早産児の神経発達予後改善に新知見、名古屋市立大ら研究
社会
ニュース
この研究の背景には、「出生」という生体にとって最大のライフイベントがある。子宮内から子宮外へと環境が変化することで、生体にはさまざまな代謝変動が引き起こされる。しかし、「出生」が生体の発達過程においてどのような意義をもつのかは多くが謎に包まれている。ヒトを含む哺乳類の生後の脳には、側脳室の外側壁にある脳室下帯という領域に神経幹細胞が存在し、生後も神経細胞(ニューロン)を産生し続けている。この生後のニューロン新生は、ヒトにおいては1歳半ころまでには消失することが知られており、特に新生児・乳児期の脳発達に重要な役割を担っていると考えられている。
研究グループは、正期産マウスと早産マウスを用いて、脳室下帯のメタボローム解析とシングルセル遺伝子発現解析を行った。早産マウスの脳室下帯では、正期産マウスに比べて乳酸・α-ケトグルタル酸・グルタミン酸が高値となることがわかった。また、放射状グリアでは、正期出生にともなってグルタミン酸からグルタミンを合成する酵素(グルタミンシンセターゼ)をコードする遺伝子であるGlulの発現が上昇することがわかった。一方、早産マウスでは放射状グリアにおけるGlulの発現上昇が不完全であることがわかった。
さらに、正期産マウスと早産マウスにおける放射状グリアのGlulの発現を調節することで、mTORシグナルが変動し、神経幹細胞としての活性状態が変化することがわかった。正期出生にともなって、放射状グリアにおいてGlulの発現が上昇することで、mTORシグナルが低下し、神経幹細胞としての静止化が獲得されることがわかった。早産マウスでは、放射状グリアにおけるGlulの発現上昇が不完全であり、mTORシグナルが正期産マウスに比べて亢進した結果、神経幹細胞としての静止化の獲得が障害されることが突きとめられた。
最後に、早産マウスの出生後にmTORシグナルの阻害薬であるラパマイシンを投与すると、放射状グリアの静止化が獲得され、その結果、神経幹細胞の枯渇が防がれ、生後のニューロン新生が改善することが明らかになった。これらの結果から、適切な出生のタイミングでグルタミン代謝変動が起きることが、生後の神経幹細胞の静止化獲得に必要であることが明らかとなった。
この研究は、早産児の神経発達予後を改善させる治療法の開発につながる可能性がある。また、神経幹細胞の機能を活性化することによって、大人の脳梗塞などの治療法の開発にもつながることが期待される。研究成果は、Science Advancesに掲載されている。
《神林七巳》
この記事の写真
/