長年に渡って女性特有のトラブルに向き合ってきた小川先生に、更年期時期の女性へのメッセージをいただきます。今回は「どの段階で病院を受診するべき?その判断基準は?」。
【女性の身体、思春期から更年期までby小川真里子先生】後編
そろそろ更年期かなと気づくきっかけに、手指の痛みの自覚症状が増えています
ところで最近、「更年期に差しかかったので手指が痛い」という訴えを連続して聞きました。2022年に日本手外科学会が更年期ごろに起きる手指のきしみ、違和感、痛みを「メノポハンド」と名付けたことで広く知られるようになり、思い当たる人が増えたのだと思います。昨日は友人が指1本だけ痛いと訴えたのですが、ドアに挟んだせいなのかもしれないと(笑)。
「指が全体的に痛くなる人だけでなく、指1本の関節1つだけが痛くなるという人もときどきいるんです。手指の痛みは、関節リウマチとの区別をつけておいたほうがいいので、やはりいちどは病院を受診してほしいです」
更年期障害は除外診断といい、他に原因がないか可能性があるものを一つずつ調べ、なにもない場合にはじめて診断されます。手指の痛みはどの科に行けばいいのか悩む症状の代表格ですが、担当は整形外科やリウマチ外来。ただ、いずれの症状でも他科で「何もできないね、加齢だよ」「年相応です」というようなことを言われてショックを受けてしまう例も聞きます。
「産婦人科でもリウマチの血液検査をしてくれるところは多いので、最初に産婦人科を受診してもいいと思います。ただ、リウマチの診断は血液検査だけでするものでないですし、関節の変形はレントゲンがないとわからないため、疑いがある場合は専門科に紹介することになります。関節リウマチではないと除外できて、更年期のエストロゲン減少に関連していそうな場合、大豆イソフラボン成分のエクオールサプリを飲んでみるか、HRTでの治療です。HRTが効かない場合はエストロゲンのせいではなかったという確認にもなります」
手指の痛みと同時に、ほてり、気持ちの落ち込み、不眠、膣の乾燥感など他の更年期症状も自覚している場合は、更年期症状であろうと考えて治療に入ることもあるそうです。
「更年期症状は同時にあちこち不調が出がちなため、たとえば耳鳴りで耳鼻科へ、疲れやすいので甲状腺内科へと1つ1つ回って、最後に産婦人科という方がよくいらっしゃいます。めまいもぐるぐる回るならば耳鼻科ですが、ふわっとするものは産婦人科でもいい。いくつかの更年期症状を感じているなら、最初に産婦人科にきてみてもいいと思います」
どのくらいのひどさなら「更年期かも」と考えて受診していいのでしょう?
とはいえ、生活に支障があるならば受診してよいのはわかりますが、「たまにめまいでぐらぐらするのは支障なの……?」 「ホットフラッシュも支障は支障だけれど、言ってしまえばたかが汗。これで病院に行っていいの……?」、そんな声がたくさん集まっています。
「『この症状はないほうがいいな』と思ったら、もう我慢せず受診してください。ものすごく我慢を続けて仕事に行けなくなり、やっと来院という人もまだまだ多いのです。『この症状がないほうが日々がラクだな』くらいが目安でいいと思います。逆に、ある日1回だけほてりを感じて『とうとう更年期がきた!』と受診する方がいらっしゃるのですが、自律神経症状は疲れが原因で出ることもあります。症状が出るのを待ち構えて、きた!受診!とまではしなくて大丈夫です」
更年期は思春期と同様、全員が通過する人生の時期。同世代女性のおよそ半数が何かしらの更年期症状を感じる一方で、受診者は2%台にとどまるそうです。
「なのですが、更年期症状は必ずしも治療しなくていいのです。女性ホルモン値が下がったら全員治療というわけでもありません。なぜなら、ホルモン値は全員いずれ下がるから。ただし、骨粗鬆症予防のためにHRTを始めておくのはいいと思いますし、何かしら先々が不安ならば『HRTをやっておきたいので』と相談するのもよいと思います」
痛みや不調がどのくらい続く場合に受診を考えればよいのでしょうか。
「症状が1、2週間続けばたまたまではないと言えます。『更年期だからしょうがない』という我慢はしなくていい、我慢するような症状があるのなら受診してください」
そろそろ閉経なのかなと感じてから、どのくらいで閉経しますか?
さて、そろそろ閉経かなという目安が見えてくるのは、多くの場合で49歳、50歳くらいだと思うのですが、「閉経までどのくらいの時間があるか」はホルモン検査で予想できるのでしょうか?
「本当に女性は不便ですよね、いつ閉経か知りたいですよね。AMH、抗ミュラー管ホルモンを測定する場合もなくはありません。値が低い人はそろそろ閉経かもしれないですし、年齢相応の値ならば一般的な閉経年齢である可能性が高いでしょう。ですが、あと1年2年と思っていたけれど5年たっても閉経しないというケースもざらで、予測はとても難しいのです」
定期通院は急がなくていいとはいえ、月経が乱れ始めるタイミングでかかりつけの婦人科医を探し始めるというのはいいことですねと小川先生。
「なじみのここなら行こうかなという思える産婦人科を探しておくことはプラスです。あとは運動と食事を整えておくこと。私も人のことは言えないのですが、ちゃんと食事をとって体を動かし、健やかな暮らしを続けてください」
健やかさとは、自分にあった快眠方法、よいストレス発散の方法や、うまく休めるリラクゼーション方法を探しておく、というようなことも含むのでしょうか。
「そうですね。ひとりになって休む時間を持ちましょう、と言うと『無理です』と言われることが多いのですが、それでもできる限り自分の時間を持ちましょう。自分で言いながら、やっぱり私も無理かもと思ってしまいますが。過去にはアロマテラピーを勧めたこともありましたが、みんな香りを嗅ぎながら他の仕事を進めていたりして」
ごめんなさい、先生の正直な言葉にも笑ってしまいました。そうですよね、先生だってアロマテラピーで気持ちを切り替えたら仕事を始めてしまいそうです。そもそも女性は休む以前に、ひとりになるということが難しいかもしれないです。
「マッサージに行くと強制的にひとりになるので、それもいいかもしれません。が、時間もお金も潤沢に使える人は限られています。おっしゃる通り、ひとりの時間を作り出すことですら難しいので、いかに自分を休めるかを今から真剣に考えていってください。料理が気分転換になるなら料理でもいい、みんな共通でこれをやればよいという何かはありません。私は挫折しましたがヨガもいいです。こうしたひとつひとつのピースが、いざ更年期がしんどくなってポキリと折れそうなときにもつっかえ棒のように支えてくれます。マインドフルネス的に助けてくれるのです」
前編▶40代が「更年期障害を予防するためにしておいたほうがいいこと」は何ですか?専門医が解説
お話/小川真里子先生
福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 医学部産科婦人科学講座 特任教授
1995年福島県立医科大学医学部卒業。慶應義塾大学病院での研修を経て、医学博士取得。2007年より東京歯科大学市川総合病院産婦人科勤務、2015年より同准教授。2022年より福島県立医科大学 特任教授。日本女性医学学会ヘルスケア専門医、指導医、幹事。日本女性心身医学会 認定医師・幹事長・評議員。日本心身医学会 心身医療専門医・代議員。2024年4月から福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 特任教授。東京・JR五反田駅のアヴァンセレディースクリニックで、毎週金曜午前に完全予約制の更年期・PMS外来もお持ちです。