[第18回]痴漢冤罪(前編)青年の自殺の真相は…
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青年の名誉回復が目的だ。
母親は会見で青年の死について、「提訴することで社会問題にしたい。支援をお願いしたい」と訴えた。
痴漢えん罪による自殺は悲劇的である。しかし、青年が「犯人」ではないことを同署が早い段階から知っていた証拠を入手した。にもかかわらず、同署は、「被疑者死亡」のまま、書類送検までしている。
遺族には誠実な対応、説明をいっさいしていない。この件に関しては、今週の「週刊ポスト」に「問題提起レポート」として、執筆した。
「痴漢」を疑われて、新宿署に「任意同行」をした後、事情聴取にあい、その後自殺をしたのは私立大学職員の原田信助さん(享年、25歳)。
09年12月10日午後11時過ぎ、JR新宿駅構内ですれ違った女性から「お腹を触られた」と訴えられた。
一緒だった男子大学生から暴行をうけた原田さんは、さらに駅員に押さえつけられた。
新宿署で長時間にわかる取り調べを受けた後、翌日午前5時30分すぎに新宿署を出て、向かった先は東西線早稲田駅。
ここは、原田さんが卒業をした早稲田大学があり、自宅にも、職場にも近くはなかった。駅のホームから原田さんは電車に飛び込んだのだ。
牛込署の刑事に対して、母親は、「自殺をする理由に心当たりはない」と話したために、「事故」として処理された。
しかし、その後、新宿署にいたことがわかり、なぜ、原田さんが新宿署にいたのかを調べ始める。
遺品にはICレコーダーがあり、その内容を聞くと、痴漢に疑われて、新宿署で事情聴取を受けている様子が録音されていた。
この取り調べによる精神的な苦痛が、原田さんの自殺の要因だったのかもしれない。そう思った母親は、真実を知りたくなった。
4月26日、母親は東京都を相手にし、国家賠償法にもとづく損害賠償請求を起こした。
同日、弁護士会館(東京・霞ヶ関)で開かれた記者会見で、母親は大事そうに原田さんの遺影を持ち、しずかに「息子の死を社会問題とするために、支援をお願いします」と訴えた。
争点はいくつもある。原田さんの110番通報の内容である一方的な暴行を受けたことに関して捜査していないこと、任意同行であるにもかかわらず帰宅や電話をさせないなど交番に不当に監禁したこと、黙秘権を告知していないこと、自白を誘導していること、被害届が出ていないのに痴漢容疑で送検したこと等だ。
しかも、同署では、「原田さんが痴漢事件の被疑者ではない」と早い段階から知っていた、と思われる証拠がある。
入手した資料によれば、原田さんが自殺当日の朝、同署を立ち去る時刻には知っていたのだ。
その資料とは「110番通報の開示記録」だ。
110番の内容や時刻、発信者が記録されている。110番通報は、警察側に1年間の保存義務がある。
これは、母親が東京地裁を通じて、証拠保全を求めていたものだ。そこには原田さんが110番をした詳細が書かれている。
それによると、原田さんの携帯電話から「12月10日23時27分」に通報を受理している。
捜査の結論としては、「痴漢容疑で本署同行としたが、痴漢の事実がなく」と記されている。
「現認した被疑者の服装と、服装が別であることが判明」ともあるのだ。
つまり、被害女性が痴漢を訴えたものの、痴漢と認識した相手と原田さんの服装が違うため、「人違い」と分かっていた。
確実に原田さんの無実を示すものだ。
しかも、「処理結果報告時刻」には、「午前4時30分」とある。
原田さんが新宿署を出る前に分かっていた。そのとき、「容疑が晴れました」などと一言でも声をかけていれば、原田さんも痴漢えん罪について悩むことはなかったかもしれない。
しかし、同署では何も告げずに、仮眠を取るように言った後、原田さんを放置する。
なぜ、この時点で原田さんに事情を説明し、謝罪しなかったのか。(続く)
《NewsCafeコラム》