こんにちは、再春館製薬所の田野岡亮太です。
私は研究開発部に属し、さまざまな商品に携わってきました。その過程で、たとえば漢方原料が土地土地で少しずつ性質を変えること、四季のうちでも変わることを知り、やがて人間の心身そのものが気候風土に大きく影響を受けていることに深い興味を持つようになりました。中医学を学び、国際薬膳調理師の資格も獲得、いまもまた新たな活動を続けています。
1年に二十四めぐる「節気」のありさまと養生について、隔週でここ熊本からメッセージをお送りします。
【田野岡メソッド/二十四節気のかんたん養生】
夏至が過ぎ、もう夏のまっさかりに入っています
夏至は、1年でもっとも日が長くて夜が短くなる日です。2025年は6月21日11時42分が夏至でした。
冬から夏にかけてだんだんと陽が満ちて、陽がピークを迎えて極まる一瞬が夏至。なのですが、東洋思想で大事な考え方とする陰陽論では「この世に存在するものすべては陰と陽から成り立っていて、互いが存在することで成り立つ」と考えます。陽が極まって陰がなくなる…というのは考え方から外れてしまいます。実際はほんの一瞬のできごとなのか、あるいは「陽の中には陰がある。陰の中には陽がある」とも言われるように、陽が極まっていてもほんのわずかな陰が存在しているのかもしれませんね。
この時期、恵みの雨が降り注いで作物がすくすく成長します。かつては入梅から梅雨が始まり、梅雨明けまでまんべんなくしとしと雨が降っていましたが、いまは環境が変わり、梅雨の期間後半に雨が寄っています。
6月末から7月頭にかけて梅雨の雨が集中しているので、雨に意識が集中してしまいますが、この時期は夏の盛りに向けて暑さがだんだんと増していく時でもあります。梅雨の湿気と暑さが同居する過ごしにくい季節になりますね。
この時季に旬を迎えるとうもろこしは、ここ熊本でもだいぶ育ち、早いところではすでに出荷されています。TOP画像は通勤経路で見かけたとうもろこしです。梅雨の時期、かつてならまんべんなく降っていた雨が、現代では期間の後半に偏って降ってしまうため、線状降水帯という現象もよく耳にするようになりました。「人間は自然の一部」という天人合一の考え方から「環境で起きていることは体内でも起きている」と捉えると、「現代の梅雨」はかつてよりも過ごし方に気をかけた方が良さそうですね。
5月病の進化系「6月病」、中医学的にはどう起きている?
つい先日、6月病という記事を見ました。最近そう言われ始めたのだなと驚きましたが、「5月病がもっと重くなった状態」や「責任感の強い方や管理職、仕事をあきらめる・手放すことができない方に多く見られる」などと表現されていました。中医学的に見るとどのようなイメージとなるでしょうか。
5月病について春にお話しさせていただく際、「ストレスを受けた時に、おなかの中で一手に引き受けてくれるのは肝の機能」というストーリーをよく紹介させていただきます。ストレスを感じ続けて5月病となってしまっている方が、そのままストレスを感じ続けると…“イライラ”した行動が顕著になる肝鬱(かんうつ)さんは、肝に熱が発生して煙が上がっている状態とイメージします。また、肝は全身をめぐる血の貯蔵プールの役割もします。その肝がイライラまで至る肝鬱(かんうつ)さんの身体の中では、たまっている血にも影響が及んで固まって動きが鈍くなる状態“瘀(お)”になります。つまり瘀血(おけつ)です。
ストレスからの鬱はいくつかのタイプ分けがありますが、肝の機能のグループには胆も含まれています。胆がストレスを受け続けた場合は…目に見えるイライラはない場合も多いですが、内に秘めた“沸々としたイライラ”を抱えられていることが多いです。胆も肝と同様に、ストレスを受け続けると胆にも熱が発生してしまいます。それだけでも通常の機能運行に影響が生じてしまいますが、胆では肝と違って痰(たん)が生じてしまいます。さらさら流れる水のめぐりが滞ってゼリーのようになり流れが滞ってしまう痰です。
5月病では年度替わりのイライラを受けて肝の機能に影響が出てしまった。その状態が6月まで続いてしまうと肝あるいは胆の“鬱”になるほどの状態となってしまう…と読み解けるのかもしれません。
この時期に食べるといいもの、食べてはいけないものは
血と水の滞りは“温める”ことが基本です。ただし、ストレスを受け続けて肝鬱さん、あるいは胆鬱さんにまでなってしまっていると“熱”が発生しているので…温めることはなかなかやっかいなのです。まずは、熱がやっかいなものになってしまっている要因、梅雨の“湿”を取り去ってあげましょう。
おススメのレシピは「梅&らっきょうのひじきごはん」です。梅は流れる水が停滞してしまった痰を取り去る働きが、らっきょうには身体の中の湿を乾燥させる働きが期待できます。さらに、ひじきは身体の熱を冷ます働きと心の生理機能を正常に導く働きが期待できます。肝の機能に火がついたケースでは、多くの場合が心に飛び火した症状が見られることが多いですので、ひじきの効能は嬉しい働きです。
作り方は、乾燥ひじきを水で戻し、しょうゆ・みりん(各大さじ2)を入ます。だしとしてさば節(大さじ1)を入れます。紅茶にも心の生理機能を正常に導く働きが期待できるので、炊飯する水を“紅茶”で代用しました。ごはんが炊けたら、薄切りにしたらっきょうの上にたたいた梅肉を乗せ、小ねぎを散らしたら完成です。梅の酸味とらっきょうの甘酸っぱさをひじきごはんに混ぜて食べると、梅雨時期でも食が進みます。
また、甘いものを食べると脳内にはハッピー物質が出ると言われるので、イライラすると甘い物を食べたくなったりしますよね。ただ、“甘い”という味は“ベタベタする・湿をためやすい”などの働きにもつながります。
梅雨のジメジメした空気の季節にストレス続きで鬱状態になっている時は、“湿を取る”“身体の中をめぐらせる”ことが出来るように気遣いたいので、6月病と言われるようなストレス続きの時は少し甘い物は控えると身体が喜びます。ストレスがあると甘いものが欲しくなって、食べたくなります。湿と熱が体内に一緒にいるのはかなりやっかいですが、これを上手に乗り越えられると健康に過ごせます。
イライラする人にオススメの意外な食べ物とは?
いかと里芋のミニトマト煮もこの時期おすすめのひと皿です。中サイズの里芋(6個)の皮をむいて面取りします。いかは胴から足を外して食べやすいサイズに切り分けます。ボイルしたいか、冷凍したいかを使ってもよいです。鍋にだし汁500mlを沸騰させ、料理酒大さじ1・みりん大さじ1・きび砂糖大さじ1を入れて里芋・いかを煮込みます。約20分煮込んだ後、しょうゆ大さじ1.5とミニトマトを入れてひと煮立ちさせます。器に盛り付けて、刻んだ小ねぎを散らしたら完成。いかと里芋の相性にトマトが加わることで、ちょっと新しい風味が感じられます。
イライラする方には玉ねぎがおススメです。玉ねぎを1cm厚の輪切りにして、フライパンで焼き目をつけます。この時に油は要りません。玉ねぎに熱が入ると、輪切り玉ねぎが解けてきます。解けたら加熱終了の合図です。チャック付きビニール袋に入れて、お酢とうこんを入れてもみもみしてください。冷蔵庫に入れて1晩すると、味が整って美味しく食べられます。気のめぐりを良くして、水のよどみである痰を取り除き、身体の中の湿を乾かしてくれる。そんな優れモノです。