>大学入試の女子枠は「逆差別」?東大の女子率はじっさい何割?ジェンダーの疑問に回答【アルテイシア×太田啓子】
■著者:アルテイシア
作家、頌栄短期大学非常勤講師。神戸生まれ。ジェンダー、フェミニズム、性教育、性暴力、毒親などをテーマに執筆、講演や授業も多数行う。全国でジェンダーしゃべり場を企画/出演。著書『だったら、あなたもフェミニストじゃない?』『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『生きづらくて死にそうだったから、いろいろやってみました』『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』『モヤる言葉、ヤバイ人から心を守る言葉の護身術』『フェミニズムに出会って長生きしたくなった』ほか多数。
■著者:太田啓子(おおた・けいこ)
家族関係の仕事を多く手がける弁護士。関心事はジェンダーと憲法。明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)メンバーとして「憲法カフェ」を各地で開催。著書『これからの男の子たちへ』(大月書店)が反響を呼び、 韓国 ・ 台湾 ・タイほかで翻訳出版。他の著書に 『100年先の憲法へ』(太郎次郎社エディタス)、 『いばらの道の男の子たちへ』(共著、光文社)。



