夫婦問題・モラハラカウンセラーの麻野祐香です。
モラハラで辛い経験をされた方々のお話を伺う中で、「男性が信じられない」「結婚はもうこりごり」と思う方が多くいらっしゃいます。モラハラが与えた心の傷は深く、簡単には癒えないものです。
しかし、今回ご相談いただいたCさんのように、心の傷を乗り越えて新たな一歩を踏み出し、幸せをつかむことができた方もいます。Cさんの体験談を通じて、再び自分を信じて進む力を感じていただければと思います。
モラハラで受けた心の傷。人を信用できなくなった私
「私は2度と男性と付き合うことはないと思っていました。ましてや結婚なんて考えるだけで恐ろしかったのです。どうせ優しい顔には裏がある、男性なんてみんなモラハラなんだ、一生一人で生きていくと誓っていました。」
結婚生活を送る中で経験したモラハラは、Cさんの心を深く傷つけるものでした。元夫は「お前は何もできない」「俺がいないと生きていけない」と言葉で攻撃し、Cさんの自信を奪い続けました。家の中では機嫌次第で怒鳴り散らし、物を投げつけることもありました。そんな暴力的な態度にもかかわらず、外では愛想よく振る舞い、周囲には「優しい夫」を装う元夫。その二面性が恐ろしく、Cさんはどこにも逃げ場がないと感じていました。
「夫のモラハラがどんどん酷くなり、私は勇気を出して周りに助けを求めました。そのおかげで離婚が成立し、夫と離れることはできたものの、その後も男性に対する恐怖心は消えませんでした。男性と話すことができなかったり、大きな声に過剰に反応して息苦しさを感じるといった症状が、日に日に酷くなっていきました。」
モラハラ被害者の心理的な後遺症や心の傷は本当に深いものです。時が解決すると言いますが、モラハラ被害者の心の傷はそう簡単に治るものではありません。以下に、具体的な心理的影響について解説します。
■モラハラが残す心理的影響
- 自己肯定感の欠如
加害者による継続的な否定の言葉によって、自分には価値がないと思い込むようになり、自尊心が大きく損なわれます。 - 不安と恐怖の持続
モラハラ加害者は、言葉や態度で被害者を脅し、支配しようとするので、被害者は「次は何をされるのだろう」という不安に常に苛まれるようになります。その不安が強く人を信じることができません。「また同じ目に遭うかもしれない」という不安から、新しい人間関係を築くことが困難になります。 - 他者への不信感
モラハラ加害者は、外面が良く、周囲からは「良い人」と見られていることが多いのです。そのため被害者は「人前では優しいふりをしているだけで、本当は信じられない」と他人を疑う癖がつき、深い人間関係を築けなくなります。 - 感情のフラッシュバック
モラハラを受けた経験が心に深く刻まれることで、似た状況や言葉を聞くだけで過去の記憶が蘇る「フラッシュバック」が起こります。特に、大きな声や怒りの表情を見ると、体が震えたり呼吸が乱れるなどの身体的反応が生じることがあります。 - 自己防衛的な行動パターン
モラハラを受けていた期間が長いほど、被害者は加害者の気分や行動を予測し、それに適応するために自分の本音や感情を押し殺すようになります。相手に合わせすぎる、自分の意見を言えない、といった行動パターンが形成され、無意識に過去の関係を繰り返してしまう傾向があります。 - 感情の麻痺
感情的な痛みに耐えるために、悲しみや怒りといった感情を麻痺させる傾向が見られます。これにより、嬉しいことや楽しいことに対しても反応が薄くなり、人生の喜びを感じにくくなります。
社内トラブルから守ってくれた男性との出会い
Cさんが勤務していた会社の新しい部署に、新たに本社からDさんが派遣されてきました。Dさんは同じチームの先輩として優しくCさんをサポートしてくれる存在でした。Dさんはどんな些細な質問にも親身に答えてくれる人で、仕事の進め方だけでなく、Cさんの緊張や不安を察して「無理しすぎないで。大丈夫ですよ」と声をかけてくれることが何度もありました。
ある日、Cさんがミスをしてしまったことにより部署が大騒ぎになりました。頭が真っ白になりただ立ちすくんでいたCさんに、Dさんがこう言いました。”自分を責めすぎないでください。誰でも失敗はするのですから、それをサポートするために仲間がいるのです。さぁ涙を拭いて、データを打ち直してくださいね”
「絶対に怒鳴られる、お前のせいだって罵声を浴びせらる、そう思っていたので本当に驚きました。そして庇うだけでなく、次に何をすればいいのかの指示をくれたことに感謝しかありませんでした。」
チームみんなで力を合わせ、ミスのカバーをしたことで、大事には至らずに済みました。退勤前、Cさんはみんなの前で「本当にごめんなさい、私のせいでご迷惑をおかけしました。」と泣きそうになりながら謝りました。
「するとDさんがすぐに『僕の事前チェックも足りなかったんです。このトラブルのおかげで、このチームの結束はさらに強まりました、みんなありがとう』とおっしゃってくださいました。その言葉でみんなも私を責めることはなく、笑顔で結果を喜び合えたのです」
Cさんの心にDさんの優しさが広がり、涙がこぼれてしまいました。
その後もDさんの優しい態度は変わらず、徐々にCさんはDさんを同僚としてではなく、男性として素敵な方だと意識をするようになりました。
CさんがDさんの言葉に心が動いた背景には、長年のモラハラ被害による心理的な傷が深く影響しています。
モラハラを受け続けると、怒られたり責められることが日常なので、「自分が悪い」と思い込んでしまいます。Cさんは自分を責める癖がつき、完璧にこなしても文句を言われるので、自分は何もできない人間だと思い込み、自分を責める癖がついていたのです。
そんなCさんにとって、Dさんの「誰だって失敗しますよ。でも、それで自分を責めすぎることなんてないんです」という言葉は、自分を認め、受け入れてもらえる初めての言葉でした。モラハラ被害者にとって、怖いと思っている男性からの「肯定の言葉」や「優しい態度」は、信じられない、インパクトを伴うものとなることが多いです。怒鳴られることや否定されることが当たり前だった日常の中では想像もできなかったものだからです。
「自分を責めすぎなくていい」というDさんの言葉によって、「男性は怖い、みんな怒鳴るものだ」という思い込みがはずれた瞬間でした。そして、同時にCさんは「自分を否定しないでいいんだ」ということにも気づいたのです。
本記事では、モラハラが及ぼす心理的影響の専門的解説と、夫にモラハラDVを受け離婚したものの、男性への恐怖が身体に染み込んでしまっていたCさんが、職場で優しいDさんに出会った実例をお届けしました。
続いての▶▶「『Dさんも豹変しないか心配』結婚前にモラハラを見極める方法をカウンセラーが伝授!リストに照らし合わせて判断して」
では、結婚前にわかるモラハラ男性の特徴について詳しく伺います。