川崎市少年殺害事件で-考えるいくつかのこと
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これまでわかっていることでは、事件一ヶ月前にも目の周りに大きなあざがあったと友人が証言していると伝えられています。そのとき、所属していたグループの年上の少年の名前を挙げていたようです。グループは地元のグループで高校生や他の中学校の生徒も入っているようです。昔ながらの、ヤンキーグループといったところでしょうか。
こうしたグループによる殺害がどうかはまだわかっていませんが、過去を振り返ると、今回と同様に、地元のグループが一人のターゲットをリンチして殺害してしまう事件が繰り返しありました。その中でも、1999年12月に起きた栃木リンチ殺人事件を思い出します。
主犯格の少年(当時19歳、父親は栃木県警の警部補)は、日頃から周囲から金を巻き上げていました。そのうちの一人が、性格のおとなしい被害者を拉致し、サラ金や知人、友人から借金をさせていた。その後、ホテルに監禁、リンチを繰り返した。最終的には、被害者は首を絞められて殺され、山中に埋められたのです。犯人たちは死体を埋めた穴にコンクリートを流し込んだ。警察もなかなか動かなかったのです。
まだ確定していないためにこの段階で確定はできませんが、もし、友人グループの誰かが関与しているとすれば、栃木の事件と似たような構図にあるように思います。上村さんも人の良い性格で、なかなか反抗できないでいたようです。パシリにさせられていたとの情報もあります。グループ内ので位置は"最下層"だったように見受けられます。
こうした事件の対応では、学校の対応のみならず、初期段階の警察の対応もポイントになってきます。学校では担任が家庭訪問や電話対応を繰り返していたようですが、なかなか核心部分には踏み込めないでいたようです。
とはいえ、不登校の理由が、学校嫌いや精神的な理由ではないことは掴んでいたと思われるフシもあります。そのため、学校の対応として可能だったのは、司法的な対応だと思われますが、そうした場面にはスクールソーシャルワーカー(SSW)が適任ですが、市教委はSWWを派遣することはありませんでした。もちろん、SSWを派遣して、実際に何ができたのかはわかりません。しかし、考えられる手段の一つであるSSWの派遣をなぜしなかったのかは検証に価するでしょう。
また、今回も、名古屋の女子大生による殺人事件と同様に、インターネットには加害者と思われる実名や顔写真が拡散されています。少年法第61条は、「家庭裁判所の審判に付されられた少年」や少年のときに犯した罪により公訴を提起された場合、特定できる情報を報道等で掲載するのは禁じています。時折、週刊誌が実名報道をして、議論になるところですが、これまでの判例では、すべての実名報道を禁じているわけではない、と解釈できる内容になっています。
インターネットの普及によって、当事者や関係者の周辺にいる人たちが実名や顔写真を暴露できるようになってきました。マスメディアによる報道ほど、影響力はまだないかもしれませんが、こうした実名の暴露はあたり前になってきています。少年法の理念は現実として守られていません。
少年法による保護は、加害少年の更生を考えての実名報道の禁止です。しかし、どのような場合でも実名報道を禁止しているわけではないと解釈できる判例がありつつも、名古屋の事件では「週刊新潮」が実名報道をしました。しかし、その範囲は曖昧なため、その基準は何かという社会的な合意が必要になるのではないでしょうか。報道だけではなく、インターネットでの書き込みも含めるかどうかも議論すべきではないでしょうか。
[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中]
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