[第18回]痴漢冤罪(後編)弁護士「警察は違法捜査のデパート」
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「警察官は、刑法で罪とすることに必要な構成要件をいちいち見ることはないが、『女性のお腹を触った』ことを、迷惑防止条例の痴漢とするのは、内容からして無理があると思ったのでしょう。
だから、原田さんを解放した。また、取り調べたのは生活安全課で、痴漢事件にはならないという苛立ちがあったのではないか。
(痴漢について無実と分かった後に)謝罪しないのは、原田さんに激怒されると思ったからではないか。
警察はあくまでも優位な立場でいたいですから」
もともと原田さんが「痴漢事件の被疑者」ではないと知っていた同署の対応もまずい。
それだけではない。原田さんの死後、同署は「痴漢事件の被疑者」として東京地検に書類送検したのだ。
原田さんを「痴漢事件の被疑者」とは認定できていなかったにもかかわらず、同署は一転して、原田さんを「被疑者」と認定した。
なぜ、原田さんは再び「痴漢事件の被疑者」として扱われなければいけなかったのだろうか。
母親が同署を訪れた際、原田さんが所持していたICレコーダーの提出を求められていた。
原田さんが、痴漢の容疑がかかっていた時に、新宿西口交番で監禁されていた時から死に至るまでの経緯が詳細に録音されている。この存在を同署では知った。
しかし、母親は提出しなかった。
このことが原因ではないか、と母親は考えている。なぜ、提出しなかったのだろうか。
「(事件の説明に関して)副署長と生活安全課長の言い分が違っていたので、おかしいと思いました。
そのため、翌日から、警察を訴えるための弁護士を探しました。
その矢先でした。私の動きを知ったのかもしれません」(母親)
今回の場合、痴漢容疑は「人違い」。それで終わりのはずだった。
開示記録でも分かるように被害女性が人違いと言い、被害届も出ていない。
そもそも「女子学生の腹部をつまむような感じで触った」行為があったとしても、迷惑防止条例違反の痴漢に該当するとも思えない。にもかかわらず、書類送検した。
清水弁護士は「警察にとっては、書類送検してしまえば、本当はコピーがあるとしても、記録は警察にない、と主張ができ、警察の失態を隠せる。証拠隠し以外のなにものでもない」と、警察の対応を批判する。
さらに、東京地検は「被疑者死亡」を理由に不起訴にした。
「不起訴」というのは、犯人かどうかを明確にしないという判断であり、グレーゾーンだ。
本人が死亡しているために、情報開示請求もできない。真相は闇に葬られる。
こうして原田さんを巡る警察の対応に関しては、公にされない状況になった。
いったい、警察は何を隠そうとしているのだろうか。
この事件は、新宿西口交番で事実上監禁されてから、原田さんが自殺するまでの経緯が、自身が所持していたICレコーダーに録音されていたことが大きな特徴だ。
このために、交番や署内での警察官との詳細なやりとりが明るみになった。
「当初、私は息子が自殺をするとは思っていませんでした。
だから、思い当たる理由はないと警察にも言い、『事故』として処理されました。
しかし、『暴行事件の被害者』を『痴漢事件の被疑者』として朝まで取り調べていました。
これは警察としてもまずかったのではないでしょうか。
また、駅構内の防犯カメラをチェックもしないなど、単純なミスを隠すためではないでしょうか」(母親)
ICレコーダーの音声記録によると、このほかにも数多くの違法捜査を指摘することができる。
母親は「ずっと息子の名誉を回復したいと願ってきた。これまでも息子の場合と同じようなえん罪事件が起き、亡くなっている人もいる。警察の違法捜査で被害者がでないようにしたい」と話している。
警視庁は「訴状が届いていないので、本件についてのコメントを差し控えたい」と回答した。
新宿署の行為が事実であれば、早期にきちんと謝罪すべきだ。
裁判で真相が明るみになることを願う。(終わり)
(※写真:原田信助さんの遺影を持ち、記者会見にのぞんだ母親(右)と代理人の清水弁護士)
《NewsCafeコラム》