【第四回:編集後記~Newsスナック】悲劇から学ぶ
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寒いと腹が減る。
20代の初めの頃、諸所の事情により食い詰めていた時期があった。
「食い詰める」を手持ちの辞書で引くと「借金をためたり、不義理や不品行などのために、生活できなくなる。暮らしにゆきづまる」とある。借金こそなかったものの、まさにこの辞書の説明とおり、自身の不義理と不品行によって私の暮らしはゆきづまっていた。貯金はわずかしかなく、職もなく収入のあてもまったくなかった。
寒い時期だった。
電気代を抑えるため暖房もつけられない。部屋の中でめいっぱい厚着をし、「ああ、この生活がいつまで続くんだろう?」と不安で不安で常に涙目。動くと腹が減るので着膨れでブクブクの格好でゴロゴロし、「まるでトド」というとトドに失礼なぐらいに情けない姿になっていた。
悲劇的な状況であった。ただ、人は悲劇から多くを学ぶ。その一つが「寒いと腹が減る」ということだ。
体温を作り出すために、人間はカロリーを燃やしている。体が冷えればそれだけカロリーの消費量が増え、腹が減る。当たり前のことではあるが、なかなかこの事実を実感することはない。この食い詰め状態の中で、私はそれを確かに実感した。
その頃の食生活はというと、ギリギリに腹が減るまで我慢し、我慢できなくなると100均で買った乾麺のうどんをブクブクに膨れるまで茹で、醤油をかけて食べる。といったものであった。名づけて「我慢の限界作戦」である。
「我慢の限界作戦」による食事サイクルは通常、約24時間に1回のペースで回るのだが、1枚セーターを脱いだりすると、食事サイクルが20時間ぐらいに早まったりする。
この事実に気付き、私は自分の身体に常に耳をすますことにした。すると寒いと感じ始めると同時に身体の中で何かが燃えている感覚を確かに感じたのである!人体の不思議!ミクロワンダーランド!である。
この発見に私は大興奮。毎日、毎日、身体に耳をすましては、身体の中で何かが燃える感覚を楽しんでいた。
「そんなことしている暇があったら仕事を探せ!」あの頃に戻って自分をブン殴ってやりたいが、私は約1ヶ月に渡って、そんなことをやり続けていた。当時の私は本当にバカだったのだ。今の1.5倍ぐらいはバカだった。
さて、今でも寒い時期にはカロリーの消費を見越して、たくさん食べるようにしている。悲劇から学んだことを人間は忘れない。寒いときは腹が減るのだ。食べて当然だ。
しかし、問題がある。今の私は食べれば食べるだけ、きっちり太るのである。贅沢になったのか、年をとったのか…。
もう食い詰めるのは嫌だ。
しかし貧乏でバカな若者だったあの頃も懐かしく、よい思い出だ。「ブクブク醤油ぶっかけうどん」が、ちょっと恋しくなった。
[編集後記~Newsスナック/NewsCafe編集長 長江勝尚]
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