小金井女子大生刺傷事件 | NewsCafe

小金井女子大生刺傷事件

社会 ニュース
5月21日、東京・小金井市のライブ会場前で大学3年生の冨田真由さん(20)が刃物で刺されました。重体になっています。この事件について、様々な言説が言われています。一つは冨田さんのことを「アイドル」と呼ぶのか否か。もう一つは、SNSでのコミュニケーションで距離感が近く、勘違いをさせたのか否か....です。

まず冨田さんを「アイドル」と呼ぶのかどうかです。25日現在の表記で見てみると、アイドルとの肩書きで書いているのは朝日新聞、時事通信、日刊スポーツ、スポーツニッポン、産経新聞、フジテレビ、「アイドル活動をしていた大学生」は毎日新聞、共同通信、日本経済新聞、TBS、「タレント」は読売新聞、「芸能活動をしていた大学生」はNHK、日本テレビ、テレビ朝日などとなっています。「シンガー・ソングライター」としているのはいわゆるネットメディアがほとんどで、産経新聞は「アイドルとしてやってきたが、これからはシンガー・ソングライターでやりたい」と言っていたことを紹介しています。

私は一報を聞いたとき、「地下アイドル」をイメージしました。地下アイドルというのは、メジャーデビューをしていないアイドル、あるいはアイドルグループです。そもそも何をもって「アイドル」というのかは難しいところですが、本人の見た目や存在そのものの魅力を売りにしている場合はそれにあたることでしょう。一般にプロデューサーがいたりします。一方、シンガー・ソングライターの場合は、作詞作曲を自らこなす歌手を指します。

冨田さんの場合、ブログやツイッターでは肩書きは書いていません。アイドルの場合、地下アイドルも含めて、肩書きに所属グループ名が書いてあったり、アイドル活動のことがプロフィールに書かれていることが多いのですが、それらを読む限りでは、アイドルのような書き込みはあまりありません。また、アップされている写真を見ると、アイドルっぽさもありますが、それを強調しているわけではないようです。

4月25日のツイッターでは「昨日はありがとうございました!!新曲が3曲できたから、聴いてほしくって、全部やった笑 アンコールもありがとう。ちゃんと届いていたらいいな、伝わっていたらいいなぁと思います」とつぶやいています。新曲を自ら3曲も作ったという意味でしょうか。また1月13日には「ギター弾いて歌詞書いて、気付いたら朝になったから少し寝たよ」とあります。作詞作曲をしていたら朝までかかったということでしょう。シンガー・ソングライターらしさを感じます。もちろん、アイドルだからといって自作はしないわけではないですが....。

これらを見ると、「アイドル」「アイドルをしていた女子大生」よりは、「芸能活動をしていた女子大生」のほうが近いですし、「シンガー・ソングライター」のほうがより正確ですが、ツイッターでもブログでも肩書きがないし、「シンガー・ソングライター」として知られていたわけではないしょうから、メディアでは書きにくかったのかもしれません。ただ、こうしたライブハウスでの活動をしている人を一律に「アイドル」とするのも困りものです。

もう一つの論点、SNSがこうした活動をしている人とファンの距離を近づけたのか、という点です。SNSが誕生する以前も、芸能人へのストーカー行為は起きています。AKB48の川栄李奈さんと入山杏奈さんが握手会で襲われた事件がありました。元モーニング娘。の辻希美さんもストーカー被害にあっていました。吉永小百合さんも18歳のころ、自宅にピストルを持った男が押し入りました。美空ひばりさんもファンの女性に酸性の液体をかけられました。松田聖子さんは舞台にあがってきたファンの少年に頭を殴られました。中森明菜さんは生放送中に男に乱入されました。最近でも福山雅治さんの自宅に女性が侵入しています。このようにSNSがあってもなくても襲われることがあるのです。

たしかに、アイドル活動をしている人たちはTwitterなどのSNSでファンとの交流をするようになり、身近な存在です。多くのファンは節度ある距離感で付き合っているからこそ、そうしたコミュニケーションが成り立ちます。アイドルでなくても、SNSでの何らかの情報発信は距離を縮める効果はあります。しかし、距離が縮まったとしても、今回のような事件になるまでは相当な隔たりがあります。

今回の容疑者はプレゼントをしていたようですが、1月18日に「腕時計をプレゼントする意味を知っていますか?大切に使ってくださいね」、2月1日には「腕時計を送られたのだとしたら、少なくともあなたと誠実な関係を望んでいます、贈った男性が腕時計を大切にする人なら、あなたにも長く愛用できるモノを贈り、大切にしてもらいたのです。これは『だから、私との関係も長く大切にして欲しい』という意味。」(ママ)とあり、相当な支配欲があったことが容疑者のTwitter(現在は凍結済み)からは想像ができます。それと同時に本人のものと思われるブログには、「全部失っても逃げたいよ/どうでもいい人生/クソったれな人生/惨めなだけの人生/もう怒りでしか動けそうにない」とあり、自暴自棄でもあったようです。

もちろん、Twitterやブログの内容だけでは、実際に行動してしまうかどうかは未知数です。しかし危険を感じて、母親も本人も警察に相談しています。だとすれば、警察としても、警備すべき理由があったはずです。私は数年前から「ストーカー対策研究会議」に参加しています。逗子ストーカー殺人事件の遺族も発言していました。

逗子事件では一度有罪判決が出たのですが、保護観察中に殺人事件まで発展しました。警察も注意していたのに止めることができなかったのです。犯人は自殺していますので、遺族の怒りの矛先がどこへ向けばよいのかわからない状態です。遺族はその場で「厳罰化だけでは止まらない。加害者を知る必要がある」と話していました。加害者の行動様式の研究を積み重ねて、警察の捜査や保護観察のあり方、社会に出たときの受け入れの問題を考えていく必要があります。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中

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