レンズ越しに見た「被災地の現実」 | NewsCafe

レンズ越しに見た「被災地の現実」

社会 ニュース
先日、私たちNewsCafe編集部は、3月11日という震災から1年の区切りを前に被災地取材に訪れた。

津波により甚大な被害を受けた宮城県石巻市、南浜町地区。
記者兼撮影担当として同行した私は、取材前「どのように撮れば、被災地の現実が伝わるのか」と考えていた。しかし、その町に一歩足を踏み入れた途端に、その考えがいかに浅はかなものだったかを痛感させられる。

演出的な構図、写真のテクニック…そんなものは、そこでは不要だった。
ただシャッターを押すだけ。それだけで、悲しいほどの「被災地の現実」が切り取られる。

幼い子供が大事にしていたぬいぐるみ。家族のために毎日ご飯を炊いた炊飯器。誰かの大切な足として走り続けたバイク。
その上には、昨夜降った雪が薄く積もっている。

さらに歩みを進め、シャッターを切り続ける。

一階部分を失ったアパートにかかった新規入居者を集う看板。止まったままの時計。
ガラスのない窓にかかる未だカーテンは、その家の奥さんが選んだものだろうか。
津波の後の火事に見舞われた学び舎の中には、焼けずに残った賞状やボールが無造作に落ちている。

人のいない町に、人の暮らした記憶だけが、まだ生々しく跡を残している。
取材や観光目的の人の影はあれど、今「住人」が不在のこの場所は「町」としての命を失っているのだ。

私は、シャッターを切るたびに感じていた違和感の正体に気がついた。
それはまるで亡きがらにカメラをむけているような、底の知れない恐怖感だった。

その後、私たちは場所を移し、「銀だこ」や「銀の鈴」といった店が連ねる「ホット横丁石巻」を訪れた。
被災した方々からインタビューを聞こうと声をかけたものの、「私は被災者じゃないから」と前置きをしてインタビューを拒否された女性がいた。その女性は、こう続けた。「車一台を失くし、買い直したけれど、それだけだから」と。私たちからしてみれば、津波から逃げ、車を失ったという彼女はまぎれもない"被災者"だ。

けれど彼女は「家族や友人を失った人たちもたくさんいる。だから、私は被災者ではない」と言うのだ。

辛く悲しい現実を目の当たりにしてきた彼女の言葉は重かった。しかし、最後に彼女が付け加えた「私には家族も友人もいるから」と言葉が、希望を私に与えてくれた。

この土地に暮らす「人」のすべてを失ったわけではない。

長い年月がかかるかもしれない。解決しなければならない問題もたくさんある。
けれど、再び人が暮らし、この場所が「町」として息を吹き返すことは不可能ではない。

取材を終えた帰路、カメラに収めた写真を見返すと、シャッターを押しながら感じた恐怖は消えていた。
そして、一つの願いが胸をかすめた。

再び目を覚まし、「町」となったあの場所を写真に収めたい。
山と海に恵まれた、美しい町の写真を――。

[文/写真]中村みはる

《NewsCafe》

アクセスランキング

  1. アジア初進出「タイムアウトマーケット」大阪に2025年3月開業 粉もんに串揚げ、パフェ専門店等集結

    アジア初進出「タイムアウトマーケット」大阪に2025年3月開業 粉もんに串揚げ、パフェ専門店等集結

  2. 脳出血で療養中の清原翔、武田玲奈ら大勢の仲間に囲まれた最新ショット公開「愛されてるの伝わる」の声

    脳出血で療養中の清原翔、武田玲奈ら大勢の仲間に囲まれた最新ショット公開「愛されてるの伝わる」の声

  3. 星野源「紅白」歌唱曲に注目集まる「10年以上前の曲なんて」「弾き語り嬉しい」【第75回NHK紅白歌合戦】

    星野源「紅白」歌唱曲に注目集まる「10年以上前の曲なんて」「弾き語り嬉しい」【第75回NHK紅白歌合戦】

  4. 2024年最強運勢占いランキング576位から1位「星座×干支×血液型」を発表 今年最高にツイてるのは?

    2024年最強運勢占いランキング576位から1位「星座×干支×血液型」を発表 今年最高にツイてるのは?

  5. 「news zero」1月からの新パートナー3人発表 葵わかな・Perfumeかしゆか・小島よしおが加入

    「news zero」1月からの新パートナー3人発表 葵わかな・Perfumeかしゆか・小島よしおが加入

ランキングをもっと見る