ひと昔前とは比べものにならないほど暑くなった夏、スコールのような大雨、台風の強大化、南海トラフ地震……自然災害への危機感が高まっています。みなさんは「いざ」というときのための「防災リュック」、どうしていますか?
災害発生後72時間は公助が期待できないため、「自己責任で生き抜く」ことが必要とされるそうです。「3日間生きるための防災リュック」になっているかと聞かれると……自信が持てません。
そんな中、備え・防災アドバイザー髙荷智也さんの新著『防災リュックはじめてBOOK』(徳間書店)が話題になっています。今までありそうでなかった「防災リュックに特化した本」!
今回はこの本の中から、防災リュックの作り方や入れるものについてご紹介いたします。
※この記事は『防災リュックはじめてBOOK』(徳間書店)から一部を抜粋・編集してお送りします。
防災リュックへ入れるものは「命を守る」装備と「生活をする」道具
防災リュックへは具体的に何を入れればよいのでしょうか。大きくは、命を守る装備と生活をする道具に分けられます。
まずは避難所まで無事にたどりつくための装備と、停電・断水時に体温を維持する装備が必要です。また、登山などを行う場合は衣食住の全てを持ち歩くことになりますが、避難所の場合「屋根と床」は使えるものと考え、その他の道具を準備しましょう。
市販の防災リュック・防災セットを購入する際にも、中身の確認と追加が必要です。一度も開封せずに本番を迎えた場合、避難した後に必要な物が足りなかった、という事態が必ず生じます。
ここでは防災リュックへ入れるべきものの概要をご紹介します。
≪入れるべきもの≫「命を守る道具」
【「避難中」に必要なグッズ】
まずは避難場所・避難所まで移動する途中で死なないための防災グッズが必要です。避難中に身につける装備品や、途中で情報収集をするための道具などが含まれます。
必要な装備品は、使用者・季節・時間・災害の種類ごとに変わり、一方発災前に事前避難をすれば必要な物の量が減ります。自分の場合は何が必要かを考えつつ、早めの行動で危険な状況を回避し、装備品の量を減らすことがポイントです。
【「避難先」で必要なグッズ】
続いて、熱中症や低体温症による被害を避けるために、避難先で体温を維持するための道具を準備します。
屋外の避難場所へ移動した場合は、夏の日差しや冬の寒さへの対策が重要ですし、屋内の避難所であっても停電・断水が生じている場合は、冷暖房設備が動きませんので道具で対処することになります。
地域だけでなく季節により重要なものが変わるため、シーズン毎の入れ替えが必要です。
≪入れるべきもの≫「生活をする道具」
【「寝具と衛生管理」に必要なもの】
避難所では、寝る場所があっても寝る道具が不足しがちです。特に避難者が多い場合は、備蓄品の毛布1枚を分けあう状況となるため、床に敷くマットや羽織るシート類が必要です。
また停電・断水が生じている場合は衛生管理も問題となるため、水のいらない歯みがきグッズ、携帯トイレやウェットティッシュなどを持参し、ライフラインを物で補うための準備が必要となります。
【日用品・生活用品】
日常生活で必要となる、ちょっとした小物や日用品も、持ち込む必要があります。
生活スペースを照らすためのLEDランタンや、支援物資・生活用品などを整理するための収容納品、貴重品を管理するための道具なども必要です。
避難先には、自分が持ち込まなかった道具はなにもありません。優先順位は命を守る道具が上ですが、最低限の生活用品も忘れずに準備をしておきましょう。
【飲料水・食料品】
避難所には配付用の飲料水・食料品を備蓄していますが、多くは主食のみであり、分量も3日間×3食分が配付されることは稀です。特に避難者が多い場合は、あらゆるものが不足します。
またアレルギーを持っていたり、食べ物に好みがあったりする場合は、全てを持ち込む必要があります。「何ももらえなかった」を想定し、潤沢でないにせよ生き延びられる量の水・食料を準備しましょう。
防災リュックは「非常持ち出し袋」と「3日分の生活セット」に分割すべき! それぞれの中身は?
1名分の「全部入り防災セット」を並べてみました。避難所まで移動するための装備、避難所で快適に3日間生活するための道具を、妥協せずに準備すると写真の様になります。
登山装備のようにも見えますが、小型軽量の登山用品は用いておらず、さらに停電・断水を想定し、水や食料の現地調達も考慮していないため、登山装備よりも物品数や重量は多くなっていると思われます。
特に目立つのが、写真右上のエアマットや毛布など、就寝環境を整えるための道具と、写真最前列にある3日分の水・食料・着替えなどです。この写真の道具を全てリュックへ詰め込んだ際の重量は13.5程度になります。
日頃からリュックを背負い慣れている方であればよいですが、そうでない方がこの荷物を積めたリュックを背負った場合、重量が重く避難に支障が生じる恐れもあります。
そのため、避難用の道具は複数のバッグに分割することをおすすめします。背負った際に楽に歩ける重さに制限をし、重要物品だけをいれた「緊急避難用の小さなリュック」と、避難所で生活をするための物資を詰め込んだ「生活用の大きなバッグ」です。
余裕がある状況、車両を使った避難などをする場合は全てを持ちだし、余裕がない場合は小さなリュックだけを背負って逃げるのです。
≪非常持ち出し袋≫
●緊急避難用の小さなリュック
持ち出せないと命にかかわる物、生活ができなくなる物など、大切な物を厳選して詰め込むリュックです。楽に背負って避難場所・避難所まで移動できる大きさ・重さにすることが重要ですので、詰められる防災グッズの量は人により異なります。
重たいリュックを背負い慣れていない方であれば5程度、体力と筋力のある方であれば20以上、試しに背負いながら量を調整しましょう。
●家族や子どもが背負うサブリュック
上記のリュックは、家族全員が使用するものと、メインで背負う方の装備を入れますが、家族が2名以上いる場合は「サブリュック」を人数分作成すると役立ちます。
入れる物としては、サブリュックを背負う人が身につける装備品、個別の寝具、着替え、飲料水・食料品、その他消耗品などです。
子どもがいる場合は、子ども用品を入れた専用のリュックを作
成するのもおすすめです。
≪3日分の生活セット≫
●生活用の大きなバッグ
テントや寝具、3日分の水・食料・着替えなど、「多いほど役立つが、なくてもすぐに死なない」道具は、スーツケースや旅行用のカバンなど、緊急避難用の小さなリュックと別に準備すると便利です。
避難時に余裕があれば、両方の荷物を持って行けばよいですし、まずは小さなリュックのみで避難、その後避難先から自宅へ戻り、大きなカバンを持ち込んでもよいでしょう。
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■BOOK:『イザというとき中身は大丈夫? 防災リュックはじめてBOOK 最適化アレンジで命を守る』髙荷智也・著
■著者 髙荷智也(たかに・ともや)
合同会社ソナエルワークス代表
備え・防災アドバイザー
1982 年、静岡県生まれ。「自分と家族が死ななための防災対策」と「企業の実践的BCP 策定」のプロフェッショナル。備え・防災・BCP 策定に関する、講演・コンサルティングで日本全国を飛び回る。大地震や感染症パンデミックなどの防災から、銃火器を使わないゾンビ対策まで、堅い防災を分かりやすく伝えるアドバイスに定評があり、メディア出演も多い。著書に『中小企業のためのBCP 策定パーフェクトガイド』(Nana ブックス)、『今日から始める本気の食料備蓄』、『今日から始める家庭の防災計画』、『食料備蓄はじめてBOOK』(徳間書店)などがある。