受け継がれる暴力…東京農大ワンゲル部事件(前編)
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東京農大ワンゲル部事件
「なぜ部活で死者が出るのか?」
・「体罰」「しごき」…なくならない悪夢
昨年12月末、大阪市立桜宮高校バスケットボール部キャプテンだった男子生徒が体罰を苦に自殺した事件は、年明け早々から各種メディアで大きく扱われた。その後の調査で各部活動顧問による体罰・暴言が横行していた実態も明らかになり、橋下徹大阪市長の意向で「同校体育科の2013年度入試中止」が打ち出されるなど、大きな混乱に繋がったことは記憶に新しい。
バスケ部顧問だった元教諭・小村基は傷害と暴行の罪に問われていたが、今年9月、大阪地方裁判所から懲役1年・執行猶予3年の判決を言い渡されている。
この事件に限らず、いわゆる"体罰"にまつわる事件は後を絶たない。なかでもスポーツ部活動中の、指導者による暴行事件は枚挙にいとまがないと言っていいほどだ。何度も繰り返される同じ過ち…かつて「しごき」という言葉が年の流行語になるほどの事件が起こった。
<悪しき"伝統"の末路>
1965年5月、東京農業大学ワンダーフォーゲル部に所属する生徒が、部の合宿後に死亡する事件が起こった。亡くなったのはその年度の新入生男子であり、彼にとっては合宿が初めての登山体験だった。
山梨県で行われたその合宿は、夜行列車で現地に向かい、夜も明けぬうちから雲取山山頂を目指すという過酷な内容だ。キャンプを張りながら3日をかけて登頂、下山する行程は、登山初心者には非常に厳しかったことだろう…下山後に意識不明となり、入院先の病院で亡くなった。
しかし、司法解剖によって明らかになった死因は、登山による疲弊などではなかったのである。背中には直径15cm程度のえぐれらた外傷、眉間から鼻にかけては大きな打撲傷、特に下半身の打撲傷はひどく、下腹部からは出血…明らかな"暴行の痕跡"だ。直接の死因は、肺炎・肺水腫の併発による呼吸困難だったが、これは全身打撲で内臓が圧迫されたための発病と診断された。また、被害生徒と同じ1年生のうちふたりが重体、25人がケガを負っていた。
当初、練馬署は生徒間での集団リンチの線で捜査を進め、まずは同部の上級生である主将・副将を逮捕する。しかし、1年生を含む合宿参加者全員に事情聴取を行ううち、この事件の根底が見えてくるのである。凄惨な集団暴行殺害事件の首謀者は、部を指導すべき立場の監督…上級生のひとりは「自分たちも1年のときは同じ訓練を受けた」と話したという。
<なぜ"体罰"はなくならないのか>
いわゆるワンゲル…ワンダーフォーゲルという言葉はドイツ語で渡り鳥を意味し、本来であれば「山野を歩き、自然に親しみながら心身を鍛える」運動を指すものだ。登山が主目的の山岳部とは違う、自然散策に近いイメージが当時の学生に人気だったという。対戦型スポーツのように勝利を目指すわけでもなく、格闘技のように攻撃・防御の技術を磨くものでもない。怪我や事故すら少ないように思われる部活動で、新生活に胸躍らせた1年生が、暴力によって命を落とす…。遺族の感じた不条理はどれほどだっただろうか。
今回NewsCafeでは、事件を限定せず、数多い類似事件について「なぜ部活で死者が出るのか?」というテーマで広くユーザーのコメントを募集したようだ。当記事では賛同の多かった意見や印象的なコメントを紹介していきたい。
※コメント総数…114件
まずは賛同が多く集まったコメントから掲載していく。指導者の資質を問う声だけでなく、権威によって他人に危害を加えるように命令された時…いわゆる"服従の心理"に言及する意見も寄せられた。上記の事件で言えば、暴力を実行した上級生たちの心理だ。決定的な上下関係に生ずる集団心理…指導者の"権威"について考えさせられる。
■指導と体罰とシゴキと…その区別が着かない未熟な指導者が多い事と、あと昔から日本人は、精神論重視だった歴史が在るからね(やればできるって言うアレが)。話は少しズレるけど、フランスでは柔道が人気だけど、指導者になるための専門の資格審査があって、金メダリストでもバンバン落とされるんだってね。もちろん、指導者が黒帯である必要もない。競技者としての素質と、指導者としての素質は完全に別物なんだよ。日本人もいい加減、その事に気付かないと。[50代男性]
■部活動、特にスポーツ系の場合は指導者側も熱意を持つのは当然だけど、勝利至上主義が行き過ぎて、プレーのミスや試合で負けたなどの理由で、生徒に体罰、いや暴力を振るうのは大間違い。こうした失敗があるからこそ成功につながるのであって、そこを温厚に指導するのが指導者のあり方ではないでしょうか。また、炎天下で校庭に走らせて熱中症で死亡させたり、柔道の技で重い脳障害を負わせた事故が起きている現状を見ると、教師資質や安全配慮義務をもっとしっかり担っていかないといけません。[10代男性]
■部活に限らず、会社や家庭でもありますが、閉鎖された狭い環境で先輩や先生、上司という絶対権力を持った時、人は狂気に走りやすいです。「アイヒマン実験」で有名な心理状態です。この実験で学生を被験者にした大学教授の話は、何度も映画化しており有名です。この事件も、まさに心理状態がそうさせたのです。だから、この個人や集団だけの点と考えず、今も未来にもあり得る線と捉えることが重要です。知ってることで、同じような環境でも抑止力が働きます。決して他人事ではないのです。[40代男性]
また「体罰と暴行は明らかに違う」とし、節度と目的のある体罰はあるべきという意見も寄せられている。
(続きは後編へ)
[文・能井丸鴻]
《NewsCafeコラム》