TOPPANホールディングス・大阪大学・がん研究会がん微小環境を体外で再現する3D細胞培養技術に関する論文が国際科学誌「Acta Biomaterialia」に掲載

 TOPPANホールディングス株式会社(本社:東京都文京区、代表取締役社長CEO:麿 秀晴、以下、TOPPANホールディングス)、大阪大学大学院工学研究科(以下、大阪大学)、公益財団法人がん研究会(所在地:東京都江東区、理事長:浅野 敏雄、以下 がん研究会)の3者は、3D細胞培養技術「invivoid(R)」を用いた、抗がん剤評価技術の共同研究を進めてきました。  このたび、がん患者の腫瘍組織のがん細胞から、「invivoid(R)」により体外に患者のがん組織を再現し、その再現されたがん組織を用いた抗がん剤評価の結果が、ヒト臨床結果と高い確度で一致することを示す論文が、バイオマテリアルに関する分野を扱う国際学術誌「Acta Biomaterialia」に掲載されました。


 今後、本研究成果をがん個別化医療に適用させ、2025年度に国内において「invivoid(R)」による、先進医療(※1)、また米国において2026年に「invivoid(R)」による臨床検査事業への参入を目指します。
背景
 がんの診断や治療が日々進歩する中、基礎研究分野では様々ながんと関係する遺伝子が解明・特定されつつあります。この知見をもとに遺伝子検査やがん患者の腫瘍組織を移植したマウス(以下、PDXマウス)を使った抗がん剤の効果判定検査などが行われています。しかし、遺伝子検査だけで抗がん剤を選択することが困難である点や、PDXマウスのコストが非常に高い点などが大きな課題になっています。また、2022年に米国FDA(U.S. Food and Drug Administration)が、医薬品開発においてマウスなど動物実験から非動物実験に移行していくステートメントを出すなど、非動物実験を実現する技術に注目が集まっていますが、複雑な構造と機能を持つがん組織環境の再現には課題があります。
 このような中でTOPPANホールディングスと、大阪大学大学院工学研究科の松崎典弥教授らは、独自のバイオマテリアルを用いて生体組織を再現可能な3D細胞培養技術「invivoid(R)」を開発しました。
さらにTOPPANホールディングスとがん研究会との共同ラボにて「invivoid(R)」により患者のがん細胞を体外で培養し、複数の抗がん剤を暴露して得られた効果と、実際に患者に同じ抗がん剤を投与して得られた効果との比較を行う臨床研究を2023年より実施しています。
 このたび当該論文に掲載した内容としては、上記臨床研究における基礎的知見となるがん患者のがん環境を「invivoid(R)」を用いて線維芽細胞や血管内皮細胞とともに体外に再現し、がん特有の現象である、血管新生や浸潤などの現象を再現した点が含まれます。さらに「invivoid(R)」で構築したがん組織に様々な抗がん剤を投与し、各患者の抗がん剤の治療結果と比較したところ、実臨床における薬剤の効き目と75%一致する良好な予測結果を確認しました。
 このことから、本技術が抗がん剤の効果を予測するがん個別化医療や医薬品開発に応用できる可能性を確認しました。

■ 本論文の特徴
1.がんの微小環境を再現
 がんの微小環境では、がん細胞だけでなくがんの周辺に存在する間質細胞(※2)も重要な役割を果たしていることが知られていますが、このような細胞を含むがん微小環境を簡便に生体外で作製する技術がありませんでした。今回、間質細胞を含む3D組織を作製できる「invivoid(R)」の独自手法を開発しました。また「invivoid(R)」により、微小血管の作製に成功し、その血管新生機序の一端を解明しました。これにより、血管の中にがん細胞が浸潤していく特徴的な様子(転移現象)を捉えることができました。

2.高い再現性
 「invivoid(R)」により作製したがん細胞と、既存の培養方法(2D)で作製したがん細胞を、同じ薬剤で3施行4種類薬効評価をした結果、既存の培養方法での薬効評価同様、高い再現性を示すことを確認しました。

3.高い臨床外挿性
 近年注目されている3D培養技術(での薬効評価と臨床結果を比較する研究は世界中で報告されていますが、臨床的相関の有無について一致した見解が得られていません。今回、患者由来のがん細胞を用いて「invivoid(R)」により体外に作製した「がん組織」に薬剤を投与して評価した結果と、実際の患者さんに対し投与された抗がん剤の臨床結果を比較し、その結果約75%という一致率を示しました。さらに、がん組織の生検組織をそのまま「invivoid(R)」で培養する初代培養可能性が確認できたことにより、現在進行中の臨床研究につながるがん個別化医療における応用可能性が示唆されました。

■ 3者の役割
・TOPPANホールディングス
「invivoid(R)」を用いたがん患者アバターの作製/評価
・大阪大学大学院工学研究科
研究統括/組織工学的観点から、がん患者組織の培養における「invivoid(R)」の改良改善
・がん研究会
がん患者から採取された腫瘍検体の残余分を用いた培養や、PDXマウスの作製と「invivoid(R)」に用いる試料の提供、および当該患者における薬物療法の効果等の解析等についての計画策定および実施

論文掲載について
掲載誌:「Acta Biomaterialia」
掲載日:2024年7月22日
著者:高橋 祐生、森村 吏惟、長山 聡、篠崎 英司、山口 研成、藤田 直也、北野 史朗★、片山 量平★、松崎 典弥★(★責任著者)
論文タイトル:「In Vitro Throughput Screening of Anticancer Drugs Using Patient-Derived Cell Lines Cultured on Vascularized Three-Dimensional Stromal Tissues」
URL https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1742706124002769?via%3Dihub

「invivoid(R)」について
 大阪大学の松崎 典弥教授とTOPPANホールディングスは2017年4月より大阪大学工学部に先端細胞制御化学(TOPPAN)共同研究講座を設置し、独自バイオマテリアルによる3D細胞培養技術に資する基礎研究を推進しています。「invivoid(R)」は生体に近い人工組織を簡便に作製できるため、がん個別化医療、薬効や毒性試験を含む創薬研究、再生医療、培養食料など幅広い用途が期待されています。
・紹介サイト: https://www.holdings.toppan.com/ja/invivoid/index.html

TOPPANホールディングスとがん研究会との共同ラボについて
 2019年2月よりがん研究会がん化学療法センター内に、TOPPANホールディングスと共同ラボを設置し、がん研究会の臨床的知見を得ながら、「invivoid(R)」による抗がん剤評価に資する臨床研究を推進しています

※1 保険診療の対象に至らない、先進的な医療技術等のうち、厚生労働大臣の承認を受けたもの。
※2 さまざまな組織や臓器において、構造の維持や環境の調節を担う細胞。
※3患者由来の細胞を用いて特殊なゲルに包埋して立体組織を作製する方法。

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以 上

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