震災遺構 国の支援策の不十分さ | NewsCafe

震災遺構 国の支援策の不十分さ

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復興庁は11月15日、「震災遺構」保存支援策を発表しました。東日本大震災で津波の被害にあった建物を保存するにあたって、国が財政的な支援をすることにしたのです。

復興庁が発表した「震災遺構の保存に対する支援について」によると、震災遺構のある市町村で、課題を整理した上で、1)復興まちづくりとの関連性、2)維持管理費を含めた適切な費用負担のあり方、3)住民・関係者間の合意が確認されるものに対して、復興交付金を活用する、というのが方針です。

そして、1)各市町村につき、一カ所までが対象、2)保存のために必要な初期費用を対象とする(目安として、当該対象物の撤去に要する費用と比べ過大とならない程度を限度とする)、3)維持管理費については対象としない、4)住民意向を集約し、震災遺構として保存するかどうか判断するまでに時間を要する場合、その間必要となる応急的な修理等について係る費用や結果的に保存しないこととした場合の撤去費用については、復興交付金で対応する、としました。

さらに、震災遺構が市町村の所有ではない場合は、市町村が維持管理・運営に責任が持てるような対処をすることを国に明らかにすることが条件となっています。

記者会見で「今回、震災遺構について、国が支援を出すということを決められた大臣としての思いを聞かせていただけますか」と聞かれた根本匠復興大臣は「あれだけの惨禍を後世に引き継いでいく、あるいは自然災害に対する防災意識を高めていく、あるいは防災教育が必要であると考える。その意味では、震災遺構については残すべき意味がある。これまでもいろんな議論があったが、国の支援について一定の方向性を出す必要がある。考え方の基本を示してほしい、あるいは国が支援してほしいということもあり、今回、その一定の方向性ということをお示しした」と述べました。

この方針について、根本復興大臣が記者会見で「かなりスピード感のある発表」とも述べました。しかし、震災遺構の数々が解体されたり、解体表明がなされるまで復興庁はなかなか結論を出せませんでした。解体を決める最も大きな理由の一つは、維持管理費を含めた保存費用をどのように捻出するのか?という点でした。

保存すべきかどうかが争点にのぼった、岩手県釜石市の鵜住居地区防災センターは12月に解体を決めている。10月に解体工事が着手されることになっていたが、遺族への説明会で、保存を望む声があがりました。そのため解体延期を発表していましたが、12月に解体工事を着手することになりました。

また、宮城県気仙沼市のJR鹿折唐桑駅付近まで打ち上がっていた大型漁船「第十八共徳丸」はこの発表までに解体されました。 市長は保存の意向を示していましたが、漁船の所有者が解体を決めました。事態が進行している中での発表は、少なくとも「かなりスピード感のある発表」とはいえません。むしろ遅くなったと言えるでしょう。

また、国の支援とはいっても、最も重要な要素である「維持管理費」は、今回の支援策には含めないとした点は大きい。震災遺構の重要性を認識しながらも、なぜ、維持管理費は対象としないのでしょうか。この点について、根本復興大臣は会見で次のように述べています。

「まず、遺構を活かした過去の同様の施設の保存については、自治体負担や寄付によるものがほとんどであって、今回の措置は異例のものであるということを御理解いただきたい。仮に国が維持管理費を負担するとなれば、実質的に国有の施設と同等の取扱いをするということになる。今回の支援は復興まちづくりを支援する復興交付金を活用して行うもので、津波の惨禍を語り継いで今後のまちづくりに活かしていく地域の財産として、市町村が責任を持って維持管理に当たってほしい。それから、一般に維持管理費というのは管理主体が負担するものでありますから、費用負担と管理主体が異なるとなると責任があいまいとなって、長期的・安定的な管理に支障が生ずることも懸念される。ということで、維持管理費については国が支援をしないという判断をした」

震災遺構の重要性を認識しながらも、費用負担は原則的に自治体負担という。ただでさえ、財政事情が厳しい被災地が独自で費用負担するとなれば、それだけで住民の合意形成に影響が出てしまうでしょう。これでは、実質的に、国は支援しないと言っているのとほぼ同じではないでしょうか。

東北地方のブロック紙・河北新報は「維持費除外に被災自治体戸惑い 震災遺構保存、国が支援策」(11月16日付)という見出しで記事では、「国が支援対象とするのは各自治体で一カ所だけ。維持管理費への支援はない。被災自治体は、保存の初期費用支援は歓迎する一方で、肝心の維持管理費への懸念は消えず、落胆は大きい」と記していました。

ただ、保存に向けた初期費用を国が支援することで、震災遺構について考えるチャンスが出来たことは事実です。その一方で、これまで解体された、あるいは解体が決まった建物等があったことで、相当の損失が出たことは間違いないでしょう。

もちろん、被災者感情、遺族感情はデリケートです。そのため、重要だからといって、単純に「震災遺構」を残せばいいというわけではありません。陸前高田市のように、犠牲者が出た建物などは解体をすると即時に表明したところもあります。

震災遺構については、当初から残すべきかどうかの議論がありました。そのため、保存について国がどのように関与すべきかを考える時間は十分にあったはずです。合意形成のあり方についても課題は多く、十分な議論があったとは言えません。解体するとしてももう少し時間は必要だったのではないでしょうか。そして、保存するか否かの判断に「維持費」が理由にならないようにできなかったものでしょうか。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中]

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