「腎臓が悪いなら、肉などのたんぱく質を減らすこと」が”普通”だと思っていませんか? それ、いまや”古い常識”になっているんです。たんぱく質の摂取量が減りすぎると、自分の体の筋肉を分解して補ってしまうなんて悪影響も!
※本稿は『腎機能 自力で強まる体操と食事』(徳間書店)の一部を抜粋・再編集したものです。
努力が水の泡! たんぱく質を「減らし過ぎ」は、腎臓にも体にも悪い
「腎臓が悪くなったら、たんぱく質を制限する」。これは、多くの人にとって常識かもしれません。しかし、医学研究の進展によって、この常識にも修正が加わりました。
確かにたんぱく質を摂り過ぎれば、腎臓の大きな負担となります。たんぱく質が体内で代謝される際に老廃物を出します。これが血中尿素窒素(BUN)です。たんぱく質を大量に摂取すると、BUNが過剰となり、その排出のために腎臓の糸球体に負担をかけ、腎機能の低下が引き起こされます。
このため、腎機能がある程度低下してきたら、糸球体への負担を減らすために、たんぱく質の摂取を制限する必要が生じます。
ただその一方で、たんぱく質の摂取を極端に制限してしまうのも危険です。「アレを食べてはダメ、コレもダメ」と食事制限を厳格に進めた結果、食が細り、食事量が減ってしまうと、エネルギー摂取量が足りなくなります。
すると、体は自分の筋肉を分解して、エネルギー不足を補おうとするのです。筋肉というたんぱく質をエネルギー源として用い、不足分を補います(これを「異化作用」と言います)。こうして、結局、BUNが増えてたんぱく質を食べたのと同じ現象が体内で起こるうえ、自分の筋肉が減っていきます。
エネルギー不足から筋肉が減っていけば、高齢者ならば短期間のうちに運動機能が急激に低下し、容易にサルコペニアやフレイルに陥る可能性が高まります。サルコペニアやフレイルになれば、認知症の発症や寝たきりになる要介護状態がすぐそこまで迫っていることになるのです。
たんぱく質は、単純に減らせばいいものではありません。摂り過ぎも、減らし過ぎもいけないのです。
摂っていいたんぱく質量は人によって違うもの。身長や腎機能に合わせて計算できる
それでは、たんぱく質はどの程度を摂取すればよいのでしょうか。腎機能値(※)でいえば、ステージG1とステージG2の人は、たんぱく質の摂り過ぎだけに注意をすれば、普通に摂っていいでしょう。ステージG3a以降の人は、次のような基準(単位はg/kg BW/日)になっています。
【たんぱく質の摂取量の基準】
ステージG1・ステージG2 摂り過ぎに注意する
ステージG3a 標準体重1当たり 0・8~1・0
ステージG3b 標準体重1当たり 0・6~0・8
ステージG4 標準体重1当たり 0・6~0・8
ステージG5 標準体重1当たり 0・6~0・8
標準体重は、身長(m)×身長(m)×22で計算します。
例えば、165の人であれば、「1.65×1.65×22=59.895」で、標準体重は約60です。
最新の基準でも、G3a以降の人は、たんぱく質制限をする必要がありますが、最近では、その制限範囲のうちで、いちばんゆるい上限の値でよいと考えられるようになりました。
例えば、G3aの人で、標準体重が60であれば、1日に摂取できるたんぱく質の目安が、48〜60g(60×0.8=48、60×1.0=60)。いちばんゆるい値でよいので、60gまでたんぱく質を摂ってよいということになります。
※腎機能値:慢性腎臓病の進行度合いを表す。G1(GFRが90以上)腎機能が「正常または高値」の状態。G2(GFRが60〜89)「正常または軽度低下」。G3a(GFRが45〜59)「軽度〜中等度低下」。基準値の60未満になると、腎機能低下を指摘される。G3b(GFRが30〜44)「中等度〜高度低下」G4(GFRが15〜29)「高度低下」。自覚症状を感じる人が多くなります。G5(GFRが15未満)「高度低下から末期腎不全」と見なされます。人工透析が必要。
こうした数値を踏まえて、たんぱく質やエネルギーの不足に陥らないよう、きちんと食べることが大事です。食事量をしっかりキープし、体重や筋肉が減らないように気をつけましょう。
『腎機能 自力で強まる体操と食事』上月正博・著 1,760円(税込)/徳間書店
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