ネット家出の背景には?
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女子生徒と男をつなげたのはインターネットでした。具体的なやりとりはまだあきらかにはなっていません。インターネットと家出の関連でいえば、「家出掲示板」があげられます。1990年代の後半からインターネットを使った家出は珍しくありませんでした。情報や人脈を事前に得た上で家出をするというのは、それまでの家出とは違った形です。
インターネットを使いこなし、家出をしていた若者たちを取材したことがあります。なかには、中学生や高校生もいました。「家出」自体は犯罪ではありませんが、家出先になった相手方は、保護者に無許可で宿泊させることで都道府県の青少年健全育成条例などの違反に問われることがあります。また、やりとりの内容によっては、今回のように誘拐になる可能性もあります。
家出少女や家出少年を泊めようとする大人がいないわけではありません。何人かそうした大人の取材をしたことがあります。ある人は「かつて自分も家出をしたことがあり、家出をする子どもたちを見ていると、そのときの自分のようで、助けたいと思った」と言っていました。そのため、性的な目的がなく、自宅を家出少女・家出少年に"解放"していたのです。こうした大人をネット上では「神様」と呼んだりします。もちろん、家出少女・家出少年を性的ないたずらなどの目的で利用する大人もいます。
インターネットと家出少女と聞いて、思い出した事件があります。北海道・東京連続少女監禁事件です。この事件の逮捕者は、高校時代に「王子様」とおあだ名で呼ばれていたことや、連行時の服装が漫画「テニスの王子様」のジャージにそっくりだったこともあり、「監禁王子事件」とも呼ばれたりします。この「監禁王子」は、チャットで知り合った少女を上京させて、監禁していました。同様の事件を複数繰り返したのです。
ただ、今回は監禁されていませんでした。男の逮捕時、女子生徒は、男の自宅の3階にあった台所にいたといいます。けがもありませんでした。また、警察の調べでは、男は「家出したいと頼まれ、自分の家に住まわせた。誘拐には当たらない」と主張しています。しかし、未成年者誘拐の場合、相手が希望したとしても犯罪は成立します。
インターネットでの出会いがなかったら、今回の誘拐事件が起きなかったのか?と考えると、可能性は低かったと思います。三重県から直線距離で240キロ離れた高知県にまで行っているからです。一般の中学生の行動範囲を超えています。一方、インターネットがなくても、家出をしたい女子生徒と、家出を支援したい大人との出会いがあった可能性はゼロではありません。ただ、近隣にそうした人がいても、そうした属性を理解するのは簡単なことではありません。
今回の事件は、インターネットの出会いがきっかけとする見方も間違いではありません。しかし、女子生徒が家出をしたいと考えた理由を考えなければ、こうした事件の本質は見えません。家庭の問題、学校生活の問題、あるいは恋愛や友人関係、将来の進路のことだったのでしょうか....。悩みがあったとすれば、その話を聞く存在が必要だったことを意味しますが、今回は、家族も学校もその担い手にならなかったことを自覚すべきでしょう。
インターネットでの出会い自体を規制することが必要という意見もあるかもしれません。しかし、インターネットで知り合った友人を持っている子どもたちが徐々に増えてきています。実際にあったことがある人も少なくはありません。ならば、そうした出会い自体を否定することは現実的ではありません。
また、家出少女のほうにも非があるとの意見もあることでしょう。ネットで悩みを言える相手に出会うのは珍しくないのです。そうした現実を単純に否定しても解決にはならないことを知るべきでしょう。
[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中
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