「新型出生前診断」の深い闇
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新型出生前診断とは「妊婦から採血・血液中の遺伝子を解析することにより胎児の染色体や遺伝子異常を調べる非侵襲的検査」のことで、正確には,無侵襲的出生前遺伝学的検査、あるいは母体血細胞フリー胎児遺伝子検査・MPS法と呼ばれることがある。従来の「針による羊水採取検査」に比べて母体のリスクはなく、2011年より胎児染色体異常の診断が可能となり「医学的のみならず社会的にも大きなインパクト」を与えたのである。アメリカではシーケノム社が2011年10月から検査受託を開始した。当初は21トリソミー(ダウン症候群)が対象であったが,その後に18トリソミー,13トリソミーも追加されている。
日本では「全国15の病院・35歳以上の高齢出産・費用は20万円・血液はアメリカの検査会社に血液を送り検査・必要時間は2週間…」などの条件付きで2013年4月より検査がスタートしたのである。1ヶ月後の中間発表では『8病院で280組が検査を受け・結果が出た100組のうち1組が陽性』と言う事である。この検査はアメリカではポピュラーなものになり「検査会社は4社・合計検査数は50万件を超す」と言われている。
識者は『高精度の出生前診断法であるため「優生的な目的への応用」が危惧されている.感度,特異度からみる検査自体の精度はきわめて高いが,トリソミー21のローリスク群で計算すると陽性的中率は30%程度にし「ない.あくまでも確定診断ではなくスクリーニング検査と考えられるため,倫理的な問題の本質は従来の血清マーカーテストと同じ」と考えられる』と指摘している。
日本でも産婦人科学会は『十分なカウンセリングや情報なしに検査を受け中絶などをしないように』と警告している。世界的にも生命倫理の観点からさまざまな議論がなされているが「実際には一般妊婦からの検査に対する圧倒的なニーズ」があるため,高額な検査にもかかわらず広く普及しつつあるのが現状のようである。お腹の中の子供は「検査拒否」ができない。悩ましい問題であると思う。
[気になる記事から時代のキーワードを読む/ライター 井上信一郎]
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