更年期障害の「ホルモン補充療法」で「乳がんになる」はウソ?子宮筋腫がある人は使っていいの?素朴な疑問を専門医に質問 | NewsCafe

更年期障害の「ホルモン補充療法」で「乳がんになる」はウソ?子宮筋腫がある人は使っていいの?素朴な疑問を専門医に質問

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更年期障害の「ホルモン補充療法」で「乳がんになる」はウソ?子宮筋腫がある人は使っていいの?素朴な疑問を専門医に質問
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オトナサローネではホルモン補充療法(HRT)に関連する記事が有意に人気を集めます。自分の治療を自分主体で前向きに行いたい同世代がこれだけ大勢いるのは大変に心強いことで、私たちは加齢に負けずに過ごせるに違いない!……と前向きな未来への手応えを感じます。

「普通に患者として受診するにはそこまで知らなくてもいいのかもしれない」かなり専門的なHRT知識を、今回のガイドライン改訂に関わった東京大学 大学院医学系研究科 生殖・発達・加齢医学専攻 産婦人科学講座 准教授 平池修先生に教えていただきます。

日本はなぜHRTが普及しないのか?「乳がんリスクはほとんどないと考えていいが」

前編記事では2025年に改定されたガイドラインの変更点を平池先生にご説明いただきました。このようにHRTはさまざまな議論を行いながら利用されているのですが、そもそも海外に比べて日本はピルを含めてホルモン治療の後進国だと言われます。その原因は?

「米国ではHRT実施率は高いのですが、EUではそうでもありません。保険制度の違いのほか、大きいのは『WHI研究』の余波です。1990年代後半の米国ではHRTを気軽に行うトレンドがあったのですが、2002年米国でHRTの利益と危険性を試験したWHIの結果が報告され、冠動脈疾患と乳がんの大幅なリスク増大が指摘されたとたん、日本国内では新聞1面にドンと『乳がんリスク』と報道されました。結果、日本ではほぼHRTが停止してしまったのです」

しかしこのWHI研究そのものに問題が多数ありました。まず、WHIはアメリカ人女性の死因1位である心疾患はじめ慢性疾患の予防がテーマであったため、閉経後10年以上の女性(平均63.2歳)が主たる研究対象とされました。このため閉経直後の50歳前後の女性とは条件が乖離しました。また、当時の薬剤はエストロゲン製剤が結合型エストロゲン*2、黄体ホルモンが酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)*3で、エストロゲンのせいだと思われがちな乳がんは、実はMPAの黄体ホルモンに依存していたことがのちの研究で明らかになります。現在ではエストロゲン単独ならばむしろ乳がんリスクは低下することが知られています。

「その乳がんもハザード比は1.26倍ほど。むしろフライドポテトを週1回食べたほうが乳がんリスクが高いという有名なデータがあります。もうひとつ、フライトのたびに宇宙線を浴びる客室乗務員のリスクのほうが4~5倍高いというのも有名です。が、20年前に流布した危ないという印象がずっと残ってしまい、いまだに払拭されていないのでしょう。昔からマスコミは危険は煽るけれど訂正はしてくれませんよね」

申し訳ありません……しかし我々女性媒体は、2021年の「フェムテック元年」以来、かなり積極的に女性疾患、中でも更年期症状とその治療の啓発を行ってきました。

「実際にHRT実施率はじりじりと上がってきています。が、まだ人口の10%前後です。一般的に更年期症状は女性の半分以上が訴えると言われており、そのうちの結構な人がHRTで治療をするとレスキューされ得るのではと感じます。たとえば最近『メノポハンド』という呼び名が知られることで『手指が痛い』という訴えが増えています。婦人科でHRTで治る人もいるのですが、手指が痛いことで整形外科に行ったり、そこからアレルギー内科に回されたり、結果異常なしと言われて終わるパターンがまだまだ多いのです」

まだまだ「HRTは5年以内なら大丈夫だが、5年以上継続すると乳がんになるかもしれないので、終了しないとならない」と思い込んでいる人が多いそうですが、そもそもHRTに関係なく乳がんリスクは存在するため、検診を行うことは必須です。また、血栓リスクについては経皮剤、つまりパッチやテープ、ジェルを利用することで回避できます。

編集部注・薬剤名称では/*2プレマリン  *3プロベラ、メドロキン

「子宮筋腫がある人はHRTで大きくなるからやめたほうが」という声は?

平池先生、もうひとつ質問です。私を含め多くの人が子宮筋腫を指摘されていますが、更年期世代は妊娠を考える年齢でもなく、医師からも閉経だからそのまま様子を見ましょうと言われがちです。中には子宮筋腫が原因とされる過多月経に苦しみ、50代に入ってから子宮全摘出に踏み切った友人もいますが、我々はHRTは行ってもいいのでしょうか?

「まず、子宮筋腫とは『日常レベルで発生する良性の子宮の腫瘍』です。これまでHRTガイドラインに言及はありませんでしたが、今回はCQ204『子宮筋腫を有する女性にHRTは可能か?』A『増大に注意しつつ、可能である』が示されました」

子宮筋腫はエストロゲンと黄体ホルモン両方の条件下で大きくなると考えられています。

「閉経後には自然に退縮、つまり小さくなるとされており、妊娠希望がない場合はGnRHアナログを用いて閉経に持ち込むことがあります。リュープリンやレルミナなどですね。子宮筋腫がある方にHRTをすると、印象としてHRT3年目くらいにはサイズが落ち着くイメージです。筋腫摘出後にHRTを始めた場合の再発は例数は少ないものの認められていません。筋腫サイズ3がひとつの目安になりますが、筋腫を切除してからHRTでもいいのかもしれません」

子宮内膜症の既往またはり患者に対するHRTも子宮筋腫と同程度の推奨ですが、子宮内膜症はエストロゲン依存性疾患であり、黄体ホルモンの関与は議論が不足とされています。

「大きい筋腫がある場合はHRTは慎重投与ですが、いっぽうで女性ホルモンレベルを下げ過ぎると骨密度が低下し骨粗鬆症リスクが上がってしまいます。また、子宮内膜症と違って子宮筋腫では黄体ホルモンが増殖因子になります。ではこの黄体ホルモンによる違いは何なのか?など判明していないことはたくさんありますが、いずれにしても気をつけながら投与としています」

課題点・「HRTの適用はどうだろう」と思われている「境目」の項目がまだまだある

「ガイドラインの目的」の最後には「HRTほどその功罪が世界中で何度も検証され進化し続けている治療法は珍しい。このことは、取って代わる治療法がほかにないことを意味しているのである」と記されています。まさにその通りで、しかもまだ検証され続けているのですが、黄体ホルモンの挙動のように、まだまだ「どうだろう」という項目があるのですね?

「たとえば、片頭痛。体内のエストロゲンレベルを保つと片頭痛がよくなるという考え方があります。一方で、ピルは脳の血管に悪く作用するとも考えられています。頭痛は炎症を表しているという考え方ですね。閉経から長くたった女性にホルモンを投与すると血管に悪く作用することがあるというのはほぼ支持される考えですが、他方で片頭痛とホルモン補充療法の関係については現在も臨床研究はありません」

片頭痛はアンケートでもかなりの頻度で上がってくる内容ですが、なるほど、まだわかっていないことがあるのですね。

「ほかにも、たとえば従来子宮を切除した人には黄体ホルモン投与は不要と考えられていました。ところが、子宮内膜症を持つ人には黄体ホルモンそのものが効いている可能性があるため、子宮の有無に関係なく過去に子宮内膜症を患った経験のある人は両方使ったほうがいいという考え方があります。私も個人的にはそう思ういっぽうで、それを示したデータはない。こうした分野はまだまだ理論と実際の疫学的研究の間で合意がされていません」

ただ、どちらにせよガイドラインに記載された通り、更年期世代のQOLを上げることは確実です。

「更年期症状とは卵巣機能が低下してはじめて出てくる症状で、年齢の差こそあれすべての人に出現する可能性のあるもの。そしてHRTは自分の体の衰えをリバースできるひとつの手段です。50歳が近づいて月経が不規則になってきたら『私、更年期かもね』と思うことは難しくないと思います。これに限らず自分の体がどういう状態にあるのかの知識、つまりヘルスリテラシーを身につけることは快適に生きていくために必要なこと。ヘルスリテラシーを上げ、ぜひご自分の体に起きることを知ってください」

最後に平池先生からもうひとつ、お願いごとです。

「最近いろいろ研究しているのですが、私は更年期症状を自覚しているみなさんが病院に来院しない理由を知りたいと思っています。ぜひ教えていただけないでしょうか!」

【編集部より】平池先生の質問「どうして病院にこないのか」にお答えいただける方、こちらからご協力ください!

関連▶『更年期の「ホルモン補充療法」を考えている人が「知らなくても大丈夫だけど知っておいて損はしない」いちばん新しいHRTのお話って?

お話/平池修先生

東京大学 大学院医学系研究科 生殖・発達・加齢医学専攻 産婦人科学講座 准教授。医学博士。1995年東京大学医学部医学科卒業、2002年東京大学 大学院医学系研究科生殖・発達・加齢医学修了。2013年東京大学医学部附属病院講師を経て、2015年より現職。


《OTONA SALONE》

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