『人生劇場』直木賞作家・桜木紫乃が「性愛ごと」描き出した父の人生に「込めなかったもの」とは | NewsCafe

『人生劇場』直木賞作家・桜木紫乃が「性愛ごと」描き出した父の人生に「込めなかったもの」とは

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『人生劇場』直木賞作家・桜木紫乃が「性愛ごと」描き出した父の人生に「込めなかったもの」とは
『人生劇場』直木賞作家・桜木紫乃が「性愛ごと」描き出した父の人生に「込めなかったもの」とは 全 1 枚 拡大写真
  

2002年に『雪虫』でオール讀物新人賞、2013年に『ホテルローヤル』で直木三十五賞を受賞した作家の桜木紫乃さん。25年3月3日発売の新刊『人生劇場』では『ラブレス』『ホテルローヤル』に続き桜木さんのルーツをより一段深く掘り下げます。作品について伺いました。

毎日毎日、ただひたすらコツコツと掘り下げ続けて「最後に見えるもの」

――私たちは性の話をどう子どもに教えるかというテーマにも注力しているのですが、女児側から男親へアプローチするのはハードルが高いなと感じます。

登場人物の一人なので、避けては通れないし避けようとも思っていなかったけれど、そこはおかしな感情をのせないのが仕事なんです。おかげでいろいろなことの答えが出ましたよ。中には実際に見てきて不思議だった部分もあります。たとえば親の喧嘩は毎日ありましたし、別れる別れないの話ならまだしも、殺してやる死んでやるという壮絶な喧嘩を毎日のように見てきました。そういう関係が回復した時期がふたりが40歳前後の頃にあったんですね。それが子どもに内緒で市内のラブホテル巡りをしていたときだと書いていて気づき、男と女って面白いなって思いました。

作中のそんな彼らに気づかれないように書いていく毎日、気づかれないのは私の大事なミッションです。気づかれてしまうと演技をしだすので、できるだけ静かにしています。書き手がこの小説の中で何かできるなんて思うのは傲慢で、ただひたすらコツコツ掘っては積み上げていくしかない。

ただ、私がやっていることって何なのだろうって思うこともあります。書き終われば書籍1冊にはなるんだけれど、本当に何なんだろうな。だから、「ちゃんと彫り上がってた」って言われるのがいちばん嬉しいです。物語はいつも、完全なかたちで硬い土の中に埋まっているような気がするの。

今も、編集さんに「私ちゃんと小説書けてる?大丈夫?」ってずっと聞き続けています。自信ないの、ずっと自信ない。しっかりとへそがあるかどうか。小説は日記じゃないから。すごく不安、いまも不安です。間違って掘ったら次の仕事がないと思って書いてる。

『人生劇場』大きく打って出たタイトルに「こめなかったもの」は

――そんな作品のタイトルに『人生劇場』とつけました。これはどのような思いでつけたタイトルなのでしょう?

今回は連載なので、タイトルは書く前に決めないといけなかったんです。「タイトルどうしましょうか?」って言われて、『人生劇場』がいちばんぴたりとくるなと思ったときに、これは最後まで書けるなって思いました。

タイトルを大きく「人生」と打って、「『人生劇場』に決めた」って、とある先輩作家に言ったら、「ベタな人生を描いてるんだからベタなタイトルだよね」、そのあと「村山(徳間書店担当編集)が好きそうだな」って言われました。先輩のおかげで決まったアサヒ芸能連載だったので、タイトルが決まったあとはのびのび書きました。

自覚はありますよ、こぶし。「こういうところ、いかにも桜木さんだよね」って言われがちなベタなところを、今回は敢えて削らなかったの。駒子のセリフ『天涯孤独の貧乏人、学も運もねえ一生だ』って、あそこの長い台詞は一文字も削らなかったな。好きなことを好きなように書けた長編でした。

――桜木節と言われるものは、こうして生まれ育った環境そのものが育てた何かだということですね?

デビュー短編集の私はもっと硬いのですが、かなり削っても桜木節がほのかに残っていたみたい。石井さん(文藝春秋社担当編集)によく笑われました。でもその桜木節にもこういうルーツがあってのことなんだ、父親の周りにいた浪花節な人たちに育ててもらったんだと本作で再確認できました。

母も父も親との縁が薄い人なので子どもの育て方がよくわからなくて、人任せにしました。私は自分の子どもは自分で育ててみたかったの。だから、サラリーマンの女房をやらせてもらってよかったです。

――恨みはこめていないんですね。比較的救いの薄い話であるにもかかわらず、上げも下げもせずニュートラルに読了感がよい、その理由が。

小説は博打に似てる。生業にした瞬間にどこかで博打性を帯びてくる。本当の博打を売ってるのは編集者で、私は黙々と書いているだけですが。世の中全部正解じゃん、そしてみんなバカじゃんって思いたい。「全員バカだけど全員愛しい」っていうのが好きですね。

存在するだけで人を幸福にする人っていると思うし、人の子として生まれれば、本質的にそういう存在なのだと思います。

まだ記憶がしっかしていた頃に母に訊ねたんです、「なんであんな壮絶な喧嘩をしながら、別れなかったの」って。すると「パパといるとなんていうか、面白かったんだよね」って。そのひとことを聞けてよかったです。いまは私の名前も、私がいたことも忘れているけれど、彼女と一緒に描いていた絵が完成したような不思議なひとときでした。本作『人生劇場』は『ラブレス』と対になる1冊です。

つづき>>>『人生劇場』直木賞作家・桜木紫乃、「親の生き方を肯定する」苦行を経て、どんな世界が見えてくるのか

『人生劇場』桜木紫乃・著 2,310円(10%税込)/徳間書店

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桜木紫乃(さくらぎ・しの)

1965年北海道釧路市生まれ。江別市在住。14歳の時、原田康子の「挽歌」を読んだことをきっかけに作家を志す。高校卒業後、タイピストとして裁判所の職員に。専業主婦時代に地元の同人誌「北海文学」で執筆を始め、2002年『雪虫』でオール讀物新人賞受賞。2013年『ホテルローヤル』で第149回直木賞受賞。北海道を舞台に生きる人々の性愛を描くことが多く、他にも代表作は『ラブレス』『家族じまい』など。


《OTONA SALONE》

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