相模原市、中学生自殺から考える児童福祉
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相模原市は2010年4月、政令指定都市になりました。80万人だった人口要件ですが、平成の大合併のときに、70万人に緩和されました。相模原市は周辺の4町と合併することで70万人の壁をクリアしました。しかし山間地帯の合併です。行政効率がよいとは言えません。ただ、今回の件に関連したことで考えると、児童相談所が設置できることになりました。
相模原市の児童相談所の問題は、今回に限ったことではありませんでした。昨年夏、一時保護所で、所持品検査をした際、職員が児童の衣服を脱がせたということで人権侵害が指摘されていました。
検証報告書によりますと、学習室で授業を受けていた学童女子を一人ひとり浴室の脱衣所に呼び、衣服を脱がせて確認していました。また、学童男子にも、子ども自身もしくは職員が着衣をバタバタと払う方法で実施したのです。児童からの要望や苦情を受け付ける意見箱の記入用紙の一枚が所在不明になったのが理由でした。
一時保護所は2014年4月に開設されましたが、「実務経験が豊富でなかったことから、経験が浅く、さらに専門的指導及び助言が十分に受けられる体制ではなかった」。また、職員間の情報共有と組織的対応については「担当職員全員が一堂に会する機会がなかったことなどもあり、職員間において情報の十分な共有が図れず、児童への統一的な対応がされない状況にあった」とまとめました。基本的なことがなっていなかったのです。
今後の対応としては、外部専門家によるスーパーバイズの導入、組織的対応のルール化、情報共有の強化、児童相談所全体の組織的な取り組み、などが提言されていたのです。これらの提言は児童相談所の運営全般にも適用されなければなりません。しかし今回のような事態を引き起こしてしまいました。ほぼ同じ課題ではないでしょうか。
児童相談所が取り扱う問題は多くあります。児童虐待の相談件数は増加しています。無理心中以外の虐待死例を担当した児童福祉司の受け持ち件数一人当たりで、13年度は「51~100件」が12カ所でもっとも多かったのですが、平均事例数は109.1件でした。201件を超える児相もありました。たしかに、児童福祉司が不足している中での対応に全く同情の余地がないわけではありません。しかし、目の前の子どものリスクを見極める力が衰えてはなりません。
私は、虐待に関する電子掲示板を運営しています。SNS全盛の現在、電子掲示板で虐待に関する書き込みは以前よりは減っています。しかし、内容としては、虐待の深刻さが増しているように見えます。管理人としては、より日常的な相談窓口として、学校のスクールカウンセラーや養護教諭、児童相談所をあげることがあります。ただ、そうした相談窓口がきちんと機能してないからこそ、または子どもの話を十分に聞いてないからこそ、ネットでの書き込みをしているようです。
政府は児童福祉司を増員する方針を決めました。人員が増えることは歓迎すべき点です。人員不足で子どもの話を十分に聞けないという本末転倒な状況が改善される可能性があります。ただ、いくら人員がふえても、子どもをどう見ていくか、または緊急性の判断をいかにしていくかが大切です。中学生の自殺の件は、そうした点が問われたのです。
そんな中で、児童福祉法が改正されようとしています。改正案第1条の「目的」に「子どもの権利条約の精神」との文言が入っています。これまで児童福祉法は「権利視点」が弱いことが指摘されてきました。児童相談所のみならず、児童福祉に携わる人たちは、子どもの権利を擁護する者として、自覚的であるべきです。
[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中
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